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異常個体

 上から下に、全部が俺に向けて降って来る魔術だ。さっきとは違い、様々な魔術が無数に放たれている。


「死んでも、殺す」


 俺は純白の地面を蹴り、上へと跳んだ。自ら魔術の群れに飛び込んだが、俺を覆う闘気のバリアが肉体を守っている。


「よぉ」


『ッ!?』


 空中で魔法陣に乗っている魔物。そこで止まれない程の勢いがあるが、すれ違いざまに大剣を振るう。しかし、紙一重で魔物は転移した。


「終わりじゃねえよ」


『ハヤスギル……ッ!』


 空を蹴って更に跳び、空中の転移先まで到達する。大剣を振るうが、また転移で逃げられた。


「やっぱそっちか」


『グッ!?』


 空中では転移先を読みづらいが、段々慣れてきた。今度はギリギリ大剣が当たり、胸元を切り裂いた。


「終わりだ」


『』


 傷を負い、集中力が乱れたのか転移が僅かに遅れた。そこを、斬った。


「俺の……勝ちだ」


 魔物の首が胴体から離れた。それから一瞬で頭を叩き潰し、胴体も破壊した。その瞬間、パリンと割れるような音と共に真っ白い空間が崩壊した。


「マジで疲れ、た……は?」


 元の場所に戻った俺の視界に映ったのは、絶望そのものだった。


『ククク、オドロイタカ?』


 そこには、殺した筈のクソ目玉が三体並んで立っていた。


「あー、これは……アレだろ。幻覚」


『ザンネンダガ、チガウ』


 魔物の触手が伸びて俺の首筋に迫る。闘気覚醒を使用している俺はそれに一瞬で反応して回避し、そのまま魔物の懐まで潜り込んで首を刎ね飛ばした。そのまま頭と胴体を潰す。


「違うなら、しゃあねぇな」


 こいつの動きや癖は感覚的に分かってきた。不意を突くのも、今ならそう難しくない。


「だが、三体だけじゃねぇな」


 神経を研ぎ澄ませ、周囲を見渡す。隠れている奴も含めれば、十二体。既に殺している奴も含めれば十四体も居たってことになるな。


「それで全部か? 纏めて相手してやるから出てこいよ」


 俺が言うと、隠れていた奴らも簡単に出て来た。


『カテルツモリカ?』

『アマリニモカワイソウダカラナ』

『ヒトツオシエテヤル』


 俺を囲んだまま魔物達は言う。


『オレタチハスベテノノウリョクトキオク、チシキヲキョウユウシテイル』

『ツマリ、オマエノチカラハモウハアクシテイル』

『アキラメテ、シネ』


 魔物達の言葉を、俺は鼻で笑った。


「俺の力を把握した上で既に一人やられてるみてぇだが、良くそんなに自信満々に話せるな?」


 俺の挑発に魔物達の言葉が止まる。一瞬の静寂、その瞬間に俺は駆け出し、魔物の首を刎ね飛ばした。


『バカ、メ』


 宙を舞った頭。その大きな眼球が俺を見て言った。その頭を潰すと同時に、俺の体を囲むように石の壁が展開される。


「この程度、足止めにも……ッ!」


 石の壁を砕く瞬間、空間が揺れた。不味い、そう考えるも間に合わず、世界の景色が入れ替わった。


「なるほどな……一体犠牲にして、俺をこの空間に誘い込んだか」


 残りは十一体。丙の判定が出たにしては随分温い魔物だと思ったが……やっぱり、そう簡単には行かねえよな。


「やるしか、ねぇな」


 恐らく、この空間はアイツらの身体能力も底上げしている。この空間内でどこまで転移させずに斬れるか分からない。ここだと、一撃一殺って程楽じゃない訳だ。それに、闘気覚醒も時間制限付きと来た。


「……やるしか、ねぇ」


 それでも、戦う以外の選択肢は残されていない。全員殺して、生き残る。それ以外には、無い。


「殺してやるよ、クソ目玉」


 俺は大剣を構え、闘気を研ぎ澄ませた。




 ♢




 もう、限界だ。


「ハァ、ハァ……ッ!」


 闘気覚醒はとっくに切れた。それどころか、体内の闘気ももう枯れようとしている。


「残り、三体……」


 大剣を握る手が震えている。奴ら、魔力切れは無いのか? まさか、この空間が魔力量すら補完しているのか?


『モハヤ、ゲンカイノヨウダナ』

『マサカ、ジュウイッタイモヤラレルトハオモワナカッタガ』

『シカシ、オマエヲキュウシュウスレバオレタチハヨリツヨクナル』


 マズイな。状況も不味いが、俺が負けた時の代償も不味い。話を聞いている限り、人間を吸収して個体を増やし、更にその人間の知識を全て吸収する。

 知識と言っても、単なる情報だけではなくその人間の技術すらも吸収できるようで、俺がこいつらに殺されれば闘気の扱い方を完全に学習される危険性がある。その上、協会の職員でもある俺の記憶を抜かれるのもかなり不味い。


「マジで負ける訳にはいかねえな、こりゃ」


 震える手で強く大剣を握り、残り三体まで追い詰めた上空の魔物達を睨んだ。


『ドウスルツモリダ? イマノオマエニ、ココマデトウタツスルシュダンハナイ』


「……クソッタレ」


 確かにそうだ。闘気覚醒が使えない今、あの空まで飛ぶ手段はない。この状況は、詰みに近い。


「誰かが、どうにかしてここに助けに来るのを待つしかねぇ」


 そもそも、ここが外から見るとどうなっているのかも分からないが、誰かがこの空間に気付いてくれることを祈るしかない。この魔物は、ヤバい。放置すれば人類に甚大な被害をもたらすだろう。俺を吸収すれば、その被害は加速する。


『サァ、オワリノトキダ』


 空に浮かぶ無数の魔法陣。この光景を何度見たことか。しかし、今が一番苦しい状況であるのは間違いない。搾りかす程度の闘気で、これを凌ぎ切らなければならないのだ。


「……来いよ」


 全部、捌いてやる。


『シネ、トクシュシュリョウシャ』

『テコズラセテクレタヨウダガ、ココマデダナ』

『ホロビロ、ホロビロ』


 振り落ちる魔術の雨。その一部は空中で溶け合って消えるが、それでも八割以上がそのままの形で俺に届くだろう。


「ヤバそうな奴は避ける。それ以外は弾く」


 それだけに徹する。さぁ、来るぞ。

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