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昇格試験

 スライムを狩り終え、俺は協会で換金とポイントへの還元を済ませた。前回の分も含めてかなりの量を狩ったのと、上位種も纏めて狩っていたのもあってそのまま六級への昇格試験を受けられることになった。


「三浦異界とは別の不気味さがあるな」


 目の前に広がるのは雄大な山。ここは山梨の北杜(ほくと)異界だ。六級以上しか入ることを許されない、少し危険度の高い異界だ。その理由は現れる魔物というよりも、そこが山だからだ。単なる登山ですら命の危険が伴う行為であるのに加え、そこに魔物が襲い掛かってくるのだから危険度が高いのも納得だろう。


「……そろそろ、来るか?」


 昇格試験というのは基本的に実地試験だ。六級以上しか入れない異界に試験官と共に入り、実際にその場で狩猟者としての活動が可能かを確かめる。

 そういう訳で、俺は指定された異界の前で試験官が来るのを待っているところだ。もう直ぐで時間だが……来たな。


「老日さんか? 早速で悪いが、俺は事務とか接客とか全然やんねぇからな……丁寧な言葉遣いとかは期待しないように頼むぜ」


 現れたのは協会側の職員というよりも、狩猟者の一人と言われた方が納得できるような男だった。背中に大剣を括りつけたまま軽々と動けるほど体格は大きく筋肉は付いており、覆われていない手や顔には少なくない傷が付いている。それに、感じられる雰囲気も戦士そのものだ。歳は三十かそこらだろう。


「あぁ、構わない。俺も敬語は苦手だからな。そっちの方が助かる」


「おぉ、そりゃ良かった。俺達、気が合うかも知れねえな」


 ニヤリと笑い、男は異界を指差す。


「面倒臭いのは嫌いなんでな。サクッと行って、サクッと終わろうぜ」


 男は頭の後ろに手を回し、軽い調子で異界に歩き出した。が、途中で足を止めた。


「っと、忘れるところだったな。俺は岩崎(いわさき) 七里(しちり)だ。元々は特殊狩猟者の一人だったんだが、色々あってこっち側になった。よろしくな」


「俺は老日勇だ。よろしく頼む」


 差し出された手を握り、挨拶を返すと、七里は満足気に笑って歩き始めた。


「良い手だな。大体の奴は手を見れば分かる。どんだけ努力してるか、研鑽を積んでるか、真摯に狩猟者に向き合ってるかってのがな。その点お前は、戦士の手だ。最近狩猟者になったって聞いてたが、握ったらすぐに分かったぜ。この道に足を踏み入れたのは最近じゃねぇんだろ?」


「……どうだろうな」


「あー、あんまり話せねぇ話題だったか? まぁ、無理に聞きはしねぇよ」


 遂に異界に足を踏み入れた。七里は特に注意喚起や説明をすることも無く異界を歩いていく。


「なんつーかなぁ、最近は碌でもないハンターが増えてんだよ。ハンターは確かに金を稼げる仕事だ。しかも、基礎的な知識や平均以上の身体能力、若しくは戦闘能力があれば誰でもなれちまう」


 少しずつ、地面に傾斜が付き始めた。山の異界だ。当然、登る必要がある。


「最近は情報も道具も充実してきてるお陰でハンターの死亡率も減って来てな……だからこそ、勘違いしてる奴が増えちまってる」


 七里の言葉に剣呑さが宿る。


「ハンターは楽に金稼ぎが出来るちょろい仕事だと勘違いしてる奴がな。異界は遊び場じゃねぇ。写真を撮るのも動画を撮るのも自由だが、実力が伴わねえ奴がすることじゃねぇ」


 気配がする。魔物が近いな。木の上だ。


「魔術、闘気、そして異能。若しくは銃器や高性能な武器。どれか一つでも扱えれば、最下級の異界で敵を狩るのは難しくない。どころか、ソロでも無ければ割と楽勝だろうな」


「……おい、狙われてるぞ」


 木の上から、猿のような魔物が見ている。恐らく、通り過ぎるタイミングで背後から襲ってくるだろう。


「だが、それで調子に乗ったら終わりだ。簡単だ、楽勝だ。だから、適当でも良い……そう思い始めた奴から足元を掬われる。そりゃそうだ。常に敵は本気で殺しに来てる」


 木の上から飛び掛かって来た猿の魔物を、七里は一瞥もせずに真っ二つに切り裂いた。


「俺も協会の職員だからな。そうやって死んだ奴を何人も見て来た。ヘラヘラ笑って調子に乗って、そのまま死んでいくガキ共。それを見てどんな気分になればいい? ざまぁ見ろって、ほれ見たことかって、そう思えれば楽だろうがな……虚しくてやるせない気持ちになるだけだぜ、マジで」


「……そうか」


 何故それを俺に話したのか、良く理解できなかった俺は取り合えず相槌を打っておいた。


「っと、悪いな。お前は珍しくちゃんとしたハンターだったからな。つい嬉しくなって話しちまった」


「それは別に良いが……俺はいつ敵を倒せばいいんだ?」


 さっきの魔物はこいつに殺されたからな。


「本来は異界での狩りの様子を数時間は観察する必要があるんだが……さっきの魔物もかなり早い段階で気付いてたろ? ぶっちゃけ、長々と観察する必要もねぇと思ってる」


「……じゃあ、終わりか?」


 七里は笑い、首を横に振った。


「流石にそこまで簡単に昇格出来るようなもんじゃなくてな。証明として映像を残す必要がある。これは一体だけで良いんだが、この異界の魔物を倒してるところを撮らせてくれ」


「一体で良いなら直ぐに終わりそうだな……アレで良いか?」


 俺は木の上で葉に紛れている魔物を指差した。

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