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地下空間

 異界の発生に際して生まれたという地下空間は蟻の巣のように広がり、それらは施設の地下や下水道などとも繋がっている。そう、書いてあった。詳しくは知らない。


「ダンジョンみたいだな」


 ダンジョンコアが無い以上、ダンジョンでは無いだろうが、魔物が跋扈する地下空間というのは、どうにもダンジョンを連想してしまう。


「しかし、酷い臭いだな」


 地上でも僅かに異臭がしていたが、その原因は地下だった訳だ。アンデッドが溢れている地下空間、臭くない訳ないが、態々この臭いを嗅ぎ続ける必要も無いので嗅覚は遮断しておこう。


「この量のアンデッド……これが異界か」


 異界の発生時に犠牲になった人達や、元からここに埋まっていた死体がそうなったという可能性もあるが、この異界は今年や去年発生したようなものじゃない。彼らが死体を元に発生したアンデッドだと言うのなら、狩猟者が居る以上、既にアンデッドの数は減っているのが自然だ。

 となると、アンデッドが多いのはこの異界の性質である可能性が高い。旧白浜にはオークやコボルトが多かったように、ここにはアンデッドが多く出現するのだろう。


「……ゴブリンも、かなり居るな」


 聞いていた話と少し違うのは、かなりの量のゴブリンがこの地下を歩いていることだ。それに、もう一つ不思議なことがある。


「ゴブリンとアンデッドは争わないのか?」


 普通、位の低いアンデッドは生者とあれば見境なく襲い掛かるはずだが、ゴブリンとアンデッド達は何故かお互いに不干渉を貫いている。


「まぁ良い、俺の目的はスライムだ」


 しかし、この異界の地下、最悪だな。臭い、汚い、危険と三拍子揃っている。アンデッドが多いことも含めれば、怖い、暗いも付いて来るな。


「おまけに、効率も悪そうだ」


 まともな金になるのはスライムだが、そのスライムも中々見つからない。


「……地下なら良いか。どうせ誰も居ないだろ」


 このまま地下を彷徨うのも億劫だ。俺は魔力を放出し、この地下の道を伝わせてスライムの位置を探った。


「意外と広いな。それに、正に蟻の巣だ」


 魔力による探知のお陰でこの地下の構造も把握出来た。蟻の巣と呼ぶのに相応しい構造だ。


「……人が居るな」


 この地下の最奥部、何人かの人が居る。しかし、俺の魔力に気付いている様子は無い……どころか、意識が無いな。


「あと、何か居るな」


 同じく、この地下の最奥部。彼らとかなり近い場所に何かが居る。アンデッドのような、人のような、妙な雰囲気だが、こいつは俺の魔力探知にも気付いているようだ。


「リッチに近いか? いや、それにしては中途半端だな」


 一応、確認しておくか。このリッチからは人の気配も強く感じる。面倒になると良くない。




 視界が入れ替わる。俺はそのリッチ擬きの背後に転移した。そこは、研究室のような雰囲気で薬品や機材が無造作に置かれていた。


「ッ、何者だッ!」


「何だ、見えるのか?」


 振り向いた男。その体は死人のように白く、生気の無い肌をしていた。通常のリッチのように骨だけの体とまでは行っていないようだ。


「貴様、さっきの魔力の……!」


「それで、この場所は何だ?」


 俺が尋ねると、男はぎろりと睨み付けて来た。


「白々しいぞ……国家の犬め。随分と嗅ぎ付けるのが早かったな」


「……まぁ、碌な奴じゃないのは分かった」


 俺が警察的な奴だと思ってるんだろう。そして、そういう機関にバレると不味いような施設なんだろう、ここは。


「その奥に居る奴らは何だ?」


「私がアンデッドやゴブリン共に命じて連れて来させたのだ。王への生贄とする為にな」


 なるほどな、ここのアンデッドやゴブリンを使役しているのか。それが理由で魔物同士が争っていなかった訳だな。それに……王への生贄、か。


「……王って、ソロモンか?」


「それ以外に王などいない。あの方が、唯一この世界を支配するに相応しい王だ」


 またソロモンか。どこに行ってもソロモンだ。


「何か勘違いしているようだが、俺は警察でも国家の犬でもない。ただ、偶然ここに辿り着いただけの特殊狩猟者だ」


「知ったことか。貴様が誰であろうと、ここに踏み入った時点で殺す以外の選択肢は無い」


 そうか。じゃあ、しょうがないな。


「どうせ、アンタも悪魔とか召喚するんだろ? 早くしてくれ」


「……悪魔の召喚法についてはまだ聞いていない。何者かによって悪魔が消滅させられた影響で、王は悪魔の召喚について少し慎重になっているらしい」


 ソロモンを信奉している割に、信頼されてはいないんだな。可哀想に。


「一応、聞いておくが……何人殺した?」


「一人殺せば、後は同じだ。一々数える程のことではないだろう?」


 そうか。悩む必要すら無いな。


「遺言くらいは聞いてやるが?」


「随分、自信があるようだな? あの規模の魔力探知に透明化、確かに只者では無いようだが……ただの人間である貴様では私には勝てん」


 そう言って、男は両手を広げた。


「『幽体化(エストラリーザ)』」


 その体が半透明に透き通り、浮き上がった。


「ククク、私は肉体から脱却した。貴様のように鈍重な肉の体には縛られていないということだ。当然、物理攻撃の類は効かない。分かるか?」


「あぁ。遺言は無いってことだな」


 俺は剣を虚空から取り出し、そのまま男の体を斬りつけた。

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