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異世界から帰ってきた勇者は既に擦り切れている。  作者: 暁月ライト


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瘴気の怪人

 夕暮れ時の東京を跳ね回る男が……いや、少年が一人いた。



「――――あー、面倒臭いな……」



 黒髪の少年は、いつものように文句を吐き出しながらビルの頭を蹴っては跳ね、東京の夕空を飛び回る。


「何で俺こんなことさせられてんだろ……マジで」


 少年の身体には、彼の気配を覆い隠す闇が纏わりついていた。その闇は彼自身の異能であり、彼に授けられた力の一片でもある。


「本当なら今頃、ハンターになって無双してた筈なのに……」


 少年の名は、黒岬通也。一般家庭に生まれ、平凡な時を過ごし……異界に呑み込まれ、その人生を大きく変容させられた人間だ。


「神様の使いっ走りみたいなことさせられて……ハァ」


 そして、堕ちた女神との戦いに際して神の力を得ることになり、今は天暁会勢力の一員としてその力を振るっている。


「……神の紙片を悪用してる奴ら、ね」


 黒岬通也に課せられた使命。それは、神の力を悪用せんとする邪悪な集団……魔科学研究会の調査及び解体だった。


「クソ面倒臭いなぁ……いっつもいっつも、何で俺が」


 黒岬がいつも忙しなく仕事を任されるのは、彼自身の有能さや勤勉さから……ではなく、その極めて高い能力を持ちながらも、厄介な立場に居ないからであった。

 黒岬は紙片によって力に目覚めただけの覚醒者であり、血筋やら役職やらで雁字搦めになっている上の者達とは全く異なる立場に居る。


「ぶっ潰してやるか。サクッと」


 黒岬はビルの屋上を踏んで宙を舞い、空の高く、雲の真下から東京の街並みを見下ろした。






 ♦……side:老日




 瘴気を解放したアルガの動きは、さっきまでとは見違えるようだった。


「ククッ、ハハハッ! どうしたァ!? その程度かァッ!」


 速い。それに、重い。こいつ自身の能力がより厄介なものに昇華している。防戦一方だった先程までとは異なり、積極的に俺に距離を詰め、蟹の鋏を振り下ろしながら無数の触手で俺を狙っている。炎や毒を使うのは無駄だと気付いて止めたようだが、段々と本気で戦うと言うこと自体に慣れて来たのか、動きが良くなっている。


「この状態の俺にさえ食らいつけるとは、人間にしては中々やるようだな……! だが、どこまでやれるかッ!」


 アルガが地面を踏みつけると、コンクリートの地面に大きく亀裂が走り、そこから染み出すように水が溢れ出した。

 続けて、その亀裂を埋め尽くすように大量の水草が生え伸び、四方八方から俺を捕まえようと迫る。


「ところで、一つ質問なんだが」


 俺は闘気をもう一段階解放し、あらゆる方向から迫り来る水草の群れを一度に斬り払った。


「アンタら、何なんだ? 異能を改造された人間って認識で良いのか? それとも、魔物やら何やらを利用して作られてるのか?」


 そういえば、さっきも聞いたなコレ。残念ながら無視されたが。


「言っただろうッ! 俺は怪物だ! 混成のアルガだッ!! 他の奴とは違うッ! 人間風情とはなッ!!」


 アルガの言葉と同時に足元が崩れ、そこから巨大な蟹の鋏が開いた。俺の体を挟む込もうとする鋏の片側を俺は咄嗟に鋏を蹴りつけ、無理やり開かせた。


「つまり、異能を弄ってる生物なのか、魔物を使ってる生物なのか。どっちなんだ」


 若しくは、どっちでも無いのか。俺は四方八方から飛来する触手を避けながら鋏の上から飛び退き、闘気を込めた踏み込みで一息にアルガとの距離を詰めた。


「俺のことを聞いても参考になるまいよ……俺は特殊例。何より、元から主体が人間では無いからな」


 アルガの体から瘴気が溢れる。それは無数の触手に纏わりつき、蟹の鋏と化した右腕にも纏わりつき、染み込んだ。

 俺の振り下ろした剣は、瘴気と融合した真っ黒い鋏によって弾かれた。


「魔物ってことか?」


「……俺は、異能が宿った魔性シダだ。魔物とも、また違う」


 一歩下がり、尋ねるとアルガは素直に答えた。魔性シダ。魔力によって変質した水生植物に、更に異能が宿った存在か。


「それを研究会の奴らに、別の異能を持った人間と混ぜ合わせられたことで今の俺が存在している。尤も、素材となった人間の意識など欠片も残ってはいないがな」


 そう言いながら、アルガは水色の髪を水草のようにうねらせた。


「で、アンタの異能は何なんだ? 今のところ、見えてこないんだが」


 蟹の鋏に変化したり、青く光る炎が噴き出したり、異能っぽいのはそれくらいだ。


「俺の異能は……取り込んだ水生生物の能力を模倣する」


 アルガの体から無数のシダの触手が生え、その先端が開くように分かれ、イカやタコの触手のように変形した。


「魔物の力は使えないのか?」


「……さぁ、どうだろうな」


 どちらともつかない答えを返したアルガは、腕を変化させて瘴気を混ぜ込んだ黒い蟹の鋏を持ち上げ、空に向けた。そこから無数の青白い光球が放たれ、弧を描きながら俺に迫る。


「俺を倒したら教えてやる」


「その時には、既に分かってそうなもんだが」


 言いながら、俺は闘気をもう一段階引き上げ、迫る光球を全て弾き飛ばした。

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