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異世界から帰ってきた勇者は既に擦り切れている。  作者: 暁月ライト


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始動

 危なかった。中継を作るやり方にしておいて良かった。アレは、確実にラインを辿って来ていた。既に幾つかの情報は取られているかも知れないが、俺にまでは辿り着いていないだろう。


「……使い魔での監視は駄目だな」


 幾つかアクセス出来る監視カメラを用意しておこう。この街に無数に存在する監視カメラであれば、流石に俺の存在を察知されることは無い筈だ。

 常に詳細な位置を把握することは不可能になるが、東京から動いていないことを確認するくらいは出来るかも知れない。


「老日勇に関してはこれで良いだろう。後は……他にも、嗅ぎ回っている奴らが居るな」


 警察等の公的機関は当然だが、結社や陰陽師を筆頭にかなりの組織や団体が動き始めている。その中にはソロモンの復活を阻止しようとする者も居るが、利用しようとしている者も居る。


「調べた限りでは、既に接触している奴らも居る」


 俺にではなく、ソロモンに直接だ。ソロモンも警戒しているのか、今のところ規模が大きすぎる組織には接触していないようだが、時間の問題かも知れない。


「……急ぐ必要があるな」


 ソロモンは力を取り戻しつつある。指輪はまだあの場所にあり、保管されているが……既に、その意思は自由に活動し始めている。

 今はまだ、大した魔術を使うことも出来ないだろうが、それでも出来ることはある。俺に魔術を教えたようにな。


「今、俺はソロモンにとって最も邪魔な敵の筈だ。指輪の場所を知り、最も多くの情報を握っている。俺とソロモンの目的が別であることも知っているだろう。だが、その目的が何かまでは知られていない」


 俺はまだ、利用価値がある。今のところ、まともにソロモンの復活に貢献しているのは俺だけの筈だ。ソロモン自身も色々とやっているようだが、まだ大きな動きは見えない。


「計画を早める必要があるか?」


 ソロモンが俺を切るのは時間の問題だ。不要と判断されれば直ぐに俺は殺されるだろう。その前に、計画を実行する必要がある。


「……やるしかないな」


 いつから、俺はこの道に落ちたのだろうか。


「決まってる」


 竜殺し、アイツが俺達を裏切った時からだ。






 ♦




 数日後、犀川から呼び出された俺は高校の前で待っていた。


「すみません、少し遅れました」


「いや、良い。それより、出来たのか?」


 犀川は頷き、俺に茶色い袋を手渡した。それを受け取り、中身を確認した後、俺はそこら辺で買ってきたリュックを手渡した。中には白虹石が入っている。


「例の石だ。一応、幾つか入ってる」


「おぉっ、これが……助かります」


 一先ず、これで取引は終わりだな。後はスマホを買い替えるとか、家を借りるとかだが……俺って、審査受かるのか?


「犀川。特殊狩猟者って、家の審査とかどうなるんだ?」


「んー、どうなんですかね。私もあんまり詳しくないですけど……なんかくれるなら、物件を用意するくらい出来ますよ。また西園寺さんに頼むことにはなりますけど」


 何かくれるなら、か。まぁ、もう今更だからな。物を渡すことに然したる抵抗は無い。


「じゃあ、頼む」


 俺は元々、高校生だからな。そういう手続きとか、一切したことが無いし、何より面倒臭い。他人に任せられるならそうしてしまおう。


「勿論、家賃とか敷金とかは払ってもらうことになりますけど、どのくらいなら払えるっていう目安はあります?」


「あぁ、分かってるが……そうだな、10万以内ならなんでも良い」


「おぉ、結構行きますね」


 まぁ、そのくらいなら余裕な筈だ。


「詳しい話が決まったらまた連絡しますね」


「あぁ、またな」


 俺は手を振り、その場を去った。


「……さて」


 何日か前に白雪たちの調査も入ったことだし、今なら協会に行っても面倒は無いだろう。そろそろ、等級を上げるべく動いても良いだろう。別に、一生あの異界で生計を立てることも出来るだろうが、流石に飽きる。位の高い異界にも行けるように等級を上げておこう。


「今日は……旧白浜異界とは別の場所に行くか」


 そろそろ、オーク達も可哀想だからな。


「ここから近い場所だと……あっちだな」


 スマホで検索し、行くべき場所を見つけた俺は姿を消して駆け出した。




 ♢




 神奈川の南側にある三浦異界、そこに俺は来ていた。


「……街、だな」


 元々は街であったその場所はその姿を大きく変えてはおらず、何となく不気味な雰囲気を醸し出していた。


「しかし、旧白浜より人が多いな」


 普通にしていても中々人と出会うことは無い旧白浜の異界と比べ、こちらはかなり人と遭遇する機会が多い。何なら、周囲を見渡せば一人は狩猟者が居る。街がそのまま残っている為、あの森よりも視界が開けているというのはあるかも知れないが、ここなら大声を出して助けを呼べば誰かは来てくれそうだ。


「……ゴブリンか」


 この異界の特徴としては、日の出ている時間帯はゴブリン等の魔物が現れ、夜にはアンデッド系の魔物が現れるらしい。


「一匹か」


「グギャッ!?」


 何でも、地下はかなり危険らしい。さっきは朝昼にはアンデッドは出ないと言ったが、地下に行けば朝昼だろうとアンデッドが大量に居る、また、地下にはスライムも多く生息しているらしく、地下に限れば五等級以上で無ければ生還できない難易度とも言われている。


「狙うならスライムだな」


 ゴブリンやゾンビの素材はあまり高くない。霊体系の魔物に関しては何も落とさないこともざらだ。


「良し、行くか。地下」


 俺は姿を消し去り、危険の張り紙が無数に貼られた入り口を通って地下へと向かった。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 都内で10万は少ないと思う
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