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異世界から帰ってきた勇者は既に擦り切れている。  作者: 暁月ライト


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怪物と化け物

 いつの間にか敵の裏を取り、上からナイフの雨を降らせた文月。こいつが一人だけ場を離れたことに気付かれなかったのは、こいつ自身の技術もあるが、俺の意識誘導によるところも大きい。流石に、ただ目の前で敵が離れていくのにも気付かないような間抜けでは無いだろうからな。


「ククッ、なるほどな。出来たコンビネーションじゃないか。俺達の意識を誘導したのは魔術か何かだな? いや、面白い。中々に厄介だ」


「失敗作では無いという貴方達の内、四人がやられたようですが……降伏するなら、今の内ですよ。全体に降伏を呼びかければ、一先ず命は取りません」


 アルガという男が敵のリーダー格であることに気付いた文月はそう呼びかけるが、アルガは鼻で笑った。


「四人がやられた、か」


 嗤ったまま口にする男。その背後で、ナイフに穴だらけにされた筈の四人が起き上がる。


「俺達を、人間風情と同じにするなよ?」


 アルガが地を蹴り、遂に俺に飛び込んで来た。その背後では、四人が文月に襲い掛かっている。さっさと片付けて救援に向かうべきかもな。



「――――俺は、怪物だ」



 アルガの体が、()()()()()。いや、そう錯覚するような勢いで無数の青い触手がローブを突き破り、俺に迫っていた。


「人間のような、下等生物では……無い!」


 良く見れば、その青い触手は無数のシダのような物が纏まって出来ている。しかし音速を超えて迫るそれは、避ければコンクリートを打ち抜き、地中から伸びて来る触手は背後や足元からコンクリートの地面を突き破って襲い来る。


「アンタら、怪人って奴だよな? 異能を使って作られてるのか? 元は人間って聞いたが、アンタはどうなんだ? そこら辺、詳しく聞かせて欲しいんだが」


「ッ、少しは動きが良いみたいだが……舐めるなよ!」


 目の前に迫っていた触手。それを構成する無数のシダが花開くように分かれ、俺を囲い込む檻のように広がった。


「捕らえたぞッ!」


 びしりとシダが閉じる。その中に居た俺は網に捕らえられるようにシダに拘束されそうになるが、剣で目の前のシダを斬り裂き、そこから前に飛び出して避けた。


「ッ! 俺の植物を……」


 どうやら斬られたことにショックを覚えているのか、目を見開いた男にそのまま距離を詰め、剣を振るった。


「見た目通り、再生するタイプか……面倒臭いな」


 真っ二つに断ち切った筈の男は、断面から伸びた植物によって融合し、再び元の姿を取り戻した。植物系ってとこで嫌な感じはしてたんだが、やっぱりこのタイプか。


「舐めるなよ……ッ! 余裕綽々のその面をッ、絶望に染め上げてやるッ!!」


 男の体から伸びる触手が俺に殺到する。が、俺はその全てを斬り裂きながら再び男に歩いて行く。


「ククッ、かかったなッ!」


「毒か。効かん」


 斬り裂かれた触手から飛び出した毒液を全身に浴びることになったが、特に問題はない。


「ッ、ならばァッ!」


 目の前まで到達した俺に、片腕を振り上げるアルガ。その腕が一瞬にして変形し、巨大な蟹の鋏に変形する。俺の剣を鋏で受け止めたアルガだが、鋏の全体にビシリと罅が走り、砕け散った。


「なッ!?」


 驚愕に目を見開くアルガ。その胸に剣を突き立てようとする俺だが、アルガの全身から燃え上がった青白く光る炎に剣が溶け、引き下がった。


「ふざけるな……化け物がッ!」


「自称怪物からそう呼んで貰えるなら光栄かもな」


 俺は文月の方を見やり、そこそこ苦戦しているようなのでもう終わらせることにした。


「このくらいデータも取れれば、ステラも満足だろう」


 俺は虚空から別の剣を引き抜いた。今度はただの鉄の塊では無く、炎熱に耐性のある赤い剣だ。


「何度も近付けると思うなよッ!!」


 アルガから伸びる無数の触手。それらの先端が変形し、全てが巨大な蟹の鋏となって襲い掛かって来る。圧倒的な物量だが、重くなった分で速度は落ちている。


「来るなッ!」


 青白い光がアルガの胸辺りから幾つか放たれ、ビームのように俺を貫こうとする。が、予備動作があった所為で避けるのは容易だった。

 そのままビームを躱し、触手を避け、鋏を弾きながら俺はアルガの懐まで距離を詰め、アルガの体から溢れ出した青白く光る炎に突っ込んだ。


「『冥導の刃(モータルブレード)』」


 紫色のオーラを刃に纏わせ、俺はアルガに振り下ろす。しかし、それが触れるより先に男は口を開いた。


「『瘴気解放(ミアズマモード)』」


 男の体から、瘴気が溢れた。それは一瞬にして刃を蝕み、アルガの体を両断するよりも先に崩壊させた。


「出たな……瘴気か」


 使うという話だったが、やっぱり使ってきたか。本来は生体を蝕む邪悪な力である筈のそれは、寧ろアルガの体を活性化し、強化している。

 魔術を使わなければ、面倒かも知れない。


「魔術はなるべく使わないようにはしてるんだが」


 人前だからな。特に、犀川も見ているこの場で軽率に向こうの魔術を使いたくはない。とは言え、再生を無効にする為の魔術は既に使ってしまったからな。今更って説もあるが。


「……闘気で良いか」


 俺は体内の魔力の一部を闘気に変え、新たに引き抜いた剣に纏わせた。

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