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異世界から帰ってきた勇者は既に擦り切れている。  作者: 暁月ライト


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エックスデイ

 あれから二日が経っても、敵は攻撃を仕掛けて来なかった。もう犀川を諦めた可能性も十分にある筈だが、何となくそうではない気がしていた。

 帰り道、十数名の護衛が道の先や周辺を守る中、俺達は呑気に話しながら歩いていた。


「もう直ぐかもな」


「? 何がですか?」


 首を傾げた犀川に、俺は言葉を捕捉する。


「敵の襲撃が、だ」


「老日さん、縁起でも無いことを言わないで下さい」


「いつ来るかとムズムズしているよりマシだろう。さっさと襲いに来てくれた方が、話は早い」


 俺の言葉に文月は眉を顰めていたが、犀川は頷いた。


「そうですねぇ、老日さん、と文月さんが居ますし、私が死ぬ心配なんて殆どゼロですからね。それなら早めに襲撃が来た方が色々と楽です」


「守り甲斐があるのか無いのか分からないこと言わないで下さい……」


 呆れたように溜息を吐く文月。初めは犀川に対しても割と堅かったこいつだが、打ち解けて来たらしい。


「そういえば、犀川様は何処で老日さんと知り合ったんですか? 随分と信頼があるようですが」


「ジャンクなものを食べたかったので、ハンバーガーを食べに行ったら居たんですよ。そこで色々あって話をして……色々あって今に至るって感じです」


「……驚くほど、何も分かりませんでした」


 分かったのは出会った場所だけだな。まぁ、それ以上を教える気は無いんだが。


「でしたら、どうやって強くなったんですか? 五級のハンターというのが真実であれば、ただハンターとして強くなったとは思えないんですが」


「普通に努力だ」


「……その努力の内容が気になるんですが」


「訓練して魔物を殺す、それだけだ」


 こいつに見せてる部分の強さだけで言えば、それが真実だからな。俺の全力という意味での強さなら、勇者としての能力に強く依存する訳だが。


「因みに、訓練というのは……?」


「剣を振って魔術を習うだけだ」


 闘気を効率良く運用する為の訓練として、また死線を潜るような訓練の中で何度命を犠牲にしたか分からない。が、簡潔に言えば剣を振って魔術を習っていただけになる。


「私も凄く興味はありますけどね、老日さんの強さの秘密」


「ということは、犀川さんも知らないのですね」


「知ってると言えば知ってますけど……どうやって強くなったのかは知りませんね」


 確かに、俺の能力を直接解析したこいつなら、俺の強さの秘密を知っていると言っても過言では無いだろう。とは言え、それは飽くまでも肉体的なという範疇だが。


「……何だ?」


 護衛同士の意思疎通の為に付けていたイヤホンから、マイクをオンにした時の音が聞こえた。つまり、何かしらの報告があるということだろう。


『こちら、西邊。通行予定のルートに敵が布陣している可能性あり』


「始まったな」


 話したそばからこうなるとは思わなかったが、どうやら敵は痺れを切らしたらしい。若しくは、準備を終わらせたか。


『そのルートは放棄し、ルートをBに変更します。探索部隊はBルートの安全を確認して下さい。その間、直衛部隊は犀川様と共に待機です。周辺の安全は私達で確保します』


 報告の後、直ぐに安治の声が聞こえ、指示が出された。直衛部隊というのは俺達のことだ。取り敢えず待機しているだけで良いらしい。


「ルートをカットして来ましたか……直接襲ってくるよりも面倒ですね」


 顎に手を当て、考えるような素振りを見せながら犀川は呟いた。


「他のルートが安全なら全く問題は無いですが、そうでない場合は……」


『ッ、こちら西邊ッ! Bルートにも敵影ありッ、現在退避――――ッ』


 イヤホンから流れ込んで来た報告に、俺達は顔を見合わせた。


「なるほど、厄介なことになりましたね」


「この様子だと、道は全部塞がれてそうだな」


「……西邊さんの身の安全が心配ですが」


 とは言え、独断で動く訳にも行かないだろう。俺は犀川の方に視線を向けた。


「『安治さん、恐らくですが他ルートにも敵が配置されています』」


『えぇ、確かにその可能性は高いです。となると、選択肢は残留して他の戦力を呼び込むか、どこかのルートに決めてそこを突破するかしかありませんが』


「『突破がお勧めです。戦力を分散させて置いている以上、動かなければそのまま囲まれて全戦力を相手にすることになりますが、こちらから動けば逆に戦力の薄い個所を突破して逃げることが出来ます』」


『分かりました。Dルートを突破します』


「『Dルートですか? まだ確認は出来ていないと思いますけど』」


『相手の思考を読むならば、突破を選択するのはA、B、C辺りであると思うでしょう。故に、戦力の薄いと予想されるDルートに進むべきかと』


「『ふむふむ、なるほど。ではそれで』」


 方針が決定すると同時に、護衛達の気配が動き出した。


『後は探索部隊の合流ですが……』


『こちら葉浦ですッ! 探索部隊、戦闘の末に三名が重傷! 現在、退避中! 重傷者を守りながらの逃亡となるので、本隊と合流するまで十分程度かかります!』


 出鼻を挫くような報告に、全員が足を止める。


『救援は必要ですか? 全員で集合して突破できる程度の敵戦力ならば、全員で集合してそこから進行します』


『ッ! いえ……こちらを追いかけている敵戦力は恐らく一部です!』


『どちらにしろ、探索部隊の人手を合わせなければDルートの突破も難しい……私だけで救援に向かいます。それまでの間、警戒部隊は周辺を警戒しつつ待機して下さい』


 安治が命令を出し、周辺から気配を消した。言葉通り、探索部隊の救援に向かったのだろう。


「……仕掛けて来るなら、ここだな」


 訪れた静寂が過ぎ去る中、俺は呟いた。

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