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異世界から帰ってきた勇者は既に擦り切れている。  作者: 暁月ライト


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神の力の一片

 平和な街の中に、また怪人が現れた。人語を介したり、人であるかのように話すこともある怪物。しかし、その行動は同じ人とは思えぬ程の凶行で、今までに沢山の人々を恐怖に陥れて来た。

 世間一般では単なる魔物の一種として認識されているその怪人達の一体が、また現れたのだ。


「グゥゥォオオオオオオオオオオオッッ!!」


 その姿は、岩の鎧そのもの。その鎧は上半身だけが大きく、下半身はただの人間並みだ。しかし、幾ら暴れ回ろうとそのバランスが崩れることは無く、巨大な腕を振り回して破壊の限りを尽くしている。周囲は何棟ものビルが崩れ、既に相当の被害が出ていることが分かる。


「うわ、本当に居ましたね」


『当たり前だ。私が嘘を吐く訳が無いだろう』


「別に、そこまでの信頼が築けたとは僕は思ってないんですが」


『だが、これで信用は出来ただろう。私が魔科学研究会に敵対する存在であるということについてはな』


 半ば呆れたように言ったのは、整った顔立ちだが若干童顔の青年……氷野雪也だ。彼らの拠点で話していた時、島羽が急に騒ぎ出し、銀子と金枝と共に指定の地点へ向かわされたのだ。


「良いから、やるわよ」


「そうねぇ、放っておいても被害は大きくなるばかりだからぁ」


 氷野の横から白銀のドレスを纏う銀髪の少女と、黒金のドレスを纏う金髪の少女が前に出る。どちらも既に変身済みで、仮面で顔を覆っているが、銀子と金枝だ。


「……そうですね」


 頷き、一歩踏み出した氷野の視界を小さな機械のようなものが飛ぶ。


「何か、機械のような物が飛んでいるのが見えましたけど」


『あぁ、安心したまえ。それは私の放っている機械だ。もし隠れた戦力が居れば面倒だからな。周辺を調査させている』


「……なるほど」


 こうして怪人を狩るのは初めてではないという二人の魔法少女。その身に危険が及ばないよう、最大限の配慮と警戒をしているという訳だろう。氷野は納得し、岩の怪人に向かって行った二人の少女を見た。


「『銀の腕(アガートラーム)』」


 怪人へと飛び掛かった銀子が空中で腕を振り抜く。すると、その横から蔦が全体に巻き付いた巨大な銀色の腕が出現し、岩の怪人を殴りつけた。


「グォオオオッ!?」


 岩の怪人はその岩の鎧の破片を撒き散らしながら倒れるも、直ぐに起き上がって銀色の魔法少女を睨み付けた。


「理性は無さそうね……仕方ないから、ぶっ飛ばすわよッ!」


「銀子、こいつ結構硬そうよぉ? 動きを止めてくれたら、私がやるわぁ」


 金枝の言葉に銀子は頷くと、目を瞑って両腕を胸の前でクロスした。


「『白銀の湖面、輝き砕け!』」


「グォオオオオオオオオオオッッ!!」


 そこに飛び掛かる岩の怪人。だが、銀子は動じることなく次の言葉を紡いだ。


「『銀の腕(アガートラーム)』」


 銀子が目を見開くと、そこにクロスした二本の銀の腕が現れ、飛び掛かった岩の怪人を防いだ。


「さぁ、ぶっ潰れなさいッッ!!!」


 銀の腕にぶつかり、地面に落ちた怪人。二本の銀の腕がその怪人を両方から押し潰すように掴みかかると、怪人は抵抗することも出来ずに動きを止められた。


「くッ、やっぱり硬いわね……ッ!」


「だからぁ、私に任せてよぉ」


 ゆったりとした足取りで、銀の腕に動きを封じられた怪人に向かって行く金枝は、岩で出来た兜のような頭にそっと手を触れた。


「『黄金の手(ミダスタッチ)』」


 ピシリと、怪人の頭に変化が起こる。まるでインクを落としたように、金枝の触れた箇所から()()()()()()()()()


「グォオオオオオオオオ――――」


 怪人の悲痛な叫びも途中で途絶え、あっという間に怪人の体は黄金と化していた。


「ふふ、私達も中々強いでしょぉ。どぉ?」


「何てったって、これまでに何体も怪人を倒してきたのよッ! 分かったかしら、後輩ッ!」


 にやりと笑う金枝と、胸を張る銀子に、氷野は冷静な顔で顎に手を当てた。


「これで、制御された力か……」


 ビルを崩す程の力を持つ怪人をも簡単に抑え込める力を持つ銀の腕。そして、触れたものを生命でさえ黄金に変えてしまう黄金の手。

 正に、神の力と言って相応しいような能力だ。幼い子供が持つには相応しくない、とも言える。


「ッ、それより早く皆を助けないといけないわッ! パパッ!」


『勿論だ。既に被害に遭っている人間は一か所に纏めてある。応急処置は済ませてあるが、命を救うには銀子の力が必要だ』


 銀子の声に通信が答えると、ふらふらと虫のように小さな機械が飛んできて、案内するように別の方へ跳んでいった。


「後輩ッ、アンタも付いて来なさい!」


「後輩になった覚えは無いんですが……」


 小さく文句を言いながらも、氷野は金枝と共に銀子の後ろを付いて行った。

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