指南
二試合目、ぶつかり合う両者は魔術と闘気とで攻撃と防御が幾度も入れ替わりながらも、最後には五慈の拳が奈美の腹部に直撃していた。
「やっぱり、タネが割れた後の勝負は近接側が有利だな」
「ですね。さっきの試合もそうでしたし」
そもそも、こいつらがもっと上のレベルだったなら、この距離で始まってる時点で魔術士側に不利がついてるんだが。
「……アイツら来るぞ」
「老日さん、アドバイスちゃんと考えましたか?」
教師と軽く話した後、こちらに駆けよって来る二人。
まさか、こんな終わって直ぐに走って来るとは思ってなかったからな。纏められては無い。が、大体は考えている。
「さぁさぁ、どうっすか! 私、勝ったっすよ!?」
「いやいや、一勝一敗だから。完璧に私の策略に乗せられて負けたの、もう忘れちゃった?」
張り合う二人に、俺は視線を文月に向けた。
「私から話せってことですか?」
「頼んだ」
文月はジト目でこちらを睨んだ後、アドバイスを待っている二人の方に視線を戻した。
「先ず、私が率直に感じたことを話しますが……無駄に会話をし過ぎです」
「そこ突っ込むのか」
戦ってる相手と話すのは楽しみの一つというか、それも駆け引きというか、俺は割とやるんだが……まぁ、真面目にやるなら話さない方が良いよな。
「五慈さんは兎も角、魔術士の奈美さんがぺちゃくちゃと喋っているのは勿体ないと言わざるを得ません。勿論、何か意図があって話しているのであればそれもアリですが……」
「いやぁ、どうしても友達相手だと楽しくなっちゃって……気を付けます」
「私も気を付けますっ!」
素直だな。若くて素直なのは、素晴らしいことだが。
「それと、五慈さんに関して言うなら……思考が少ないです。野生の勘で全てを突破しようとするのは止めて下さい。一試合目の最後の特攻も、正確に罠の位置を把握できている訳では無かったですよね? もう少し頭を使いましょう。例えば、地面に罠が敷いてあったことを考えて地面そのものに亀裂を入れるとか、それか魔道具に備わっていた大地の力を利用する能力で地面に干渉するとか、もっとクレバーなやり方はあったかと思います」
「な、なるほど……えぇと、半分くらい理解できなかったっす!」
……素直なのは素晴らしいことだな。
「……頭を使って戦いましょう、ということです」
「なるほどっす!」
一行に纏まった説明に、五慈はドヤ顔で頷いた。
「私はどうですかね? 魔術に関してのアドバイスも可能なら欲しいです……」
「奈美さんは戦術の組み立てはその歳で良く出来ていると思います。が、大技が少し雑ですね。あの炎の大波は、罠を大量に設置する為の時間稼ぎと目くらましの意味もあったかと思いますが、五慈さんが防御を固めながら突っ切ると言う選択肢を取っていれば時間稼ぎすら出来ない魔力の無駄遣いになっていました。それに、もう少しコンパクトで殺傷能力の高い切り札が欲しいですね。範囲は狭くとも、威力は高く発動に時間がかからない類の」
「ありがとうございます、参考になりました」
ぺこりと頭を下げた後、頭を上げた奈美は視線を俺にスライドさせる。
「……俺の番か」
奈美は、いや二人はこくりと頷いた。
「先ず、五慈から話すんだが……まぁ、文月の言うこともその通りだ。頭を使って戦えなんてのは当然のことだからな」
だが、と俺は続ける。
「勘で戦うのが悪いとは、俺は思わない。寧ろ、勘だけで動ける奴こそ戦士の完成形だ。そういう奴を相手にするのは、本当にどうしようもない気分になる。こっちの考えを見透かしてる訳でも無い癖に、勘だけでベストな行動を取られたら最悪だ。しかも、勘で動くってことは色々調べたり考えたりして最適解を導き出すのと違って、ラグが無い。常に最速で正解を出し続けられる戦士が最強なんてのは、当たり前の話だろう」
「おぉっ、おおぉぉぉ!」
両拳を握り締め、興奮したように唸る五慈。
「さっき罠を全部擦り抜けて行ったみたいに、敵の思惑を勘だけで全部潜り抜けられるようになれば、戦士としては俺より上だ。とは言え、飽くまで理想論の話だけどな」
そういう野性的な戦い方は、俺には出来ないからな。
「そうですよ。老日さんのそれは、理想論です。理想論過ぎます。勘だけで全部最適解を出して来る戦士なんて、私でも聞いたことも無いですよ……」
「俺は会ったことがあるぞ。何人か」
疑うような目でこちらを見る文月から、俺は視線を五慈に戻す。
「それに、強くなりたいと考えるなら理想形に向かって研鑽するのは当たり前の話だろ? 確かに、そこまで至るには相当な代償を伴うだろうが、不可能じゃない。特に、こいつは向いてるからな。既にあれだけ勘で動けるなら、十分長所になり得る」
「……私には、分かりません。勘だけで動くなんて、分からない感覚です」
「アンタでも嫌な予感がしたくらいのことはあるだろ? 何となく、あの地面は踏まない方が良い気がするとか、アイツに近付くとヤバい気がするとかな。勘っていうのは、それの精度と頻度だ。それが高ければ、十分に勘として機能する」
「……なるほど」
文月は若干不服そうながらも頷いた。実際、勘だけで全部突破するなんてのは理屈としては滅茶苦茶だからな。俺だって、実際にやってる奴を自分の目で見て無ければ信じられない。
「でも、勘ってどうやって鍛えたら良いんすかね? 戦いあるのみ! っすか?」
「そうだな……勘を鍛えたいなら目を瞑ったまま森でも走ると良い。普通なら躓いたり転んだりで滅茶苦茶になるだろうが、慣れれば行ける」
俺でも、そのくらいなら行けるからな。元から勘が強いタイプのこいつなら余裕で出来るようになるだろう。
「私はどうです? どこを改善したら良いですか?」
「アンタは、まぁ、文月の言った通りにすれば良いんじゃないか?」
「雑じゃないですか!?」
そりゃ、魔力の使い方とか細かい所を言えばキリが無いが……正直、そこら辺はこの現代に無い技術な可能性があるからな。ここで教えて面倒を起こす気はない。




