一般生徒、実力。
壁際に並んだ研究クラスらしき生徒達と、教師、そして俺達に囲まれ、演習場の中心に並ぶのは二人の男女だ。
片や、杖を構えた制服の女。片や、剣を構えた制服の男。与えられた魔道具は恐らく、互いに持っている武器……杖と剣だろう。杖は至近距離の敵に対して電撃を放てる自衛能力を持ち、剣は振るった速度に応じて威力の上がる風の刃を放てる。
至近距離でも戦える杖と、遠距離にも攻撃できる剣。お互い、やりたいことがすれ違っているような魔道具同士の戦闘になるが、だからこそ道具を上手く使える方が勝つ勝負になるだろう。
「始まったぞ」
動き出した両者。魔術士と剣士の勝負に睨み合いは無い。最速で詠唱を開始する魔術士と、それを発動させまいと剣を振るい、風の刃を放つ剣士。
「きゃッ!?」
魔術士は迫る風の刃に気付き、尻餅を突くもギリギリで刃を回避した。しかし、その隙を見逃す訳も無く剣士の男が距離を詰め……
「終わりだッ!」
「来ないでッ!」
振り上げられる刃。それと同紙に、杖に仕込まれていた術が発動する。杖の先端から電撃が迸り、男の手を麻痺させた。
「いッ!?」
迸る痛みと痺れに驚愕を露わにする男。その間に杖を構えなおしていた女は術を構築し、目の前で硬直している男に向けて放った。
「『水砲弾』」
衝撃を伴う水の質量弾が放たれ、男に触れた瞬間にその衝撃と重さをぶつけるようにして弾け飛んだ。
「ぐぉッ!?」
「『地腕』」
男が吹き飛ばされ、倒れた先の地面が隆起し、二本の腕となって男の両手首を抑えた。
「く、そ……ッ!」
「『風刃』」
男は倒れた体勢のまま暴れ、何とか腕を引きちぎれたが、そこへ風の刃が男の体を真っ二つに斬り裂かんと迫り……
「まだァッ!」
男の体から一瞬闘気が立ち昇り、さっきまでとは比べ物にならない速度で動く。その一瞬で刃を振り切った男は、風の刃に合わせるように刃を打ち付け、そのまま剣の能力でお返しの風の刃を放った。
「『石壁』」
最初よりも速い風の刃だったが、一度それを見ていた女は予期していたように杖を地面に突き立て、魔力を流し込み、そこに石の壁を隆起させた。
迫る風の刃は、石の壁に半分程切り込んだだけで消え去ってしまう。
だが、石の壁によって自身の視界を遮ってしまった女は壁の左右、どちらから男が来るかを予測する必要がある。今からでは、探知の魔術も間に合わないだろう。
「ハァッ!!」
駆け抜け、壁の前まで辿り着いた男は闘気をまた瞬間的に立ち昇らせ、その剣を石の壁に向けて振るった。
既に切り込みが入っていた石の壁は直接刃をぶつけられたことで斬り裂かれ、そこを中心に砕けた。更に、振るわれた剣は石の壁を斬り裂いた後に風の刃を放ち……目の前で目を見開く女に迫った。
「いやぁッ!」
女の体から形を持たない魔力が放出され、魔力波となって風の刃に立ち向かう。風の刃を消し去ることは出来なかった魔力波だが、その勢いを殺すことで重い切り傷と言った程度に抑えることが出来た。
「今度こそッ!」
しかし、既に至近距離には男が迫っており、今度は電撃を受けても止まらないという覚悟を持って剣が振り下ろされる。
女は固く握ったままの杖を男に向け、その先端から電撃を迸らせ……男の全身に、雷が走った。
「あ、がッ!?」
「『炎刃』」
痺れる全身に動きを止めた男に向けて、炎の刃を杖の先端に生やした女は槍の如くそれを突き出した。正確に心臓を貫いたそれは、結界によって定められた試合終了条件を満たし、二人の体に付いた傷も、地面の抉れた試合場も、元通りにした。
「……終わりか」
「どうでした?」
文月の問いに、俺は深く息を吐いた。
「まぁ、色々と言いたいことはあるが……」
結界の中では痛みは無いのだろうが、痛みを度外視して攻撃を受けても直ぐ動けることのリアリティの無さだとか、そもそも魔術士対剣士の戦いにしては初期位置が近過ぎるとか、本当に色々あるが……
「弱いな」
端的に言うなら、それに尽きる。
「弱いですか」
「逆に、強いように見えたか?」
「……いえ」
伏し目がちに肯定した文月。実際、強さで言うなら……六級か、良くて五級ってところだろうか。大して魔素を保有しているようには見えないから、伸び代はまだまだあるとは思うが。
「ですが、それは私達から見ての話であって……この歳の子としては、十分に驚異的な強さだと思いますよ」
「……そうか?」
同年代でイカれた強さをしてる奴らを何人か知ってるからな。黒岬だとか、蘆屋だとか。ていうか、黒岬はどこで何をやってるんだ? アイツくらい強い奴が噂にもならずにハンターをやってるなんて有り得ないと思うが。特に、本人自身が目立ちそうな行動をしそうだしな。
「はい。このままハンターになっても、問題無く六級にはなれると思います。魔力や身体能力が上がっていくのはハンターになってからですから」
「まぁ、それはそうだが」
どうしても、比較対象があると素直に認めにくい。
そうして話していると、お互いの道具を知った上での二戦目は男の勝利となって終わり、次の試合が始まろうとしていた。
「……ん、次はアイツらか」
食堂で話した二人……奈美と五慈が戦うようだ。




