刃物マニア
昼休みが終わり、始まった合同演習。運動場のどこかで行われるものかと思っていたが、地下にある巨大な演習場で行われるらしく、沢山の人間が既に集合していた。
「金掛かってそうだな……」
「ですね。一体、いくら使って作り上げたんでしょうか」
壁際に体を預けて話す俺達。その視線の先には、演習場の中央で体育座りをして教師達の話を聞いている生徒達が居る。
「という訳で、今回は研究クラスの者達が作った武器や防具を利用した戦いとなる。相手の装備の能力を知らされていない状態で一度戦い、その後に知っている状態でもう一度戦う。初めは相手の能力を推察しながら戦い、二度目はその能力への対策を考えた上での戦いが求められる」
厳めしい顔をした中年の男が話している内容から察するに、対応力を成長させるための授業なのだろう。相手の道具の能力を考察し、対策することは勿論、自分に与えられた道具の力を活かすのも必要になる。
「とは言え、自分自身の能力を抑える必要は無い。自身の能力を十全に出し切った上で道具の能力を活かし、対策することが重要だ」
ふむふむと頷く生徒達を見るに、割と真面目な奴らが多いんだろう。教室での授業を見ていても感じたが、自分の能力を成長させることに熱心な優等生ばかりだ。
「では、早速だが道具の配布を始める。そこに並べてあるものから、早い者勝ちで選べ。但し、選ぶまで触れることは許さん」
教師がパシリと手を叩くと、生徒達は立ち上がって俺達とは反対の壁側に駆け寄っていった。選ぶまで触れるのが禁止ということは、見た目だけで選ぶ必要があるってことか。単純に己の得意な形状の武器を選ぶっていうのと、直感力を鍛えるとかそこら辺だろう。
「そういえば、アンタはそういう特殊な武器とかは持ってないのか?」
俺が尋ねると、文月は服の中からナイフの柄だけを覗かせた。
「これも特殊な武器ですよ。三種類の付与魔術を切り替えて使うことが出来ます」
「致死毒、麻痺、熱か」
俺が三種類の付与を当てると、文月は驚いたような顔をした。
「驚きました。見ただけで分かるんですか……? 刃も見てないのに」
「起点は柄だろ。効果が出る場所だから、刃の方が分かりやすくはあるが……別に、柄を見ても分かりはする」
柄を操作することで、刃に毒か麻痺か熱かの付与を顕在化させることが出来る。効果は地味だが、扱いやすい道具ではあるだろう。特に、相手を殺すか殺さないかを取捨選択する必要があるような仕事をやってる奴にとっては重宝する道具だ。
「それと、こんなのもあります」
新しく服の中から見せたのは、小ぶりな形状のナイフだ。
「能力は複製か。投擲用だな」
「一瞬ですね……正解ですけど」
若干不満そうに言った文月は、暫く悩んだ後に服の中へと手を突っ込んだ。
「だったら、これはどうです?」
そう言って、文月はまた別のナイフを見せた。こいつ、どんだけナイフを持ってるんだ? これで良く無事に校内に入れたな。
「これは、何だ?」
黒い刃をした金色の装飾が為された柄の高級感があるナイフだ。特に、付与が為されているようには見えない。出来は良さそうだが、魔術的な武器ではないように見えるが……
「ふふふ、これは山浦先生が作ったナイフなんです。本業が刀匠の先生が滅多に作らない、本気の西洋ナイフで、その価値は――――」
「分かった。もう、大丈夫だ」
知らねえよ。さっきまで何の効果がかかってるナイフかを見極めるみたいな流れだっただろうが。
「ナイフマニアか」
「そうですね。もっと言うと、刃物マニアですけど」
「マニアなら、そういうのを現場に持ち込んだりはしないイメージがあるが」
「美術品なら持ち込まないですけど、ちゃんと実用品ですよ。それに、凄く頑強なナイフなので壊れる心配も薄いです」
とは言っても、摩耗くらいはしそうなものだが。まぁ、本人が良いって言うなら良いんだろう。
「武器は、使ってこそですから。折角、私には武器を扱う能力もあるんですし」
「まぁ、それはそうだが」
俺も、武具に埃を被らせておくのは好きじゃないタイプだ。
「そろそろ始まるぞ」
「みたいですね」
演習場の中央、展開された結界の中で二人の生徒が向かい合っていた。




