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見えざるは何か

 蘆屋は首を傾げ、尋ねる。


「あれ、もしかして君が追ってるのもそうなの?」


「恐らくな」


 老日が頷くと、蘆屋は小さく笑みを浮かべた。


「ソロモンかぁ。面白くないって見えたけど、やっぱりもうちょっと調べてみようかな……占いなんて外れるもんだし」


「陰陽師が言う言葉か?」


「ソロモン、示されるは不吉な未来。面白くも何ともないって。そう見えたけどさ、そもそも占いなんてその結果を否定する為に存在するもんだし。もし未来を変えられないなら、占いなんて存在価値無いでしょ」


 そもそも、占いとは一喜一憂する娯楽の為に生まれたものではない。人々の平穏と安寧、それを願って世界のあらゆる場所で生まれた技術だ。示された未来を変えられないのならば、最早占いの価値などない。


「あ、そうだ。君も占ってあげようか? 今ならただで良いけど」


「別に良いが、俺の未来を占うものなら無理だ。何も映らないし、何も示さない」


「……試して良い?」


 老日が頷くと、蘆屋は目を瞑り、手を合わせた。


「『万令状語』」


 蘆屋の体から白い霊力が溢れる。


「『星辰の動くを、月の満ちるを、日の輝くを、遍く捉え、その陰陽を見せよ』」


 溢れ出た霊力が離れ、形を成し、球体となって蘆屋の周囲に浮かび上がっていく。大小様々な球体、それぞれ違う輝きを放つそれらは、まるで星空のようだ。


「『天文万象占星術』」


 星達が煌めき、蘆屋を中心に高速で天体が回転し始める。その回転の中で次々と星が消滅していき、少しずつ星は減っていく。

 そうして残るのは必要な星のみ。それを見てその人の未来を占うのがこの術のやり方だった。


「……ぇ」


 その筈だった。


「星が、一つも残ってない?」


 蘆屋の周囲には、たった一つの星すら浮かんでいなかった。これでは占うことなど出来る訳がない。


「まぁ、そういうことだ。悪いが」


「凄い……僕、こんなの初めて見た」


 老日の至近距離まで近付き、興味深そうに観察する蘆屋。老日は顔を顰め、一歩距離を取った。


「そこの式神が、アンタは男嫌いだって言ってた気がするんだが」


 まだ地面に倒れたままのシロを指差し、老日は言った。


「んー、君はそうでもないかな。気持ち悪くないから」


「そうか」


「後、男嫌いってよりも普通に女の子の方が好きってのはあるけど。女の子の方が可愛いし……ていうか、不思議だよね。女の子って大体、カッコいいよりかわいいの方が好きなのに、男の子と付き合おうとするんだからさ」


 老日は何も答えないことにしておいた。


「取り合えず、お互いにソロモンの情報を交換するって契約で良いな?」


「良いよ。連絡先はそれね」


 蘆屋から老日が受け取った名刺には、連絡先も記載されている。


「あぁ。じゃあ、お互いにソロモンの情報を得た時は全て共有する。その条件で契約するぞ」


「契約? そこまでやるの? まぁ、良いけど……」


 老日の伸ばした手を蘆屋は掴んだ。


「あと、俺のことは誰にも話さないでくれるか?」


「ん、良いよ」


 蘆屋が答えると、その手を伝って魔力が流れ、契約が完了した。






 ♦




 蘆屋と協定を結んだ後、今日の寝床となる屋上を探していた俺は視界の端に映るビルの影、その闇を見た。


「……人気は無いな」


 もう空は真っ暗な夜だ。東京と言えど端に近いこの場所は人気も少ないようで、今の俺には好都合だった。


「なるほど、少しは頭を使うようになったな」


 路地の裏。老日はそこに入り込み、ただの影しか無いその場所を踏みつけた。


「ィッ、ォェ~ッ!?」


 影の中から現れたのは、奇妙な声を発する黒く薄べったい使い魔だ。その体には黄色く大きな目が一つだけ浮かんでいる。


「見せろ」


「ィ、ィァ……」


 その体を掴み、魔力を流し込んで情報が送られている先を調べた。情報が伝わってくるが、途中でそれは遮断された。


「切られたか……だが、場所は分かった」


 ドロドロと溶けて地面に消えていく使い魔の体。情報の送付先に直接攻撃するまでは間に合わなかったが、敵の位置が分かっただけでも上出来だ。


「行くか」


 俺は姿を消し去り、駆けた。




 ♢




 情報の送信先は山奥だった。高尾山を登り、明らかに人の通る道ではない場所を進み、その奥地にある掘っ立て小屋まで辿り着いたが、周囲に例の魔力の持ち主は居ない。


「……何だ?」


 小屋の中に生命の気配はない。罠も無さそうだ。扉を開き、小屋の中に入った。


「これは……機械、か?」


 小屋の中にあったのは爆発したかのようにバラバラに吹き飛び、黒く焦げた機械だけだった。かなり強い勢いで爆発したようで、小屋の壁には幾つも凹みや傷が出来ていた。


「しょうがないな」


 一際大きな機械の破片に手を当て、目を瞑る。すると、情報が伝わってきた。この機械の過去の情報だ。得られたのはこの機械が無事だった頃の機械構造、これなら、そう難しくないな。十分、修復可能だ。


「変な機械だな。魔道具でありながら、電子機器でもある」


 目を開けると、元通りの姿に戻った機械があった。後は調べるだけだ。


「……してやられたな」


 機能は情報の送受信。つまり、この機械は中継機器だ。修復は完了したが、ラインは既に切られているらしく、この機器の送信先は分からない。


「完全に接続して、過去の情報を精密に取得すれば……いや」


 聖剣を使えば、可能だ。だが、まだだ。まだこれは、俺の個人的な事情の範疇だからな。


「寝るか」


 丁度、小屋だしな。今日の寝床はここにしよう。

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