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魔導機械

 猫背になった人型の鋼鉄。エンシェントと呼ばれたその機械は、胸の中心で青色のコアを輝かせていた。


「『魔鎌刃(ファルチェム)』」


 対する男の鎌が、紫色の光を刃に灯す。キラキラと輝く光の粒子が刃から溢れては、空気に溶けていく。


「弱点が丸見えだ。責めて、隠しておけばいいものを」


 男はくくっと笑い、機械に向かって走り出した。


「引き裂いてやる」


「エンシェント」


 迫り来る男に、犀川が隣の機械へと声をかけた。


「70%まで許可します。可能なら無力化で殺さないように」


『了解』


 機械音のような振動する声が鳴り響き、機械は体を斜めに傾けて振り下ろされる鎌を容易く回避した。


『無力化ヲ開始シマス』


「んなッ!?」


 そのまま機械は男の胸に手を叩き付け、軽い動作だけで吹き飛ばした。


「こいつ、速いな……ッ!」


 男は転がりながらも地面に鎌を刺して勢いを抑え、機械を睨み上げた。


「ぐッ!?」


「がはッ」


 矢継ぎ早に襲い掛かった仲間が二人続けて吹き飛ばされる。その様子を見て、飛び込もうとしていた他の仲間達は足を止めた。


「不用意に大振りな攻撃はするなッ、速度では負けてるぞッ!」


 大声を張り上げる男はじりじりと下がり、仲間達と共に再び囲み込む。


『警戒度上昇。武装ヲ展開シマス』


 機械の両腕が変形し、刃に変わる。そして、猫背の姿勢のまま自身を囲い込む男達を捉え……


『制圧開始』


 風のように動き出した。自身に襲い掛かろうとしていた男の腕を斬り落とし、そのまま誰にも捉えられることなくリーダー格の男の背後に回る。


『誰モ、動カナイデ下サイ』


「何なんだ、お前は……ッ!」


 鎌の腕を持つ男、その腕が瞬く間に斬り落とされ、首元に刃が添えられた。


「エンシェント、魔導機械ですよ。ゴーレムとロボットの合間とでも考えて貰えれば分かりやすいかと」


「魔導機械だと……?」


 自慢げに犀川が説明した魔導機械。エンシェントの正体は、老日の()を核に利用した魔導ロボットだ。凄まじい魔力貯蔵量に吸収量、運用効率を誇り、ゴーレムの存在としての格を引き上げる。そして、魔術や呪術による特殊な攻撃への耐性すらも高め、毒に至っては無効化する。


「クソッタレめ……良いか、お前ら。誰も動くなよ? 俺を失って統制の取れない集団になれば、どちらにしろ……」


 目線だけは強め、仲間達に語りかける男。しかし、その声掛けも虚しく……矢の如く打ち出された針が、エンシェントのコアを狙った。


「ハハッ、取った!」


『case:4、作戦ヲ変更』


 しかし、それを容易く認識していたエンシェントは男の首をそのまま掻っ切り、針を避けた。針はビルの壁を貫通し、その摩擦だけでビルに開いた穴をどろりと溶かした。


「なッ、俺の蠍針が――――」


『殲滅ニ、移行シマス』


 エンシェントが刃を振るうと、放たれた衝撃波だけで針を飛ばした男の首が落ちる。


「クソッ、勝ち目が見えねぇ……おいッ、本気で行くぞッ!」


「あぁ、ここで勝たねば死あるのみよッ!」


 男の一人が注射器のようなものを自身に撃ち込み、他の仲間がそれに続くと、男達の体が根本から変形していく。


『危険デス』


 その変形が完了するより前に動き出したエンシェントが、最初の男の体を真っ二つに斬り裂き、続けて隣に居た男の首を刎ね飛ばす。そのまま、次の男まで刃を迫らせ……


「ぎ、ィ」


 その体が暗赤色の鱗に覆われ、刃は弾かれた。


「ガァアアアアアアッ!!!!!」


 そのまま男は……いや、男だった怪物は機械を睨み付け、慟哭の如き咆哮を上げる。その鱗に覆われた体には尻尾が生え、腕の先には鋭くない鉤爪が生え、頭も嘴の生えた蜥蜴のように変形していた。


『魔力使用ノ許可ヲ求メマス』


「許可します」


 蜥蜴の振り下ろした鉤爪を避け、周囲を見回したエンシェントは他の者達も既に怪物と化していることに気付く。それらは多種多様だが、どれも人間からはかけ離れていた。

 身体が金属と化し、そこかしこから筒の伸びた二足歩行の怪物。赤黒く焼け爛れた岩石のような皮膚の怪物。全身が羽根で覆われた怪物。殆ど炎そのもののような体の怪物。


 だが、そんな悍ましき怪物達を前にしても怯まない魔導の機械は許可の下りた魔力を刃にぬらりと流した。


「ギィィイイイイイイッッ!!!」


「ポ、ォ」


『魔導ブレード・起動』


 怪物となった者達にも速度では未だ負けていないエンシェントは噛みつこうとする蜥蜴の頭を魔導の刃で両断し、金属の体となった怪物から放たれた無数の鋼弾を斬り裂いた。


「ゴォォォオオオオオ……!」


「ビィィイイイッ!」


「――――」


 飛び掛かって来た岩石の怪物をバターの如く斬り裂き、自由な軌道で飛来する無数の羽根を魔力波で吹き飛ばし、足元から噴き上がった炎柱を回避する。


『即転敢』


 目の前に立つ炎柱でお互いに姿が見えない状態で、エンシェントの姿が炎柱の裏から消える。それと同時に羽根まみれの怪物の後ろにエンシェントが現れ、敵の誰もが気付かぬ間に羽根の怪物の姿が八つ裂きに変わる。


「ポ」


 振り返り、鋼弾を放つ為の筒を向ける金属の怪物。しかし、その瞬間に筒が斬り落とされ、その脇を擦り抜けながら胴体も真っ二つにする。


『残リ、一体デス』


 最後の一体。炎そのものの姿をした怪物が、空へと舞い上がり、巨大な火球となってエンシェントへと真っ逆様に落ちてくる。


「――――」


『戦闘……』


 エンシェントの魔導ブレードに魔力が輝き、巨大な火球に備えるように構える。


『終了デス』


 火球が、真っ二つに斬り裂かれ、紫色の魔力が内側から溢れ出し、それと混ざり合うようにして霧散した。


「周囲に他の気配も無いですし、終わりですかね」


 犀川は言いながらも、自身を覆う結界を解除しようとはしない。


「街中に増援を送って来るとは思えませんし、遠巻きから包囲されている危険性も考慮して助けが来るまで待つべきですね」


 言いながら、犀川は結界から外に手を伸ばし、エンシェントの体に触れた。


「……バッテリーも23%消費してますね」


 犀川はふっと息を吐き、エンシェントを休眠状態に切り替えた。さっきまでは七割の消費量で活動していたエンシェントだが、今は周囲からのエネルギー吸収による回復量の方が遥かに上回っている。


「良し、愛さんからの助けが来るのを待ちますか。もしかしたら、学園側の方が早いかも知れませんけど」


 犀川は接敵した時点で西園寺と学園側にそれぞれ救援要請をしている。電話する余裕が無かったのと、到着が遅くなること、学園からの通報があることを鑑みて警察には連絡していなかった。

 また、エンシェントが戦闘している最中に人払いの結界は既に解除し終えている。



「――――犀川お嬢様ッ! 御無事でしょうか!?」



 響いた声に、犀川は予想が当たったことに笑みを浮かべる。


「はい、無事ですよ。全員、私の魔導機械が倒しましたので」


 犀川が振り返ってエンシェントの肩を叩くと、立っていた執事服の男は安堵したように息を吐いた。

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