実戦でお試し
使い魔達も巻き込んだ陰陽道の研究は進んだが、家の中では出来ることにも限りがあった。故に、借りている土地である山の中で結界を張って色々と実験と作製を繰り返していた。
白龍を作り上げたのも、この場所にある滝の裏に造られた施設だ。
「そろそろ、異界で実戦でも試してくる。お前らは好きにしてて良いぞ」
「もう昼も余裕で過ぎていますね……夕飯の担当は私なので、一旦帰ります」
「買い物、手伝うわよ。食材も殆ど無くなってきた頃でしょう?」
「カァ、オレはソラの奴に色々教えなきゃならねえことが残ってるかんな」
買い物と夕食の準備をするメイアとステラ、ソラに仕事を叩き込みに行くカラス、何日かぶりに異界へと赴く俺。
各々やるべきことの為に解散し、俺達は施設が隠された山を離れた。
♢
という訳で、数日振りの異界に来た訳だが……やっぱり、五級異界だと物足りないというか、試すことすら無意味なレベルだな。
「『死へと導く、冥挑線』」
白を中心に黒で覆った線が、迫り来る魔物達を次々に貫き、葬り去っていく。
「『空より天紅を受けて輝き、雷の力と成す』」
周囲の敵が一掃された隙に俺は空の彼方へと赤い輝きを放つ白い球を投げた。
「『天明雷鳥』」
太陽の光を受けて赤い輝きが増し、白い球が雷鳥の姿に変わった。その身が雷そのものである大きな鳥は、空高く翼を広げ……再び俺を囲み込もうとしている魔物達へと、地上に電撃を撒き散らした。
「――――グォォオオオ……ッ!」
だが、その電撃を受けながらも森の奥から悠然と歩いて来る巨体が一つあった。それは、頭に立派な角を一本と折れた角を一本生やしたオーガだ。
「その大剣……奪ったものか?」
その手に握られているのは、鋼の大剣。元の持ち手の力量を伺わせる程に遠目からでも重量が伝わって来るその剣は、血があちこちにこびりつき、無数の命が既に奪われていることが分かった。
「なるほど……異常個体、とか言う奴か?」
前に七里と倒した目玉の魔物のような、本来発生しない筈のイレギュラー的個体。若しくは、変異種か。さっきから何体もオーガらしき奴らを葬ってるからな。こいつらの変異種って線もあるだろう。
「丁度良いな」
丁度、良いぐらいの敵が来た。これで、少しは試せるだろう。
「『踏み荒らし、打ち砕き、呑み干し……埋め尽くせ』」
天が無数に輝く。そこから降り落ちた光が大地に埋まり込み、そこから光を放つ。
「『星より降る、土山羊』」
詠唱が終わると同時に、そこら中から土の体を持つ巨大な山羊が無数に起き上がり始めた。見上げる程に大きい山羊は、最早象と言った方が近いかも知れない。
「行け」
俺が合図を出すと、こちらに走り寄って来るオーガの方を山羊たちが一斉に向き、後ろ脚で地面を蹴り始める。
「「「「「メ゛エ゛ェェェッ!!」」」」」
一息乱さぬ咆哮と共に、山羊たちは駆け出した。猛然と、自らの生まれた大地を踏み荒らしながら。俺へと襲い掛かろうとしていた魔物達はその威容に足を止め、電撃に身を焼かれていく。
「グォォオオオ……ッ!!」
だが、オーガはそれで怯むような雑魚達と同じでは無かった。自分より一回りも大きい土山羊の群れに、自ら大剣を持って挑みかかり、先頭の一匹の頭を叩き砕いた。
「――――メ゛エ゛ェェェッ!!」
その横を通り抜けたオーガだが、直ぐにその背後で鳴き声が上がった。砕いた筈の、頭から。
「グォォオッ!?」
振り向くより早く、オーガの背が突き上げられる。空中に撥ね飛ばされたオーガに殺到するのは……無数の土の角だった。蔓の如く伸び、鋼よりも硬質化したその角は、オーガの体のあちこちを貫き、蹂躙する。
「グォォオッ! グォォオオオッッ!!!」
悲鳴を上げるオーガに同情も容赦もしない山羊たちは、自由自在に伸びる土の角によってオーガの内臓の全てを破壊し、力が抜けていく体から四肢をもぎ取っていった。
「まぁ、悪くないな」
変幻自在。硬く柔らかく、伸びては縮み、砕ければ再生し、その数すらも増えては減って、自由自在。それが、星より降る土山羊だ。
星の力を利用し、大地を己が肉体とする怪物……例え一匹でも、大抵のハンターは手も足も出ないだろう。
そこで、俺は振り向いた。
「……あ、あの……誰ですか?」
そこに立っていたのは、青白い髪をした男。若く、面が良い。しかし、滲み出る冷気と青い瞳は間違いなく俺への警戒を現している。
「えっと、変異種が出たかもなんて噂を聞いてきちゃったんですが、その無残なオーガの死体がそれだったりします?」
おどけた調子で尋ねて来る男。その顔に、俺は見覚えがあった。




