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平穏の空

 再びの平穏が訪れた。門人試合、聖域で行われた戦いの殆ど全てを記録し、戦場に出た際には天式によって可能な限り解析した。


「これを元に、更なる術を考えるという訳ですね」


「そうだ」


 ステラの言葉に俺は頷く。数日振りに帰ってきた我が家だが、落ち着くという感情を覚えるくらいにはここにも馴染んで来た。


「しかし、陰陽道というのは中々興味深いですね……魔術も面白いですが、用意が肝心な術式というのは私にも合っています」


「そうだな。戦術的な思考を活かしやすいのは陰陽道かも知れん」


 ステラは罠系の魔術を使うことが多いからな。初めから戦い方を決めておくというやり方なら、陰陽道の方が優秀だ。反対に、魔術は応用力対応力に優れている印象がある。


「という訳で、先ずはこの水の術なのですが……」


「――――主様! お帰りになられたのですねっ!!」


 玄関の扉が勢い良く開き、そこから黄金の髪に真紅の目を携えた少女が飛び込んで来た。


「メイア。今、マスターは私と非常に重要な陰陽道の話をですね……」


「主様、今回はどのようなご活躍を為されたのか私にもお聞かせくださいなっ!」


 ステラを無視して俺の下に駆け込んだメイアを両手で抑え、俺は溜息を吐いた。


「特に無いぞ。俺は殆ど突っ立ってただけだったからな」


「ふふ……主様はそう言ってご謙遜されるところがありますからね」


 謙遜でも何でもなく、ただの事実だ。


「まぁ良い。どっちにしても、お前にも手伝ってもらうからな」


 話を聞かせてやることは無いが……見せてはやろう。


「そろそろ、アイツも帰って来る頃合い……」


 言いながら気配を察し、窓の方を見ると、そこから黒い鴉と透明な鳥が入り込んで来た。黒いのは勿論カラスだが、透明な鳥は使い魔達にとっても馴染みのない存在だ。


「カァ、一通り縄張りは案内して来たぜ」


「クルルル……」


 カラスが透明な鳥を前に出すと、僅かに緊張したように鳥は自らに()()()()()。分かりやすく白に色付いた鳥は、片翼だけを広げ、片翼は胸に当てて頭を下げた。


「へぇ……面白いわね。透明化でも光学迷彩でも無く、初めから色がないのね」


「クルルル……!」


 いきなり自身の秘密を言い当てられた鳥は驚きながらも、メイアの推察に頷いた。


「陰陽道は魔術よりもこういう概念だけを抽出するってのがやりやすいからな」


 その通り、この鳥は……生まれながらに色の無い鳥だ。隠密特化の存在として作られた、元は門人試合の戦闘を観察する為だけの存在。だが、その性能自体は割と気に入っているし、景武者や白龍と違って普段使いもしやすい存在なので、一旦仲間として紹介することにした。


「ソラだ。基本的にはカラスの下につくことになると思うが、仲良くしてやれ」


「クルルル」


 自分を白く色付けた鳥が、ぺこりと頭を下げる。


「ふふ、礼儀が分かっている子は嫌いじゃないわ。私の名はメイア、貴き吸血鬼よ。よろしくね?」


「カラスの下で動くのならば私と話すことは余りないかも知れませんが、私はステラです。電子世界のことならお任せを。よろしくお願いします」


「カァ、オレは要らねえよな。カラスだ」


 既に挨拶を済ませてあるであろうカラスも流れに従って一応の自己紹介を済ませた。ソラが三人に向かって頭を下げる。


「という訳で、だ。このソラが観察、記録したのも含めて共有させて貰う」


「ッ!」


 メイアが喜悦に顔を綻ばせる。俺はメイアを呼び寄せ、手を出した。既に他二体には共有してあるからな。後は、メイアだけだ。


「では、失礼します……」


 メイアが俺の手の平に手を合わせ、柔らかく握った。


「行くぞ」


 俺の体験した記憶が、メイアに重なり合うように流れ出した。



 数秒か、一瞬か。時間が過ぎた後、メイアは僅かに眩む頭に耐えるように目を瞑り、それから目を開いた。


「……主様。女の子と仲良くなりすぎです」


 メイアはそう、不満げに呟いた。

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