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示出杏

 現れたのは、示出杏。服装から髪型まで日本人形のような少女だ。その正体は半人半妖、呪いを操る陰陽師であるということは、門人試合の中で十分に確かめたことだ。


「どうした?」


「別に、どうもしてないわ。ただ、貴方の連絡先も何も知らないから……会える内に挨拶をしておこうと思っただけ」


 確かにな。俺に会いたければ蘆屋家に連絡を取る必要があるだろうが、何か用でも無い限りそれも気が引けるだろう。


「こういう時に携帯でもあれば便利なんでしょうけどね」


「……持ってないのか?」


 俺が尋ねると、杏はあっさりと頷いた。


「内は古風が過ぎるくらいの家だもの。家庭用の物はあるけれど、それだけね」


 マジかよ。俺が地球から消えてから三十年も経ってるんだぞ。まだガラケー使ってるとかが通用する時代でも無いだろうに。


「別に、そう言われてるだけで買おうと思えば買えるのよ? でも、私も中々手を出す気が起きなくて……ずっと持ってないままなの」


「……不便じゃないか?」


「使ったことの無い道具よ? 無くて不便なんてこと無いわ。幸い、私には友達も……二人くらいしか居ないから」


「言ってて悲しくならないか? それ」


 と思ったが、俺もこっちじゃ友達と呼べる存在はそう居ないかも知れない。小中高の奴らも、瑠奈を除いて俺からプラス三十歳だ。そもそも友達らしきものが居たかは怪しいが、知り合い程度にしても俺のことは忘れているに違いない。


「……挨拶も、だけど」


 と、杏は切り出した。


「感謝を伝えに来たの」


「される覚えは無いな」


 俺が答えると、杏は薄く微笑む。


「一杯あるわ。本気の私を受け止めてくれたこと。呪われた半妖だと知っても変わらない態度で居てくれたこと、それに……さっき否定しなかったから、やっぱり私達は友達ってことで良いのよね?」


「ちょっと歳の差はあるけどな」


 杏はくすりと笑い、頷いた。


「そうね。傍目から見たら、殆ど親子かも知れないわ」


「……そこまで老けてるか?」


 杏が十二だかそこらだろ? それの親ってことは、最低でも三十歳くらいにはなる訳だが……流石に、そこまでは老けて無い筈だ。


「まぁ、あれね。大人な雰囲気があるから、実年齢より上に見えるんじゃないかしら」


「俺の求めていたフォローじゃないな、それ」


 俺は老けていないという確証が欲しかったんだが、寧ろ助長するような言葉が飛んできた。


「……格好良いから大丈夫よ」


「今度は雑だな……」


 目を背けながら言った杏を睨むが、言葉は返ってこない。


「……兎に角、私なんかと友達になってくれて感謝してるわ。そういう話よ」


「誤魔化された感が無くも無いが……取り敢えず、その感謝を受け取る気は無い。友達ってのは対等なモノだろ? それを、片方からだけ感謝だとかおかしな話だと思わないか?」


「……ふふ、そうね。そうかも知れないわ」


「あぁ、そうだ」


 俺が言い切ると、暫しの沈黙が訪れる。月に照らされる杏の姿は、まだ幼いと言うのに中々様になっていた。


「……そういえば、アイツが言ってたぞ。いつか、三人で遊びましょうって」


「碧? ふふ、可愛いこと言うのね。私は勿論構わないけど?」


 杏は問いかけるような視線をこちらに向けて言った。


「俺もまぁ、誘われたら行く。暇ならな」


「そう? じゃあ、楽しみにしているわ」


 意外そうな目で見た後、その歳に似合わない妖艶な笑みを浮かべて月を見上げた。


「……またいつか、ね」


 その瞳に浮かぶ感情は何だろうか。それを察することまでは俺にも出来なかったが、半妖であることを公にした杏の立場がそれほど良いモノではないこと程度は察していた。


「天明の奴が居るから、滅多なことにはならないと思うが……どうにもならなくなったら、頼っても良いぞ」


「ふふ、どうにもならなくなるまでは頑張れってことね。任せなさい」


「あぁ。碧に頼っても天明に頼ってもダメなら、頼りに来い。それくらいなら、良い」


「厳しいんだか優しいんだか分からないわね……でも、分かったわ」


 まぁ、碧は兎も角として天明でもどうにもならないようなことなんて無いだろうけどな。


「その時は、遠慮なく頼らせて貰うわ」


「あぁ」


 小さく答えると、杏はまたくすりと笑った。


「……貴方は、あの中には入らないの?」


「馬鹿言え」


 会場の中心、陰陽師達の集まる戦場を指差して言う杏に、俺は首を振った。


「俺もお前も、流石にあそこに混ざると面倒臭い思いをすることになるのは分かり切ってるだろ」


「そうねぇ……仕方ないし、ここから観戦しておくことにするわ」


 そこかしこに模擬戦の形式が見え始めた戦場。杏は俺の隣の席に勝手に座り込むと、したり顔で戦場を眺め始めた。


「……まぁ良いか」


 俺は小さく息を吐き、隣に座り込んだ観戦者を受け入れることにした。

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