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師と弟子と

 控室から五分ほど歩き、漸く蘆屋の下へ辿り着いた俺は軽く手を上げて見せた。すると、蘆屋もそれに気付いて父親の下を離れ、こちらに歩いて来る。


「遅くなったな、悪い」


「ホントだよ。直ぐ来るもんだと思ってたのに……ま、良いや」


 蘆屋は咳払いし、こちらを向き直した。


「おめでとう、勇。よく頑張ったね」


「……まぁ、称賛は受け取っておくが」


 よく頑張ったかと言われれば、怪しい所だな。戦闘面に関しては鬼やら景武者やら白龍やらに任せっきりだったからな。


「あと、ありがと」


「ん、何がだ?」


 俺が聞くと、蘆屋は気まずそうに目線を逸らした。


「実は、ちょっと賭けをしててさ……君の勝敗で」


「勝手に何やってるんだ……?」


 別に俺は良いが、弟子の勝負で賭けをするって師匠としてどうなんだ。


「あはは、まぁいいじゃん! 勝ったし!」


「実際、お前からしたら勝ちが決まってる賭けだったろうな」


「まぁね~。あの白龍の存在を知って尚、勝利を疑う程僕は愚かじゃないよ」


「白龍を作れたのはお前のお陰も大いにあるけどな」


 俺が言うと、蘆屋はふふんと笑った。


「そう? 偶には感謝しても良いよ?」


「お前には割としてると思うぞ」


 こっちに来て以来頼られることが多いこの身だが、蘆屋には頼ることが多かった。師事に関しても、向こうからの頼みではあったが、望んでいたのは俺も一緒だ。


「それにしても……まだあの白龍が本気を出してすらいないって、知ったら皆どうするんだろうね?」


「どうするもこうするも無いだろ」


「いやいや、焦って君を処分しようと考えたり……これは既に皆考えてるかも知れないけど、君を取り込もうと考えたり……色々起きると思うよ?」


「もっと健全な所で、白龍にも勝てるくらいに研鑽を積むって手段を取ってくれるのが一番望ましいんだが」


 白龍にも勝てない奴らに処分されてやるつもりは無いし、既に蘆屋の弟子である以上、他の陰陽家に取り込まれてやる気は無い。だから、真っ直ぐに力を付けて勝ちに行くのが、結局のところ一番有意義なやり方だ。


「まぁ、手を抜いてる白龍になら……んー、一部の人なら……勝てるようになるかも?」


「自信が無いのか?」


 尋ねると、蘆屋は鼻で笑った。


「まさか。今の僕なら……本気の白龍にだって、チャンスはある」


 自信に満ちた目で、挑戦的な笑みを浮かべる蘆屋。確かに、この期間で更なる強さを得たのは、求めていたのは俺だけでは無い。


「つまり、アレは形になったと考えても良いんだな?」


「その通りさ。君の考えてる、その一つ先まで……ね」


 戦闘術式、天式。その作成に深く関わっている蘆屋は、丸々……とは言わないまでも、俺の戦闘術式の設計を、構造を、把握している。

 それを活かした術は既に完成し、蘆屋の手札に加わっているらしい。だが、その一つ先というのは俺もまだ知らない。


「その、一つ先ってのは何なんだ?」


「まぁまぁ、ちょっと待ってよ。一つ先のは、まだ未完成だから。完璧に納得の行くものが出来たら、君にも見せるからさ」


「あぁ、二つとも見せてくれ」


「流石は勇。遠慮が無いね」


 くすりと笑う蘆屋に、俺は思い出す。確かに、魔術にしても陰陽道や霊術にしても、秘匿主義なのは珍しくない話だ。尤も、向こうだと切羽詰まり過ぎてその段階は過ぎてる節があったが……平和な時だと、それが普通ではある。


「悪い。見せたくないなら見せなくても良い」


「あはは、そうは言ってないじゃん? でも、勇はそういう秘密主義的な考えは無いよね。ハンターにしても、魔術士にしても、自分の手札とそのタネを明かさないなんてのは当たり前なのに……僕に戦闘術式を共有してくれた時も、よくこんなの教えてくれるなぁって思ったよ」


 天式の作成の為に、蘆屋に頼るのは必須事項だった。幾ら俺でも、無から知識を生み出して陰陽道の術を作り上げることは不可能だ。それに……


「言っておくが、俺も考え無しに見せている訳じゃないぞ。戦闘術式に関しては、完全な再現がほぼ不可能だから見せても問題無いと判断した。そうじゃなくても、誰彼構わず見せる気は無い」


「つまり、僕だから見せてくれたってことでおっけ?」


 まぁ、そうだな。俺は小さく頷いた。


「くふっ、嬉しいじゃん?」


「……そうか」


 どう反応して良いか分からない俺は、一先ず頷いておいた。そんな俺の対応を見て、蘆屋はまた笑みを膨らませる。


「ホント、勇って不器用って感じだよね」


「……そうだな」


 それに関しては、自覚していない訳でも無い。だが、俺だって常にこんな風だった訳じゃない。もう少し、気楽に喋っていた時だってあった。気の置ける仲間達の前なんかではそうだった。


「遠い目してる」


「悪いか?」


 俺が蘆屋に視線を戻すと、小さく笑った。


「別に? ただ、女の子と話してる時に考え事ってのはどうかな~、って思わなくもないけどさ」


「それ、悪いって言ってるのと変わらないと思うが」


 蘆屋は微笑んだまま、俺の手を掴む。


「どうせ、また色々巻き込まれるつもりなんでしょ? あんなに強い勇がまだ強さを求めるなんて……そうじゃなきゃ、有り得ないし」


「巻き込まれるつもりってのは、変な言い回しだな……」


「どうでも良いよ。それより、僕が言いたいのは……また何かに巻き込まれてその解決に奔走することになる君と、ゆっくり二人で話せる機会なんていつ回ってくるか分からないってこと」


「――――」


 俺は浮かんだ無数の反論も口には出せず、何も言えなかった。


「だから、今くらい……ゆっくり話させてくれても良いでしょ? 他のことなんて、考えないでさ」


「……あぁ」


 こいつは……いや、考えるのは、止しておこう。


「話したいことでもあるなら、幾らでも聞いてやるよ。友達としてな」


「……あはは、今は良いよ。それで」


 俺は何も言えず、ただ視線を合わせていることしか出来なかった。

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