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申す言葉なし

 ♦……side:老日




 陽能の姿が崩れ落ちる。龍が慌てて俺をぐるりと見回すが、当然傷は無い。


「我が王のお手を煩わせるような、この失態ッ! 申す言葉もありませぬ……!」


「帰ったら、鍛え直しだな。経験が足りないのは仕方ないが」


 そう言って、俺は式符の中に白龍を引き戻す。すると、会場全体を圧迫していたような緊迫感のようなものが消え去り、各所から安堵の息が漏れるのが分かった。


「勝者、は……老日、勇ッ!!」


 審判もまた、試合が終わったことを漸く実感し、その宣言を声高く告げた。


「優勝者は、老日勇ッ!! 皆の者、万雷の拍手を!」


 その言葉の後、一拍遅れて四方八方から拍手の音が鳴り響く。勝者を称えるその拍手を受けて、俺は先に白龍を戻したことを僅かに後悔した。アイツは、こういうのが好きだろうからな。拍手喝采を浴びる体験をさせてやれば良かった。


「ここからは、陰陽寮の長にして我らが陰陽師の盟主たる土御門天明様が――――」


 言葉の途中で、審判の横に天明が降り立つ。天明は不敵な笑みを浮かべて審判から司会の座を奪い取った。



「――――陰陽師の話をするぞ。これからの、な」




 ♢




 という訳で、優勝した俺は天明に連れられて観客席の中でも高い部分に上がらされ、色々と喋らされた挙句に横で天明が話し続けるのを延々と聞かされていた。


「分かるかッ、今の陰陽師には足りないものが!」


 ずっと、この調子だ。演説仕様のハイテンションだと言うのは分かっているが、横で聞いているとはっきり言って鬱陶しい。内容も、正直俺には関係の無いことばかりだ。

 既存の陰陽師はどうこう、力がどうこう危機感がどうこう……大事な話ではあるんだろうが、元居た控室に速く帰して貰いたかった。


「この日本に、そして地球にッ! 数多の危機が迫ったことを忘れたのか! ソロモンの復活、大嶽丸、玉藻前の復活、そして邪神の復活……一体どれだけ復活するつもりなんだッ!!?」


 言いながら苛立ったのか、そう叫ぶ天明に俺は思わず同意する。


 ホントだよ。マジでどれだけ復活してんだよ。まさか、俺のせいか? 俺のせいだったりしないよな? 俺はもう勇者じゃないんだぞ?


「だが、今までは運良く耐えれて来ただけでないと何故言える。そもそも、これらの事態に俺達はどれだけ貢献出来た? ソロモンを倒したのもハンターだと言うし、大嶽丸を殺したのも玉藻前の協力あってやっとのこと、そして邪神に関しては殆ど俺しか関わりすらしていない有り様だ!」


 天明の言葉に、会場から僅かに不満げな空気が漂う。


「……まさか、邪神については海外で起きたことだから関係ないとでも言うつもりでは無いよな?」


 だが、それが天明の怒りを呼んだことは間違いないだろう。


「だとすれば、お前達は一から出直した方が良い……俺とて、単なる正義心から言っていることではない。俺が言っているのは、放置した場合の被害の拡大についてだ。アレはハッキリ言って、俺達の中でも数人が欠ければ大惨事となり得るような事態だった」


 確かに、後から聞いた報告によればアメリカはかなりの混沌に包まれていたらしい。ニャルラトホテプが望んだ通りかは分からないが。


「住民を利用して増殖する敵も居れば、人の魂を利用してその強大さを増す邪神も居た。それに、土地自体が邪神に占領されてしまうことの危険性が分からぬ訳も無かろう?」


 加速度的に増していくであろう被害。それに対して、傍観という姿勢を取った者達が気に入らないと、天明はそう言っているらしい。


「確かに、陰陽寮は日本の組織だ。海外のこととなれば流石に国の許可なくして動けず、歯痒い思いをした者も居るだろう……だがっ」


 天明は会場全体を睨み付けるようにして見回した。


「バレないように、やれッ!」


 とんでもないことを言い始めたな。良いのか? これ、皇居のアレコレが見てるんだろ?


「情報を探ることくらいは日本からでも出来るだろう! それでヤバそうならば、自分達で判断して行動しろ! バレたとて、怒られるのはどうせ後だ! それに、バレなければ問題は無かろうよッ!」


 ざわつく会場に、俺は溜息を吐く。噂に聞いていた、天明の悪い部分というのはこういうところなのだろう。信じられない程に優秀だが、優等生ではない。寧ろ、不良の極みだ。校長に宣戦布告しているようなもんだろう。


「俺も後で多分怒られるがなッ、この考えは改めるつもりは無い! 現場の人間にしか出来ぬ判断を迷うな! 自分達で得た情報から、もし危険だと判断すれば上の命令なんざ無視して良い!」


 まぁ、実際どこまで柔軟に命令に従うかは大事ではある。こと命のかかっている戦場となれば、命令に疑問を抱いても上の人間に判断を仰いでいる暇なんて無いからな。


「それで、お前はどう思う?」


 突然の振りに、俺は仮面に手を当てながら立ち上がり、溜息を吐いた。


「ノーコメントだ」


 俺はそれだけ答え、再び椅子に踏ん反り返った。

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