龍と王
最初に動いたのは、陽能でも金煌夜遮陽王でも無く、楊心だった。紫焔が老日の背後で揺らめき、そこから楊心が現れようとする。
「――――無駄なことを」
霊風によって、紫焔が吹き飛んだ。いや、それだけではない。そこから顔を出そうとしていた妖狐……楊心は片腕を消し飛ばされていた。
「我が王には近付かせぬ。指一本でも触れられるとは思わぬことだ」
会場全体に響くような声で告げた龍は、堂々と陽能達を見下ろした。
「陽能様。どうやら、転移の類は先んじて察知されるようです。奇襲等は通じないと考えた方がよろしいかも知れません」
「……圧倒的な力には、圧倒的な力しか対抗出来ないって話だね」
どうやら、搦め手は通じないらしい。陽能はその手に莫大な霊力を込め、球とした。それは超高速で回転しており、大地と風の力の両方を利用していることが分かる。
「『霊旋球』」
青白い霊力の球体は、超高速で回転しながら龍の顔面へと投げられた。だが、白龍は身じろぎ一つすることなく、自身の顔に沿うような流れを生み出して、その球体を斜め上の後方へと受け流した。
「ッ、受け流された……!?」
「遅いのだ。それに、乱雑に投げつけただけではこの我に届く訳も無い」
その攻撃は白龍にとってみれば遅く。十分に対処が間に合う代物であった。しかし、陽能にとってそれは考え抜いた自慢の術であり、容易に防がれたことは衝撃であった。
「だったら」
陽能はその手を天へと伸ばし、式符を掲げた。
「『召呼』」
霊力が通り、式符が輝きを放つ。
「『滅魔陽凰剣』」
その手に、太陽の如き輝きを放つ、紅と橙の色で作られた刀が一本握られた。
「燃やし尽くす」
「吠えたな、小童」
白龍はニィィと笑みを浮かべ、その顔を陽能の方へと近付かせる。
「『御霊天快陣』」
式符が地面に叩き付けられる。そこから地面に巨大な陣が展開され、それは殆ど戦場全体に広がった。効果は、味方のバフと持続回復。敵に悪影響を及ぼす力では無かった為、白龍も老日もそれを消し去ろうとはしなかった。
「総攻撃だ。本気を見せてやる」
「『妖力解放・四尾の狐』」
「『目覚めよ、金剛杵』」
楊心の姿が紫色の獣毛に覆われた大きな四尾の狐となり、金煌夜遮陽王の持つ祭具が黄金の輝きを放ち始めた。
「『霊体同化』『霊力完全解放』」
そして、陽能は霊力を完全に肉体に馴染ませ、その青白い体から持ちうる最大限の霊力を解放した。
「龍殺しだか神殺しだか分からないけど……今の僕なら出来る筈だ」
陽能は自信を取り戻した様子で、輝く太陽の剣を龍に向けた。
「ククク……良かろう。見事、超えて見せよ」
嗤う白龍。その下で無言で佇む老日。そこに立ち向かっていく陽能の姿は、寧ろ勇者のように見えた。
「『紫焔渦』」
「『神炎雷烙』」
「『霊奔槍』」
紫の炎が渦を巻いて白龍を囲み、黄金の炎を連れ立つ白い雷が白龍に落ち、膨大な霊力が圧縮された音速の槍が白龍を狙う。
「ククッ」
しかし、それでも白龍は嗤った。