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天泳ぐ白龍

 空を、龍が舞う。白い鱗に身を包まれた巨大な龍が、泳ぐように空を飛んでいる。


「な……」


 声が出ない。陽能は頭に浮かんだあらゆる言葉を、一つ足りとも声にすることが出来なかった。有り得ないだとか、不正だとか、そんな言葉を口にすることすら恐ろしく感じてしまうような畏怖が……その龍からは感じられた。


「何だあれはッ!」

「龍……龍だ」

「ただの龍ではないッ! アレは白龍だぞッ! ただの門人風情に……どころか、一介の陰陽師に使役できる存在ではないッ、分かっているのか!?」

「落ち着け、まさか本物という訳ではあるまいよ」

「しかし、ただの模造品では無いぞ……アレは間違いなく、神性を帯びている」


 膨大過ぎる霊力を秘め、魔力すらも内包し、そして神力を帯びたその龍を見上げて混乱する陰陽師達。そして、彼らの長たる役割を持つ土御門天明もまた、驚愕に目を見開いていた。


「……老日勇。やはり怪物だな」


 溜息の後、眼を細めて言う天明。その横には弟の影人が立っている。


「そろそろ、あの男について詳しい説明を貰いたいところだが?」


「ハハハッ! まぁ、そうだな……心配する必要は無い。アイツは味方だ。少なくとも、人類にとってはな」


 良く分からない答えに眉を顰める影人だが、これ以上問い詰めても何も答えない奴だと兄弟故に理解していた。


「隠すのは良いが……何かあれば、お前が対処しろ」


「可能かどうか、怪しいところだな!」


 ハハハッ、とまた豪快に笑った天明に、流石の影人も睨まずには居られなかった。



 そこから離れた場所で、同じく並んで戦場を見下ろす二人。白い短髪に赤目の少女と、黒髪黒目の少年。蘆屋道満の子孫である干炉と、安倍晴明の子孫である善也だ。

 二人は自分たちの弟子の勝敗で、互いへの命令権を賭けていた。


「な、なっ……何だよアレ!」


「言ったじゃん、龍だよ。龍」


 さっきまでは優勢だった筈の戦況。だが、白龍の登場によってその雰囲気は一変した。陽能は呆然と空を見上げ、命令を下されない式神達も動かない。

 皆がただ龍の威容を目に焼き付けるだけの時が、過ぎていく。





 文辻陽能は、時間が止まったかのように動きを止め、龍を見上げていた。正確には、その身に帯びる神力を見ていた。


「……そん、な……嘘だ……」


 陽能は、その力を知っていた。いや、正確には……神を知っていた。小さな神だが、それでも自分にチャンスをくれた優しい神を。


「なんで……何故お前が、その力を使えるッ! いや、おかしいのはその龍かッ! その龍は、何なんだッ!!」


 陽能の問いに、老日は数秒の思考の後に答えた。


「俺の式神だ。俺が作った式神……白龍だ」


 白龍。それは、陰陽五行思想において金の相を担い、陰陽道発祥の地である中国においては天帝の使いともされる、神聖な龍だ。正に瑞獣、神獣とも呼ぶべきその存在は……ただの模倣や偽物だと吐き捨てられない程の神力と霊力、そして魔力を秘めていた。


「だから、その力はどうやって持ってきたッ! 神のッ、力はッ!!」


「……自然と宿った、とかだ」


 答える気が無い。陽能は一瞬怒りで脳を支配され、思考が空白に染まった。だが、直ぐにぐつぐつと煮え立つような思考を取り戻し、懐から式符を幾つか取り出した。


「暴いてやる」


「全力で来い」


 空を舞い、ただ地表を見下ろしていた巨龍が螺旋を描くようにして下へと降りていく。老日の後ろまで辿り着いたそれは、老日を守るように空中でとぐろを巻いた。


「ふざけるな……僕が、負ける筈がない。もう、僕は負けない」


 陽能は握り潰していた式符に霊力を流し、呪文と共に術を発動させた。それらは、全てが陽能本人を強化する力を持つ物だった。


「覚悟しろ、老日勇。僕だって、本気を出すのは……初めてだ」


「そうか」


 陰陽道以外の力という意味では、まだ本気を出していない老日は受け流すように答えた。

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