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罪滅の炎

 地を蹴った紅き熊。鬼はそれを正面から迎え撃ち、互いに腕を伸ばす。炎が舞う。


「グゥゥゥッ!!」


「ォォオオオオオッ!!」


 ぶつかり合う。拳と爪で殴り合い、食い千切られては蹴り飛ばし、砕かれては握り潰す。圧倒的な耐久を持つ熊と、しぶとく再生し続ける鬼。その決着は、鬼の傷跡の殆どが強く焼き付けられ、自由に再生が出来なくなった時に来た。


「グゥゥゥゥゥッ!!」


「ォォォォォォォオオオオオオオオオオオッッッ!!!!」


 既に片腕は無く、足も片方は膝から下が焼け落ちた鬼。碌に回避することも防御することも出来なくなっていた鬼は、振り下ろされる炎爪を避けることはせず、振り下ろされていない方の熊の片腕を凄まじい握力で掴みにかかった。


「グゥゥゥッ!!?」


「ォォォオオオオ……ッッ!!」


 首が斬り落とされ、地面に転がる。だが、それでも鬼は腕の力を弱めることは無く……熊の片腕をもぎ取った。


「グゥゥゥッ!!」


 その悍ましさに熊は恐怖を抱きながらも、自身の腕を掴んでいた鬼の腕を爪で斬り落とし、そのまま心臓を貫いた。そこまですると、漸く鬼の姿は忽然と消え去り、残された熊は荒い息を吐いて陽能の方を見た。


「良し、良くやった! 治してやるからな……」


「グゥゥゥ……」


 陽能はその熊に手で触れると、霊力を流しながらもぎ取られた腕を治癒させようとした。


「駄目だ」


「ッ、速い……!」


 折角頑張っていたからな。鬼の功績が失われてしまうのは、可哀想だろう。その老日の心中を知ることも無く、陽能は焦りながらも熊の後ろに回りつつ、霊力を指先から放った。


「術を使わない気か?」


「グゥゥゥッ!!」


 霊力の塊を手で弾く老日。そこに、主を守ろうと奮起した熊が片腕で襲い掛かる。左腕を無くしてバランスを失っている熊の攻撃は最初よりも威力が弱いが、最早それは関係ないだろう。

 何故なら、紅葬赦蓮威の能力は相手の罪を燃やすこと。今まで、多くの命を奪い、奪い、奪い続けて来た老日を相手には、その特殊能力が最高に発揮され……


「グゥゥゥ――――ッ!?」


 紅葬赦蓮威の体が内側から爆ぜ、紅蓮の炎が溢れた。結界内全体に、爆発的な勢いで広がった。それは観客席に座る陰陽師達にとっても驚愕に値するもので、皆が目を見開いていた。


「な、なんだ……ッ!? 結界内全体がッ!」

「罪を燃やす炎……だとすれば、今までにどれだけの罪を重ねて来たのだ!?」

「そうとは限らんだろう。文辻の坊が言うには、威力は殺した命の数に比例するらしいからな」

「これだけの火力……お互い、無事であるかは分からんな」


 たった一瞬で結界内を埋め尽くした炎は、それでも老日の持つ罪の一欠片に触れただけの現象だ。紅葬赦蓮威の能力で罪の全てを燃やし尽くそうとすれば、きっと灰に変わるのはこの島だけでは済まないだろう。


「そんな簡単に罪が燃えて無くなるなら、苦労はしないだろうな」


 老日は自分が殺してきた多くの命の殆どに罪悪感を持ってはいない。だが、数え切れないほどの罪を背負ってはいる。その全てを、ただ身を焼かれる程度で燃やし尽くせる筈も無いし、燃やし尽くさせる気も無かった。


「……お前は、どんな大罪人なんだよ。老日勇」


 漸く晴れた炎の中から、無傷の陽能が現れる。当然だろう。あの炎は規模が大きかっただけで、全てを溶かす超高温という訳でも無い。霊力で身を守っていれば、十分な程度だ。


「単純な、取捨選択の積み重ねの結果だ」


 そもそも、この能力に作用するのは飽くまで殺した数だ。一応、己の罪の意識が強ければ炎は強くなるが、その観点で言えば、老日は魔物を数え切れないほど殺しただけで現代社会の法律では大罪人とは言えない。


「……まさか、こんなことが起きるなんて思いませんでしたよ」


「喋り方、別に無理して敬語にする必要は無いが」


 さらりと敬語に戻した陽能に老日は言うが、白々しく首を傾げられるだけだった。


「先ずは、一対一……イーブンですよ」


「そうだな」


 お互いの一体目の式神は消え、動き出すこともなく向かい合う二人。陽能は老日を警戒して動かず、老日は相手の出方を見ていた。


「……じゃあ、二体目行くか」


 特に何もして来ないようだったので、老日はおもむろに懐から式符を取り出した。二体目の式神、景武者の込められた式符に霊力が流されていく。


「『式神召喚』」


「『式神召喚』」


 すかさず陽能も式符を取り出し、式神を召喚すべく霊力を通した。


「『景武者』」


「『楊心』」


 現れるのは、小柄な黒武者。そして、四尾の生えた美女。一目見ただけで力を持った妖怪であることが分かるその女の正体は、妖狐だ。陽能の持つ圧倒的なまでの霊力に惹かれ、自ら式神に下ったのだ。


「犬神より力は少し下だが……」


 厄介さという意味なら、犬神以上。天式から流れ込んできた情報から景武者はそう結論付け、目の前の相手を睨み付けた。


「どうする? また、式神バトルでもやるか?」


「いいえ、そろそろ……」


 陽能は薄暗い笑みを浮かべ、楊心の隣に並び立った。



「――――体が、疼いてきたところですから」



 陽能の体から、霊力が爆発的に溢れ出した。

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