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連なる式の鳥

 シロは体の羽根を全て細長い紙……札に変化させた。


「『我が身は貴き主の使いにして、無量の式そのもの』」


 白い札に包まれたシロは、その隙間から見える赤い目を爛々と光らせた。


「『式符顕換』」


 一斉に、白い札に黒い墨が走って文字が描かれていく。


「そいつがお前の本気か」


「その通りだ。こうなる前に私を殺しておくべきだったな」


 本気を見せたシロに、カラスは尚も余裕を失わない。


「本気のお前に勝たないと、群れのボスにはなれないだろ?」


「ほざいていろ。鳥風情」


 広げられた翼から、一枚の札が……式符が離れ、シロの周囲を漂うようになった。


「『弄燼火鞭』」


 その式符の黒い文字が焼け落ち、代わりに残った白い札から炎の鞭がぐねりと伸びた。


「燃える鞭か」


「その通りだが、まだだ」


 更に、二つ、三つ、四つと次々に式符が翼から離れ、最終的に九つの鞭が展開された。シロの周囲に浮かぶ札から生えるそれは、チリチリと火花を落としている。


「準備は終わったってことで良いんだな?」


「……いつまでも、その態度で居られると思うな」


 九つの札が飛び、九つの鞭が振り回された。


「熱そうだな」


 その言葉と同時に、九つの炎の鞭がカラスを打ち付け、焦がし、燃やした。ただの炎では無いそれは、鉄すらも直ぐに溶かしてしまうだろう。


「……今度こそ、殺したか?」


 炎の鞭に滅多打ちにされたカラスは生きてはいないだろう。今度は、逃げられないようにしっかりと目を凝らしていた。


「灰すら残っていないか」


 炎の鞭がシロの下に戻り、焼け爛れた地面が露わになった。そこにカラスの姿は無い。だが、今度こそは確実に仕留めた筈だとシロは視線を逸らした。

 瞬間、式符の一つが光り、勝手に翼から落ちた。


「ッ!?」


 攻撃を察知したシロが何とかその場から飛び退くと、影を塗り固めて作ったような巨大な黒い腕が空を掴んだ。


「攻撃を感知されたか? だが、見たところお前の力は個数制限付きみたいだな」


「アレでも、死んでいないだと……貴様、どうやって逃れた?」


 横に漆黒の腕を浮かべたカラスは、シロの言葉に首を振った。


「どうしようもない勘違いをしているな。最初から、ずっと」


「勘違いだと……?」


 カラスは笑い、翼を広げた。


「オレは一度たりとも、逃げたりなんかしてねぇよ」


 そう言い切ったカラスの体が、ぐずりと黒く溶けた。


「なッ!?」


 溶け落ちる体と、残された言葉。その二つに混乱を隠すことすら出来ないシロ。



「――――驚いてる場合か?」



 光り落ちる式符が警鐘を鳴らす。しかし、シロは動揺と混乱から反応が間に合わず、地面から伸びた無数の影の手に体を掴まれてしまった。


「くッ、こうなれば……ッ!」


 身体中を掴まれ、身動きが取れなくなったシロ。その体から一枚の式符が離れる。


「『狼煙の石、焼け落ちた木、酸の粉』」


 式符から黒い煙が漂い、空へと昇っていく。


「『砕いて、挽いて、粉としろ』」


 焼けたような臭いがする。硝煙にも似ている。火薬の臭いだ。


「『爆ぜよ』」


 式符の文字が、赤く燃えた。


「『燃灼焼灸』」


 瞬間、凄まじい爆音と赤い光がその場を支配する。


「まさか、これを使わされるとは思わなかったが……流石に、この範囲なら隠れる場所もない筈だろう」


 煙が晴れていく。コンクリートの地面は大きく窪み、ビルの壁は炭化している。


「……何故、()()()()で収まっている?」


 本来なら、辺り一面を吹き飛ばして火の海に変える程の術だ。流石にビルをそこまで破壊できるかは分からないが、それでもこの程度の被害で収まっているのは明らかにおかしい。


「そりゃ、大事にされても面倒だからな。音だって周りには漏れないようにしてやってんだ」


「……生きていたか」


 どこか察していたようにシロは言った。


「それと、率いる予定の群れを焼き殺されるのも困るからな」


 ゆっくりと歩いて来るカラス。シロは警戒するようにジリジリと下がりつつ、翼を広げた。


「あぁ、あと……そろそろ、()()


「なッ、くっ……」


 広げた翼から落ちる数枚の式符。しかし、それらが効果を発揮する前にシロは倒れ、眠った。


「お前みたいな生物かどうかも怪しい奴に効くのを作るのは難しかったが……良く視れば、何とか出来た」


 完全に眠っているシロを見て、カラスは一つ息を吐いた。


「……これで、ボスからの頼みも達成だな」


 一仕事終えたような雰囲気を出すカラス。だが、何かを察知して身構えた。



「――――それ」



 その頭上から、白い短髪の少女が飛び降りて来た。シロと同じ赤い目がカラスを見る。


「僕の式神なんだけど」


 制服が風に靡く。


「勝手に虐めるの、やめてくれない?」


 少女が一歩踏み出すと、シロの姿が消え失せた。


「……お前が、そいつの主って訳か」


「そう言ったじゃん。で、君は何? 僕のシロを倒せてるし、そこそこ強いみたいだけど……見たところ、式神では無さそうだね」


 カラスは答えない。ただ、じっくりとその目で少女の姿を観察している。


「はぁ、めんどくさいなぁ……まぁでも、能力はもう大体分かってるから。パパッと害鳥駆除しよっか」


 気の抜けた表情を消し去った少女は、スッと右腕を伸ばした。その手には一枚の式符が握られている。


「陰陽師、蘆屋(あしや) 干炉(かんろ)。参る」


 少女は伸ばした右手を顔の前に戻し、式符を挟んだ二本の指を立てた。

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