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門人試合、四試合目。

 宙を舞う二枚の式符。杏は流れるように言葉を紡ぐ。


「『誘那(ゆうな)』」


 俺の目の前に鬼が現れ、杏の目の前には紫の炎を宿す提灯のような式神が現れる。


「呪力を利用した式神は初めて見たな」


「えぇ、可愛いでしょう?」


 どうだろうな。可愛くは見えないが。寧ろ、呪いの気配が伝わって来るだけだ。


「戦闘術式、天式」


 俺の目が白く染まり、全ての情報を解析していく。目の前に漂う式神も、半人半妖である杏も、例外なくだ。


「来い」


「遠慮なく」


 杏の姿がかき消える。呪力が舞い散る。どす黒く染まった爪がスラリと伸び、擦れ違い様に鬼の首を落とした。


「ふふ」


 その爪が地面ごと抉るような勢いで振り上げられ、更に伸びながら迫るが、体を後ろに逸らした俺の眼前をギリギリで通り抜けた。


「このくらい、反応するわよね……それでこそ、よ」


 杏の体から呪力が溢れる。同時に霊力が駆け巡っているのが分かる。


「示出家は呪いの家よ。でも、ただ呪術を使うだけの家じゃなくて……きちんと役割があったの。他の幾つかの家にもあるように、ね」


 杏の体を覆い尽くすように黒紫色に光る呪印が現れ、額から角が生える。


「それは、この日本に溢れる呪いや祟りを吸い込み、抑えておくこと。可能な限りを祓い、浄化し、必要とあれば利用する……それが、示出家だったわ」


 だった。その言葉から察するに、今は違うか、若しくはその能力を失ったか。


「もう、示出家には私しか居ないわ。愚かな父は呪われて死に、愚かな母は妖と子を生して耐え切れずに死に……残されたのは、その妖と人の子である私だけ」


 つまり、生まれつき両親が居なかったようなものか。


「使用人も殆ど解雇したわ。必要ない家は全て売り払ったし、後は私が死ねばこの家は漸く終わりよ。そもそもが無理な話だったのよ。一つの家だけで、国一つの呪いを管理するなんて……到底、ね」


「アンタは、これからどうしていくつもりなんだ?」


 もう決まってるわ、と言って杏は観客席の方を指差した。


「呪いに詳しい人間は皇居の中にも居るらしいわ。だから、そこの人に可能な限り今までの仕事を引き継ぐことになるみたいね。皇居側は流石に私の家の仕事も知ってたみたいだし」


「……こう言っちゃなんだが、アンタのご両親はもっと早めに相談するとか出来なかったのか?」


 父親の死に方的に、無理があったのは間違いないだろうしな。


「さぁね。そういうことも出来ないくらい、既に私の家は病んでいたのかも知れないわ。でも詳しくは知らないわよ。私だって、両親と話したことは無いもの」


「そうか」


 俺は短く呟いて、空中に浮遊する杏の姿を見た。


「そろそろ、始めましょうか」


「あぁ」


 紫に光る提灯が杏の横に並ぶ。俺は式符を一枚懐から取り出し、宙に投げた。


「『式神召喚』」


 二枚目の式神。それは当然、こいつだ。


「『景武者』」


 黒い鎧と布で全身を覆い、頭に笠を被った小柄な武者が現れる。


「ふふ、そんなに私の全てが見たいのね」


「そういうことだ」


 景武者。この式神の役割は可能な限り相手の手札を引き出して負かすことだ。安倍晴明の結界の術はその役割を達成する為には持って来いのものだった。

 相手の攻撃に適応して対処する。天式と接続して常に相手の術を解析すれば、最早負けなしとも言える程に難攻不落な式神だ。


「だったら、私も少し本気を出させて貰うわ」


 杏が三枚の式符を投げる。それから小さく術を呟くと、杏の体に更なる変化が起きた。


「強化術か」


「当然よ。折角人じゃない体に生まれたのに、私という個を活かさないなんて勿体無いでしょう?」


 杏の背に呪力で出来た蝙蝠のような黒い翼が生える。瞳孔が紫色に染まり、呪力がぐるぐると杏の中で唸っている。


「先ずはこのくらいで行きましょうか」


 黒く染まり、長く伸びた爪を垂らし、杏は裂けたような笑みを浮かべた。


「さぁ、貴方を見せて?」


 杏が黒い翼をはためかせると、その体が空中から消える。俺の眼前まで迫った杏、振り下ろされる爪を俺は擦れ擦れで回避した。


「『昏き底より沸き上がれ』」


 杏はくるりと俺の背後に回ると、地面に手を突いた。


「『命溶の呪腕』」


 そこからどす黒い腕がにょきにょきと生え、凄まじい呪いを伴って俺の体を掴もうとする。


「悪いが、呪いの類いは効かない」


 俺はその腕達に群がられながらも杏の方へと歩き、黒い爪を避けながら手を伸ばした。

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