表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
446/487

人外の存在

 良い物が見れた。予想外だった。文辻陽能よりも、法少耶座母の方が面白い術を見せてくれるとはな。


「占術というよりは、単純に事象の解析ってところか」


 法少八咫神。大層な名前だが、それに違わない力は備わっているかも知れない。


「陽能の方は一つも……いや、あの剣だけか」


 唯一見れた剣を作り出す術も、突出して珍しい術では無かった。能力としては優秀だが、他にも似たような術自体はある。


「次が……準決勝か」


 そして、そろそろ俺の番が来る筈だ。


「老日様。老日勇様」


 扉を叩く音がする。どうやら、迎えが来たらしい。


「あぁ」


 俺は短く返事をして、部屋を出た。




 ♢




 目の前には、示出杏。これまでの試合では、身体能力で相手を圧倒し、呪力を直接流し込んで倒すというやり方を繰り返していた。術は見れていない。何なら、まだ霊力すら使っていない。


「調子はどうかしら? 勇」


「普通だ」


 いつも通りの口調で問いかける杏だが、その言葉からは期待や高揚が滲み出ている。


「そんなに楽しみだったか?」


「ッ、分かる? その通りよ。私は、貴方と戦える瞬間を心待ちにしていたわ……そして、その時が来た」


 杏は目の前から更に一歩前へ進み、俺をじろりと舐め回すように見上げた。


「あぁ……良いわ。きっと普通じゃない。その仮面も、本当は……ふふっ」


 仮面、気付かれてたのか。まぁ、言い触らされるようなことは無いだろうが。


「さぁ、握手しましょう」


 俺は無言で差し伸ばされた手を掴み、検品でもされるかのように触られるのをされるがままにした。


「……凄い。本当に人間なのね」


「どういう意味だ、それは」


 俺が眉を顰めて言うと、杏はくすりと笑った。


「だって、こんな私よりも人間離れしてるから……疑いたくもなるでしょう?」


「……理論上は、誰でも到達できる地点でしかない」


 少なくとも、肉体的な強さという意味ではな。俺と同じくらい魔物を殺して、俺と同じくらい強敵を倒して、そうすれば良い。俺は五年でここまで到達したんだ。数十年とかければこっちの世界でも俺と並ぶか、超えることだって……もしかすれば、出来るかも知れない。


「理論上なんて言葉は、机上の空論を並べる時にしか使わないわ」


「そうだな」


 俺はそう言って、杏から一歩離れた。


「そろそろ、始めるぞ」


「つれないわね」


 杏は笑みを浮かべながら俺に背を向けた。


「いつでも」


 審判に向けて言う杏。俺も無言で視線を送り、試合の開始を促した。


「それでは……西! 示出杏! 東! 老日勇!」


 審判は俺と杏を一瞥ずつ見た後に、中央へと視線を戻して片腕を上げた。


「両者、用意……始め!」


 合図が出たというのに、俺と杏はどちらも動くことは無かった。


「あら、どうしたのかしら?」


「いや、そっちが動く気配が無かったからな」


 ゆっくりと式符を取り出す杏に、俺も合わせて式符を取り出す。


「ふふ、合わせてくれるの? 優しいのね」


 杏は式符を天高く投げ、二本指を自身の口の前に立てた。


「『式神召喚』」


「『式神召喚』」


 宙を舞う二枚の式符が風に乗って絡み合い、開戦の狼煙が上がった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ