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門人試合、三試合目。

 広い戦場の中で、向かい合っているのは十蓮碧だ。青い長髪を後ろで纏めた、年端も行かないような少女。だが、幼いながらも鍛え上げられていることは分かる。特に、その歩き方を見れば武術を修めている者の一人であることは一目瞭然だ。


「老日さん、よろしくお願いします!」


 二回戦を簡単に勝ち抜いたらしい碧には、精神的な疲れなんかも見えはしない。だが、緊張しているというのは伸ばされた手から伝わってきた。


「よろしくな」


 俺はその手を取ると、落ち着かせる為に僅かな闘気を流した。すると、一瞬反応した碧だったが、にこりと笑みを浮かべた。


「ありがとうございます。老日さんはやっぱり、全力が見たいんですね?」


「まぁな」


 すっかり落ち着いた様子で問いかける碧。俺の目的について話したかは覚えてないが、見ていて分かることではあっただろう。そして、否定する必要もない事実でもある。


「だったら、気合入れて頑張らないとですね!」


 そう言って笑うと、碧は手を離した。


「本当は、老日さんの二試合目を見て……勝てる相手じゃないってのは、察しました」


 腰に差した刀に手を伸ばし、柄頭を撫でる碧。


「でも、老日さんに本気を出させるくらいは……してみせます! 勝てるかどうかは分かりませんけど、それくらいは」


 本気を出させる、か。俺が言うのも何だが、十二でそれが出来れば上出来どころの騒ぎじゃないぞ。


「まぁ、期待しておく」


「……見ていて下さいね」


 自分の印まで戻っていく碧。俺も印まで背を向けて歩き、振り返る。



「――――両者、用意……始め!」



 そして、合図が下された。俺は式符を一枚空中で放す。


「『式神召喚』」


 俺の目の前に現れる筋骨隆々の鬼。だが、碧はまだ動いていない。目を瞑ったまま、前傾になり、片足を曲げ、刀に手を当て……闘気がその体を巡る。


「『盈盈一水(えいえいいっすい)』」


 爆発的に霊力が溢れ、居合抜刀の勢いと共に踏み込み、一瞬で俺の眼前まで迫った。


「ッ」


 間に合わない。まだ天式は展開していない。霊力を生成して防御に回すのでは効率が悪い。今の俺では、間に合わない。


「なッ!?」


「いや、驚いた」


 鼻先まで迫った刃を……()()を纏った俺の手が掴んでいた。


「まさか、闘気を使わされることがあるなんてな」


 本気を出させるという目論見の一端は、ある意味果たせたんじゃないか。本来、使う予定の無かった力を使わされた訳だしな。


「戦闘術式、天式」


「ッ!」


 俺の目が白く染まり、刀を掴まれたままの碧は焦りながらも腹を蹴りつけた。


「見せてみろ」


 俺は刀を手放し、鬼の方に視線を向けた。


「先ずは、アレを倒してからだ」


「……悔しいですが、分かりました」


 ここで俺と戦っても、鬼と挟み撃ちにされるだけだ。碧は地面を蹴って大きく宙返りし、鬼の前まで舞い戻った。


「『式神召喚・模り蛟』」


 現れた巨大な蛇。それと共に、碧は鬼へと襲い掛かる。


「あの時倒せなかった鬼より強いのは分かってます、でも」


 躍りかかる蛟に鬼が拳を振るい、水が弾けた。その飛沫の中を碧が駆け抜けて斬りかかる。


「私だって、あの時の私とは違いますッ!」


 碧の動きに反応し、刀を掴もうとした鬼の指が……落ちた。


「『十蓮鉄打』」


 青色の線が碧の腕に走り、光り、そのまま刀は鬼の首を斬り落とした。


「瞬殺だな」


「二度も見た相手の動きくらい、読んで見せますよ」


 ここまでの二試合で、鬼の動きを碧は良く観察していたらしい。鬼の白羽取りも、予測していたのかも知れないな。


「それで、老日さん……どうするんですか?」


 離れた位置から、こちらに刀の先を向ける碧。どうするっていうのは、このまま戦うのか、それとも次の式神を召喚するのかって意味だろうな。


「答えは、これだ」


 俺は式符を一枚見せた。そこに霊力を流し、口を開く。


「『式神召喚』」


 式符に霊力が流れ込み、青白い光が灯る。文字もまた輝き、式符から飛び出さんとする。


「『景武者』」


 そして、現れた。俺の目の前に、小柄な武者が。頭に笠を付け、顔を黒い布で隠した武者が。

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