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近接特化型陰陽師

 一瞬で俺の眼前まで迫って来る那宇原。霊力や闘気によって強化されているのは勿論、ハンターなだけあって魔素も他の陰陽師より多い。お陰で、中々の身体能力だ。


「どうだッ!」


「どうもこうも無いな」


 俺は素手で敵の攻撃をいなし、回避していく。今のところ、攻撃を食らいそうな気配は無い。


「そうかよ……だったら、本気を見せてやる」


 那宇原の腕が急に盛り上がり、肩まで筋肉が肥大化する。


「俺の式神、血肉骨支はその名の通り肉体を補強する。自由自在にな」


 振るわれるのは、倍近く膨れ上がった巨腕。速度も更に上がったそれをギリギリで回避するも、その直後に腕の内側から骨が飛び出し、血が噴き出す。


 だが、それを予測していた俺はばら撒かれるように飛散する骨を撃ち落とし、血を霊力で吹き飛ばした。


「なッ、読んでやがった!?」


「天式の能力だ。相手の術を看破し、その能力を解析する。その他の能力に関してはおまけでしかない」


 霊力の生成速度を上げるだとか、その運用を効率化するだとかは、この戦闘術式の本領では無い。


「そうかよ……だが、タネがバレたところで困るような能力じゃねぇ」


 那宇原の肉体がぞわりと蠢き、その構造が変化する。補強された筋肉、殆ど脂肪は燃え尽きて純粋なエネルギーに変わった。そして、その背から骨の腕が二本、翼のように生えてくる。


「霊侭」


 那宇原が融合した式神の名を呼ぶと、那宇原の霊力がぶわりと燃え上がるように増していく。


「『陸靭強化』」


 そして、骨の腕が那宇原の背で手印を結び、陰陽の術が発動して更に那宇原の身体能力を向上させる。


「これでも届かないかッ!?」


「残念ながらな」


 天式は直接的に身体能力を大きく引き上げるような能力は無いが、そもそも素の身体能力に差があり過ぎる。


「『緑風爽脚』『羅炎叫心』」


「……惜しい」


 足に風を纏い、胸から炎が飛び出し、那宇原の速度が更に上がる。しかも、空に浮かんでる眼の式神による影響で段々と動きが最適化されている。とは言え、まだ足りない。


「『無形核・煤金』」


 那宇原は背後に回りながら式符を抜き出し、術を唱える。すると、その式符の中からキラキラと黄金色に輝く煤が大量に噴き出した。


「もう分かった。お前は手札を隠して勝てるような相手じゃない。だから、ここで力を出し切ってでも殺して勝つことにする」


 黄金の煤が風に乗っているように那宇原の回りをぐるぐると飛ぶ。更に二枚の式符を取り出した那宇原は、それらを空中に放り投げた。


「『霊游鋼剣』『猟干鉄糸』」


 鋼の剣が三本浮かび、那宇原の体に鉄の糸が纏わりつく。


「止めなくて良いのか?」


「あぁ」


 俺が頷くも、那宇原は寧ろ笑みを浮かべて更に術を唱え始めた。


「『陽中の陽、陰中の陰。互根陰陽、交錯の果て』」

「『天地一体、陰陽一体。真気真水、二気内丹』」


 喉の下あたりが裂け、那宇原から二つの声が同時に響く。


「『陰陽煉氣』」


 空から大地から力を取り込み始め、那宇原の身体中を陽の気と陰の気が凄まじい勢いで駆け巡っていく。那宇原の肉体は、さっきまでとは比べ物にならない程のパワーを秘めているだろう。


「待たせて悪いな」


 体が流動するように暗くなったり輝いたりを繰り返す那宇原は、そう言いながら骨の腕で式符を見せびらかした。


「『陽霊砲』」


 輝く青白い波動が式符から放たれ、それと同時に那宇原が距離を詰めてくる。


「っと」


 霊力の奔流を避け、横に回りながら脇腹を斬り付けようとする那宇原の剣を霊力を纏った拳で弾く。


「舐めるなよ」


 弾かれた剣が腕ごと糸に引っ張られて再び斬りかかり、同時に浮遊する三本の鋼の剣が背後と左右から襲い掛かってくる。


「そうだな」


 俺は息を吐き出し、体をざらざらと削り立てる黄金の煤に辟易しながら霊力を放った。


「んなッ!!?」


 俺を中心に吹き荒れた霊力の嵐は煤を吹き飛ばし、剣を蹴散らし、那宇原を押し退けた。


「相手をしてやる」


「ハハッ、舐めてたのは俺だったらしいな……!」


 牙を剥いて笑う那宇原はその手に握る剣に霊力を込め、俺を睨み付けた。


「死に晒せッ、老日勇ッ!!」


 大きく踏み込み、全身から闘気を溢れ出させる那宇原。振り下ろされる剣は速く鋭く、俺の身体能力でも避けるのは難しいだろう。


「『霊刀』」


 俺は霊力の刀を作り出し、その刃で振り下ろされる剣を弾き上げた。


「くッ」


「『霊纏拳』」


 隙が出来た那宇原の腹部に、刀を持っていない方の手で霊力を纏った拳を叩き込んだ。


「がッ、ハァ……ッ!」


 腹に大穴が開いた那宇原だが、それでも霊力の込められた剣を振り下ろしてきた。しかし、僅かに動きの鈍いそれを回避し、逆に刀で首を斬ろうとする。


「ッ!」


 が、那宇原の体が変化し、頭が丸ごと消える。刀は空振り、那宇原の胸から生え出た腕が俺の装束を掴んだ。


「『爆霊球』」


 喉の下に裂けて出来た口が開き、骨の腕が持っていた式符が輝く。そこから放たれる霊力の球、避けようとするも胸から生えた腕に服を掴まれているせいで動けない。


「どうだッ、吹き飛べッ!!」


「……」


 霊力の球が爆ぜ、凄まじい爆発を引き起こす。地面が抉れ、青白い光が視界を埋め尽くした。


「ダメ、か……」


 あちこちに骨が露出しているボロボロの姿になった那宇原は、地面に剣を突き立てて何とかまだ立っている。だが、ここからの再生には血肉の式神の力があっても十秒はかかるだろう。


「惜しかったな」


 対する俺は、霊力による防御もあって傷一つ負っていない。俺はそのまま、碌に動けない状態の那宇原に剣を突き立てた。


「ぁ、ぁ……負け、か……」


「あぁ。でも、悪くなかった」


 俺が言うと、喉の下の口が笑うように裂けた。


「俺も、だ……」


 体内に霊力を直接注ぎ込まれた那宇原は一瞬で肉体が爆散し、跡形も無く消えた。

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