秘伝の書
あれからついでに何人かと手合わせをさせて貰った俺は、直人に連れられて屋敷の奥にある部屋に連れて来られた。厳重に貼られていた結界を通り抜けた先に、そこはあった。
「書庫、か……?」
というには、少し雰囲気が違う。それに、ここにある本の一つ一つから漂ってくる気配が……
「ここは、私が代々受け継いできた蘆屋家の秘伝書を纏めて置いてある場所だ」
「やっぱり、そういう場所か」
ということは……読ませてくれるのか?
「ふふ、流石に全てを見せる訳にはいかないが……実力は申し分無しと判断したからね」
「それでも、有難いな」
蘆屋から見せられたものは割と簡単な術が多い、入門書と言った基礎のものだったが、ここにあるモノはきっと更に進展した内容の本も多いだろう。
「ただ、どれか一冊と言うのも難しいだろうし……そもそも、ここから本を持ち出されることが好ましくない」
「ここで読めってことか?」
俺の言葉に、直人は頷いた。
「今日はうちに泊まりなさい」
つまり、一日かけて読めって話だろう。
「今日だけなら、何冊でも好きに読んで良い」
「ほう」
俺は思わず言葉を返した。時間制限付きとは言え、何冊でも読んで良いということは……
「良いのか?」
「勿論、構わないよ」
これは、相当にラッキーだな。直人は俺の能力を知らないんだろう。俺は魔術を使えば完全に内容を記憶出来る。
「分からないところがあれば干炉に聞きなさい」
「任せてよ。師匠だからね、僕は」
俺は頷き、本の並ぶ棚に近付いた。
「じゃあ、早速」
俺は手を伸ばし、古びた本を開いた。
♢
全ての本の内容を記憶した俺は、その大体の内容を蘆屋の解説によって理解した。
「ここまでやっといて何だが……良いのか?」
「別に良いよ。それに、一番の秘密……一子相伝の書はここには無いし」
そう言って、蘆屋は本棚の端を指差した。
「ベタな仕掛けだな」
「まぁ、そもそもこの結界内に許可なく入れるような奴なんて殆ど居ないし」
流石に仕掛けを突破して秘密の書を見るようなことはしないが、もう少しちゃんと隠しても良いとは思う。
「あと、ぶっちゃけ一子相伝の術は蘆屋の血を引いてないとだし……」
あぁ、血統魔術みたいなもんか。それなら見つかった所で大して変わらないな。
「そうだ、勇」
何かを思い出したかのように蘆屋が言う。
「門人試合のルール何だけど、覚えてるよね?」
「あぁ、覚えてるが」
制約の少ない試合ではあるが、それでも幾つかのルールは定められている。
「一試合に持ち込める式神は三体までで、式符は十五枚まで。用意出来てる?」
「……出来てないな」
式神は一体しか作っていない上に、式符も試合用には作っていない。
「まぁ……適当に用意しておくか」
流石に同じレベルの式神を後二体は間に合わなそうだから、雑に作るとして……式符はどうするべきか。
「式符の構成って、どういうのが普通なんだ?」
「えー、人によるとしか言えないけど……でも、結界系の式符は三枚くらいは欲しいかな。あとカウンター用の防御札も欲しいし……うん、本当に人によるね」
余り参考にはならなかったな。
「蘆屋ならどうするんだ?」
「僕? 僕なら、十五枚制限だと……結界が三、防御が二か三、残りが攻撃系かな」
凄い普通な感じだな。
「僕は自分の身を守れる式神が多いから、防御用の式符は少なめで済むって感じかな」
「参考になった」
じゃあ、俺は防御用の式符は要らなそうだな。
「……流石に、一枚くらいは持っておくか」
俺の肉体を破壊できる相手がどのくらい居るのか分からないが、まぁ保険はあるに越したことは無い。