血統の陰陽師
開始の合図と同時に、方心は動き出した。
「『縛旺緑蛇』」
手印を結び、術を唱える方心。すると、俺の足元から緑の植物が芽吹き、凄まじい勢いで成長し、蛇のような形となって俺の足に絡み付こうとする。
「『木生火』」
「『風増火』」
飛び退き、植物の蛇を燃やした瞬間、それを予期していたように風が吹き、炎の勢いを何倍にも強めて俺へと向かわせる。
「なるほどな」
「ちょこまかと……」
吹き荒れる炎を潜り抜け、俺は再度方心に向き合う。しかし、面白いな。何というか、陰陽師らしい戦いだ。魔術よりも属性に対する意識が強い。
「『式神召喚』」
俺の身体能力を見て危険を感じたのか、式符が宙を舞い、中から鎧の武者が飛び出す。
「殺せ」
「来たな」
だが、一体だ。それに、大した式神でも無い。
「小手調べってところか」
太刀を振り下ろす鎧の式神。俺はそれを軽く避け、霊力を籠めた拳を鎧の胸に叩き込んだ。
「本気でやってくれないか?」
「ッ!?」
鎧が一撃で弾け飛ぶ。文字となり、式符に戻った式神に方心は目を見開く。
「良いだろう……精々、後悔するが良いッ!」
式符が三枚、宙を舞う。
「『式神召喚』」
宙を舞う式符達から、文字がするりと抜けていく。
「『姧豎。隆観。伽藍童』」
邪悪そうな顔をした少女、僧の装いをした少年、無表情の少年が現れた。全員、服装は古びた和装に見える。
「そういう趣味か?」
「黙れ」
蘆屋のことで突っかかってきたのもそういう……無駄なことを考えていると、伽藍童と呼ばれた無表情の少年が距離を詰めて来た。
「なるほどな」
肉弾戦タイプか。小さいがすばしっこく、捉えづらい。
「ここだ」
しかし、俺は直ぐに伽藍童の動きを捉え、その頭を蹴りつけた。
「そういうことか」
容易く少年の頭は潰れ……それから、直ぐに膨らんで元に戻った。伽藍童。その名の通り、風船のようなハリボテの体だ。
「あははははははっ!!」
大きな笑い声が背後から聞こえ、振り向くと邪悪な顔の少女……姧豎が立っていた。その様子を見ただけで、精神が錯乱し、発狂してしまうだろう。常人なら。
「『量体崩化』」
隆観が錫杖を振るうと、俺の体が砂のように崩れそうになるが、霊力によってしっかりと防護していた俺はその影響を受けなかった。
「『砂鮫乱海』」
結界内の地面全体がさらさらと蠢き出し、四方八方から砂で出来た鮫が飛び出して来た。
「厳しいな」
本気で術者を殴りに行けばこの状況からでも勝てるが、それは俺の望むところでは無い。だが、この状況が続けば不利になるのは間違いない。
「戦闘術式、天式」
俺の目が白く染まり、霊力が滲み出す。
「ッ!? なんだ……その、霊力は」
「『出でよ、疾く向かえ。白霊剣陣』」
俺の足元に白い霊力陣が展開され、その上に立っている俺の周囲から幾つも白い霊力の剣が現れては、方心に向かって飛んでいく。
「『霊纏拳』」
「ッ」
俺の正面から飛び込んで来た伽藍童の腹部に拳を叩き込み、その全身に霊力を流して破壊する。
「『影駆』」
俺の体が影のように暗く薄くなり、四方八方から飛び掛かる砂の鮫達を躱し、距離を取る。
「『添霊鉄刃』」
陰陽道によって手裏剣のような鉄器を作り出し、霊力で操り、俺の周囲を飛ばせる。飛び掛かって来る砂鮫に食らわせ、自分を守る為だ。
「『無量木生』」
地面に手を付け、術を発動する。そこから凄まじい勢いで木が生え、結界内を埋め尽くす勢いで育っていく。
「『木生霊炎』」
更に、その木に纏わりつくように青白い炎が燃え盛っていき、結界内のほぼ全てを焼き尽くす。
「『天光之座』」
しかし、結界の端で錫杖を持って隆観が方心を守っていた。黄色く光り輝く小さな結界が、隆観と方心の二人を覆っている。姧豎は燃えて消えただろう。
「『明像顕現・光腕』」
次の瞬間、方心の前に巨大な腕が現れ、青白く燃え盛る木を退かしながらこちらに迫る。
「『光心鎖』」
「『蒼霊砲』」
隆観の術によって俺の周囲から光の鎖が発生して俺に向かい、逃げ場の無い俺に向かって青い霊力の波動が迫る。
「『転返之神鏡』」
真っ直ぐに迫る霊力の波動。俺の正面に現れた色の無い鏡が、その波動をそのまま跳ね返した。