模擬戦の観戦
門弟たちを見ていると、遂に術を使った修業が始まった。二組ずつで一対一の模擬戦を行い、その様子を他の者が観察してフィードバックするというようなものらしい。
「よーい、始めッ!」
向かい合う二人の陰陽師。緑の服の若い男と、紫の服の中年の男だ。
「『劫命、鎌鼬』」
「『師走の光』」
見えない風が中年の男を襲うが、現れた光の球体がそれを防ぎ、そのまま光球は地面を走って若い男へと向かう。
「ッ、『褪せの風』」
「『光剣連鎖』」
冷たい風が吹き、光の球を矮小化させて消し去る。しかし、その隙を突くように中年の男が式符を使用し、鎖で繋がった光の剣を放つ。
蛇のように空中から迫る光の剣。若い男は飛び退いてそれを避けるが、光の剣は空中でくるりと向きを変えて再度男を狙う。
「……割と本気でやってそうだが、大丈夫なのか?」
結界は張っているから屋敷への被害は出なそうだが、当人同士の命が危ないレベルに見える。
「大丈夫だよ。守護の札を付けているから、仮に命の危険に陥っても死ぬことは無い」
「なるほどな」
そう言う感じか。確かに、この規模の戦闘ならそれでも問題なさそうだ。
「『光爆塵』」
宙を舞う式符。空中で爆ぜたそれからは、光り輝く塵が大量に散布された。その塵は空中で更に爆発し、光を撒き散らし続ける。
「なッ!?」
「『光眞視』」
結界の内側が光で溢れ、何も見えないような状態になった中、中年の男は構わず光の中を進んでいく。
「『光延刃』」
中年の男は手を伸ばし、そこから光が伸びて刃となり、若い男の首筋に突きつけられる。
「ッ!」
「終わりでよろしいか」
爆ぜる光が収まった後、自身の状況を把握した若い男は息を呑み、中年の男の言葉に両手を上げた。
「良いな」
「中々、侮れるものでも無いだろう」
やっぱり、歳を食ってる奴は自分の中の戦い方が決まっているな。戦闘に慣れてるってのは、それだけで慣れてない奴の三倍は強い。
「あぁ、面白い」
当然かも知れないが、俺の知らない術ばかりだった。それに、術士同士の戦いの形が見れたのも悪くない。
「直人様、干炉様。いらっしゃって下さりありがとうございます」
俺達に気付き、駆け寄ってきた男。青い装束を身に纏った美青年だ。
「ところで……そちらの仮面の方は?」
「こいつの弟子だ」
俺が言うと、男は眉を顰めた。
「少々、言葉遣いがなっていないようですが……どちらの家の方でしょうか?」
「どこでもない。一般家庭の出だ。すまんが、礼儀なんかは知らずに育ってきた」
俺が答えると、男はふんと鼻で笑った。