霊力の波動
式神作りというのは、使い魔の作製に似ている。だが、違うのは使い魔がパーツを組み合わせて形を作るようなものだとすれば、式神作りは粘土を捏ねて形を作るようなものだ。
そして、使い魔というのは様々なタイプが存在する混沌としたものだが、式神は結局のところ陰陽道というものに帰結する、使い魔よりも術として法則性があるものだ。
「まだ時間はあるな」
直ぐそこにある滝の音も、ここには届かない。森の中の、滝の裏側に造られたこの施設は、借りている土地の内側だ。誰にも知られることは無いだろう。
門人試合は陰陽道を扱う必要があるが、魔術を利用した陰陽道自体は問題ないという話だった。
「魔術によって術の規模を拡張し……陰陽道の術式を限界まで刻み込む」
素体となる材料には、龍の素材や俺の腕なんかを使っている。術に耐えられないようなことは有り得ないだろう。
「神力、どう作用するかだな」
門人試合が始まるその日まで、式符は俺の血に沈められ、毎日神力を込められている。爆発して全て台無しになるようなヘマはしないが、どこまで予想通りに作用するかは分からない。
(まぁ、少なくとも今のところは問題なさそうだ)
式神の調整を切り上げた俺は、自分の陰陽道の修行に向き合うことにした。
「そういう訳で相手になってくれ。カラス」
俺が振り向いて言うと、影からカラスが現れた。式神作りの様子を見に来ていたのだろう。
「カァ、どういう訳かは知らねぇが……良いぜ」
ニヤリと笑うカラス。俺は手を振り、滝の外へとカラスを連れ立った。
♢
戦闘術式の天式を用いたカラスとの戦闘は熾烈を極めた。戦っている中で陰陽道における式神の必要性を痛感しながらも、俺は成長した使い魔の姿を目の当たりにしていた。
「ハハハッ、ハンデ有りとは言え、ボスと対等に渡り合えてる感覚は悪くねぇな!」
「随分、強くなったらしいな……!」
四方八方から影の鴉が飛び交い続ける。陰陽道の術を使う暇なんて与えないと言わんばかりの猛攻。その癖、本体のカラスは全く危険を冒さない。確実に安全なタイミングを見極め、かつそれが必要な時にのみ雷撃の棍と槍を振るってくる。チラチラと意識だけを奪ってくるやり方だ。
「参考になるな……これが、式神使いの戦い方か」
触れれば影に呑みこまれる鴉の群れ、空を舞う雷龍はその耐久力を活かして盾となり、二体に分身した俺そっくりの影は賢く俊敏で常に俺を妨害し、その他にも無数の影の使い魔達が絶え間なく襲い掛かる。
「カァ、式神じゃなくて使い魔だけどな?」
しかし、弱った。ジリ貧だ。向こうは戦力を消耗することなく、次々に布陣を整えている。だが、俺は式符を取り出す暇も与えられず、身を守ることだけに集中させられている。
(……このままだと、負けるな)
カラス、ここまで強かったか。きっと、メイアやステラも同じくらい強くなっているんだろう。アイツらはバランスが良いからな。
「仕方ないな」
「お?」
大人気ないが、これしか無いだろう。
「『白霊波』」
俺は霊力の一部を一気に解放し、全方位への波動として放った。白い波動は、溢れる影の全てを消し去りながら広がっていく。
「なッ、『影戻し』」
慌てた様子で影を引き戻すカラス。その後、体制を立て直す為に影に潜り込んだようだが、俺は陰陽道でそれを逃がさずに追いかけ、更に術によって影の中に閉じ込めた。
「俺の勝ちで良いか?」
「カァ……力押しが過ぎんぜ」
解放され、影からのそのそと出て来たカラスは不満げに言った。