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門人試合に挑む者達

 屋敷の中、集会が終わった後。二人の少女が残って話していた。


「うん、驚いちゃったよ。まさか、干炉さんの弟子だったなんて……」


「ふふ、そうね。でも、あの人の弟子なら納得かも知れないわね?」


 一人は青い長髪を後ろで纏めた少女、十蓮碧。一人は黒色の美しい髪を持つおかっぱの少女、示出杏(しめしであんず)。十蓮碧だけでなく、日本人形のように美しい彼女もまた門人試合に挑む者だ。


「……おやおや、ふふふ」


「えぇ? 急になに?」


 突然別の方を見て笑い出した杏に、碧は怪訝そうな顔をする。


「私、呪いには良く鼻が利くんだけれど……ふふ」


「だから、どうしたのか教えてよ!?」


 杏は楽しそうに笑い、碧に手招きした。


「貴方に染み付いていた呪いの匂いと、全く同じ匂いがするわ。この屋敷の中から、ね?」


 耳元で囁く杏、碧は目を見開く。


「え、じゃあ来てるってこと?」


「そうねぇ……どうかしら」


 曖昧な答えに碧は首を傾げた。


「どうかしらって、どういうこと?」


「もし本当に仮面の人だとしたら……匂いが薄すぎるわ。少なくとも、今は絶対に着けてないわねぇ」


 壁の向こう側を見ながらぶつぶつと語る杏。


「だから、そうねぇ……考えられるとしたら、仮面の人は本当は仮面を外せるか、あの呪いの匂いが移った別の誰かが居るか、若しくは呪いの匂いをどうにかして薄くしてるか、かしらね?」


「……そういえば、干炉さんからは呪いの匂いはしなかったんだ?」


「ふふ、そうねぇ……不思議なことに、ね?」


「だったら、干炉さんの前では仮面をつけてない……いや、干炉さんは完全に匂いを消してるとか?」


 深く話し込む二人の少女。そうしていると、廊下を天明と干炉が歩いて行くのが見えた。


「へぇ……ふふふ」


「えぇ? 今度はなに?」


 杏は黙って歩き、二人が歩き去って行った廊下に出た。碧も何が何だか分からないまま杏を追いかける。


「やっぱりね」


「なにが?」


 二人が居たであろう部屋の前に立ち、目を細める杏。彼女には、見えていた。そこから廊下に出ることなく屋敷から脱出した僅かな呪いの匂い、その軌跡が。


「お忍びだったみたいよ」


 杏は細い笑みを浮かべ、舌なめずりをした。


「楽しみね……門人試合」


「えっと、うん……楽しみだね?」


 半妖の陰陽師である示出杏は、来たる日に思いを馳せて笑みを深めた。




 ♦




 陰陽道の名門の一つである火伏家には、今年で十五となる嫡男が居た。じっくりと基礎から学ばせ、門人試合での卒業は重視しないやり方である火伏家だが、当の本人は燃えるような闘志を抱えていた。


「ぜってぇ……ぜってぇ、優勝してやるッ!!」


「やかましい。煉治」


 パシリと頭を叩いたのは彼の叔父だ。まだ若い叔父は、煉治にとっては兄のような存在だった。


「だってよ、叔父さん。皆、焦んなくて良いっては言うけど……俺からしたら、悔しいし勝ちたいに決まってるだろ!?」


「そりゃぁ、勝ちたいのは誰だって同じだろうよ。その中でも、うちは特別勝つ為の……つまるところ、門人試合に必要な対人戦の技術に関してはまだ教えていない訳だから、負けても必要以上に悔いることは無いと言ってるんだ」


「……でも、勝ちたいじゃん!!」


「その意気は良いことだが……そればかり考えて、今の修練に支障を来たすのも良くないぞ」


 叔父の言葉にも、煉治は首を振らない。


「支障、来たすに決まってるじゃん! 考えないなんて無理だって……俺もう、十五だよ!?」


「何を言ってる。門人試合は狭き道だ。参加する者には二十を超えている者だって多く居る」


「いやいやいやいやッ、火伏家って名門で、五回以上も優勝出来てないのは流石に話が違うだろ!? それに、二十歳超えてる人だって戦闘系がメインじゃ無い人とか、スカウトされて弟子になった人とか、そういう人ばっかでしょ!?」


 煉治の言葉に、叔父は黙りこくる。


「……分かった」


 首を傾げる煉治に、言葉を続ける。


「少しの間、俺が対人戦用の修行を付けてやる」


「えッ、ホント!?」


 立ち上がる煉治は、目を輝かせて叔父を見る。


「但し、元の修行も疎かにしないことだ。良いな?」


「分かった! 分かった分かった! 約束だからな!?」


 煉治はライバル達の顔を頭に思い浮かべながら笑みを零した。

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