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集会

 解呪出来るものを探す十蓮碧の話は瞬く間に広がり、正体不明の仮面を付けた陰陽師が居るという噂になっていた。


「という訳で、陰陽寮の関知していない陰陽師が居るというのは好ましくは無い訳だ。取り込む必要も排除する必要も無いが、何の情報も無いまま放置するのは危険だ」


 陰陽寮の所有する屋敷では集会が開かれ、大量の陰陽師が座布団の上に座っていた。殆どの者は正座し、高座に座る天明の話を聞いている。


「何か知っている者がいれば話してくれ」


 興味深そうにしている者、感心の無い者、こそこそと話し合う者、それぞれの反応を見せる陰陽師達だったが、その中の一人はとても面倒臭そうな表情をして……手を上げた。


「おぉ、知っているのか。そこの者……む、蘆屋のか」


 立ち上がった少女を見て、天明は意外そうに眉を顰めた。


「まぁ、どうせ知られるから言っちゃうけど……その人は、僕の弟子だよ」


「ほう?」


 天明は興味深そうに笑みを浮かべ、続きを促すように蘆屋を見た。


「そんな目で見られても別に話すことなんて大して無いけど」


「つまり、師であるお前でさえも素性を知らぬ相手ということか?」


「んー、素性っていうか……前から親交はあって、呪いで悩んでるからこっちの道を紹介してあげただけってところかな。元はハンターだって話だね」


「ハハッ、無用な心配はするな、と言いたいんだろう?」


 蘆屋は何も言わず、口元に笑みを浮かべる。


「まぁ、元から話を通すつもりではあったよ。門人試合の前にはね」


「貴様ッ! さっきから聞いていれば天明様への敬意を……ッ」


 態度の軽い蘆屋に、陰陽寮に属する陰陽師の一人が立ち上がり、睨み付けて指を差した。しかし、天明はそれを止めるように手を出し、座るように促した。


「陰陽寮の所属であればその言い分も分かるが、蘆屋家は陰陽寮に属さん陰陽師だ。上下の関係も無いし、俺としてもそれを強いる気は無い。元より、俺は陰陽寮の内部でもそういった上下は無い方が良いと考えているのだが……まぁ、それは今は良かろう」


 天明は一つ息を吐き、蘆屋に視線を戻した。


「だが、師となるということは……仮面の男については、お前が身元を保証するということになるが、良いな?」


「勿論。彼の身元は、蘆屋干炉が保証する」


 はっきりと言い切った蘆屋に、天明は満足そうに頷いた。


「良し、それならば問題は無い。門人試合にも出るということだな?」


「うん。それと、詳しい話は後でさせて欲しい」


 ふむと頷き、天明は蘆屋に座るように促した。


「助かった。では、次だが……」


 次の話を始める天明。涼しい顔で座り込んだ蘆屋は、後列に座っている二人の陰陽師がその背を見ていることに気付かない。


「……干炉」


「……あは」


 土御門善也。文辻陽能。片やドロドロと濁った感情を向け、片や妖しい笑みを浮かべる。


「陽能。今日からは厳しく修行を付けてやる」

「善也様。より本気の修行をお願い致します」


 二人は顔を合わせ、その目の奥に別の感情を宿して頷く。


「……今度こそは、俺が」


「僕が負けるなんて、有り得ない」


 心の中で呟いた二人は、門人試合を見据えて思考を巡らせ始めた。






 ♦




 蘆屋に呼ばれた俺は、天明と顔を合わせていた。


「いやぁ、まさかお前が陰陽道を歩むことを選ぶとはな! ハハッ、歓迎するぞ!」


「あぁ。だが、俺のことは他の奴には漏らさないように頼むぞ」


 陰陽師の集まっているという屋敷に招かれ、誰にも見られることなく潜り込んだ俺だが、今は仮面を付けていない。流石にこの屋敷の中で仮面を出せば、一瞬で気付かれるからだ。


「分かっている。そして、俺からもお前の身元は保証し、門人試合に出る許可を正式に出そう」


「別に、その門人試合ってのは……いや、まぁ興味はあるか」


 実際、試合に出て戦えば得られることは多くあるだろう。


「俺や干炉のような者は出らんが、今回は中々期待の星が集まっているからな……ハハハッ、楽しみにしていると良い!」


「そうか。期待しておく」


 前言ってた霊力が異常って奴の他には知らないが、こいつがそういうなら期待できるんだろう。


「さて、まだ去っておらん者も居るだろう。挨拶して行くか?」


「しない」


 にべもなく断ると、天明は肩を落とした。


「しかし、そうか……なるほどな。大分位の高い悪鬼を殺したと聞いたが、お前なら納得だな」


「そういえば、あの女はどの程度の陰陽師だったんだ?」


 水を操る陰陽師。十蓮碧だとか言っていた筈だ。


「あぁ、碧か。あの子もまた、門人試合に出る仲間の一人だぞ?」


「まだ弟子のレベルなのか」


 俺が言うと、天明はニヤリと笑った。


「いやぁ、普通であればはっきり優勝候補と言えるレベルの実力は持っているのだがな……言った通り、今回の門人試合はレベルが高いということだ」


 本来なら、卒業していたっておかしくない実力ってことだな。


「まぁ、期待しておくか」


「うむ。それと、十蓮家と言えば……お前のことを探していたぞ? 何やら、直々に感謝の言葉を伝えたいとかでな」


 ……面倒だな。


「別に良いと伝えといてくれ。それと、俺はアンタら陰陽師のシステムにまだ詳しく無いんだが……実力より上の悪霊とは当たらないようにしてやった方が良いんじゃないか?」


 お陰で、死に掛けてたぞアイツは。


「基本的にはその筈なんだがな……事故が起こらぬように十分な占いを経て任務は下されるようになっている」


「でも、所詮は占いだからね。占いをするだけで、その未来は確定のものじゃなくなるよ」


「しかし、滅多にないぞ。想定されていたよりも上の敵が現れるなど」


 占いによってその未来を知った時点で、未来は変化するということだろう。占いをしなければ未来を知ることは出来ないが、占えば未来は変化するというジレンマだ。


「まぁ、僕は陰陽寮所属じゃないからね。そっちがどんな術やシステムでやってるかは知らないけど」


「何にせよ、だ。感謝の言葉くらいは受け取ってやると良い」


「……門人試合の時にな」


 それまでは、どうせ会うことも無い。

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