悪霊悪鬼
霊力及び陰陽道の修行に励んでいる俺は、蘆屋から聞いた悪霊が出ているという場所に向かっていた。
「ここら辺だった筈だが……」
山奥の森の中。俺は目を瞑り、地面に手を当てて霊力による探知を行った。
「そこか」
見つけた。俺は印を結び、陰陽道の術を構築する。
「『霊転飛』」
体が一瞬軽くなるような感覚の後、俺は悪霊の目の前に立っていた。
「ゥゥゥ……?」
「こいつか?」
黒い狼のような悪霊がそこには居た。その身から溢れる妖力は、大したものでも無いように見える。
「ウオゥッ!」
飛び掛かって来た狼。俺はそれを避けることも無く、霊力を通した剣で真っ二つに斬り裂いた。
「……意味あるのか、これ?」
何というか、弱すぎる。特に何の経験にもならなかった。
「いや」
俺は少し歩き、木々の裏側に隠された入口を発見した。別に扉があった訳でも洞窟があった訳でも無く……
「正に秘境だな」
山奥の更に奥。木々に隠された裏側の領域に入り込んだ俺は、入れ替わった空気に目を細める。見た目としてはさっきまでの森と大して変わらないが、雰囲気は全く違う。
「早速か」
俺の肩に何かが触れようとするのに気付き、俺は振り向きながら剣を振るう。霊力を通した剣はその霊体を容易く斬り裂いた。
「ォォォォ……!」
「他にも居るな」
囲まれた。なるほど、こっちが本命ってことか。
「これなら、多少は練習になりそうだな」
「ォォォ……!!」
「グラァアアアアアアッ!」
俺は剣を構え、無数の悪霊を前に霊力を練り上げた。
♢
霊界とでも言うべきか、悪霊の無数に居る空間の中を突き進んでいくと、何か大きな存在が居ることが分かった。
「こいつか」
そこに居たのは、鬼だった。大きな角の生えた、巨体の鬼。小高い場所にある岩の上に座っていたそいつは、俺に気付くと直ぐに動き始めた。
「グォオオオオオオオッ!!」
「ッ!」
こいつは、中々だな。さっきまでの狼やらとは全く訳が違う。
「正に、悪鬼だな」
そうして、俺が目の前の鬼を観察しようとした瞬間。後ろの方から溢れる霊力と人の気配が近付いて来るのが分かった。
「不味いな」
俺は即座に私用空間に手を突っ込み、仮面を取り出した。黒い不気味な仮面は、嘘でも何でも無く呪いの仮面だ。
「そこの方、大丈夫ですか!?」
振り下ろされる鬼の拳を避けながら後ろを振り向くと、そこには青い髪を伸ばし、刀を握っている少女が居た。
「ッ!?」
俺の顔……というか、仮面を見た少女は面食らい、一瞬動きを硬直させた。
「あ、あの、この任務は陰陽寮から私に任せられているもので、その……」
「分かった」
察してはいたが、蘆屋の言っていた悪霊というのはあの狼だったらしい。俺はその場から消え、そして少し離れた場所から見守ることにした。
見守ると言えば聞こえは良いが、単純に俺以外の陰陽師の技を見ておきたいというだけだ。
「は、速い……多分、今の同業者ですよね」
俺が何処に消えたか首を振って探す素振りを見せた少女だったが、目の前の鬼を無視する訳にも行かず、刀を構えた。
「ふぅぅ……十蓮 碧、参るッ!」
胸元で九字を切った少女は、振り下ろされる鬼の腕を一太刀で斬り落とした。