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 戦闘術式を使用すれば、演算能力は大幅に引き上げられ、陰陽道に関する処理に関しても最適化出来る。周囲の環境を確認した上で術を使用することも容易で、環境に依存したり利用する術も多い陰陽道は更にその真価を発揮できるようになる。


「どうだ。悪くないだろ?」


「確かに凄いけど……門人試合ではそれ使えないからね、君?」


 何?


「そうか……流石に、魔術過ぎるか」


「うん。魔術の構造を利用する術とか、霊術と合わせて運用するようなものなら兎も角……それは魔術そのもの過ぎるんじゃないかなぁ」


 一応、戦闘術式は魔術以外の技術も利用されちゃいるんだが……まぁ、陰陽道の力は一切使ってないな。


「となると、門人試合は陰陽道以外使えないんだな?」


「んー、どうなんだろ……はっきり陰陽道以外は禁止なんてルールは聞いたこと無いけど、流石に趣旨的には良くないと思う」


 まぁ、これで白い目で見られるのは俺よりも蘆屋だろうからな。止めといた方が良いか。俺としても、戦闘術式の力を利用して勝ち抜いたところで無意味だ。


「ただ、闘気とか魔力自体は普通に使われてたりするし……完全な魔術だとダメかなってくらい」


「闘気は良いのか」


「これは歴史の話になっちゃうけど……闘気を使う陰陽師は昔から割と居たらしいから、闘気が陰陽道の技術かって言うより、歴史的背景から闘気はオッケーなだけだと思う」


「意外と曖昧なんだな、そこら辺」


「うん。実際、しっかりルールで禁止されてる訳じゃなくて暗黙の了解ってだけだからね」


 それに、魔術と陰陽道は両立するのも大変な上にそこまで両立する意味も無いが、陰陽道と闘気は同時に習得して意味のある物ではあるからな。闘気はオッケーなのも理解はできる。


「ただ、闘気だけで倒しちゃうとかは……流石にアレかも」


「分かってる」


 正直、闘気だけの本気で戦えば門人試合という場で負ける気はしないが、俺にとっても実りのある場にはならないだろう。飽くまで陰陽道については素人である俺が、学ぶ心意気を捨てて挑むつもりは無い。


(寧ろ、出来るだけ相手の技や能力を見たいところだな)


 陰陽道は流派や家によって使う技が全く違ったりするらしいので、門人試合でも色んな技を見させて貰おう。


「しかし、戦闘術式無しでこのレベルの陰陽道を使えるように練習をする必要があるな」


「それか、その術式の構造を出来るだけ陰陽道で再現するとかね」


 戦闘術式を陰陽道で再現、か。


「難しいとは思うけど、僕も全力で協力するよ? ……僕も、知りたいし」


「なら、やるか」


 蘆屋が手を貸してくれるなら、まぁ出来るだろう。






 ♦




 勇から話された戦闘術式の構造は、はっきり言って意味が分からなかった。大して魔術に詳しくない僕でも、勇の力によってそれを記憶することは出来た。けど、理解出来てる訳じゃない。

 分かったことは、飽くまであれは勇の為の術式であって他人が模倣すること自体難しいモノだってことだ。


「……期待には応えないとね」


 稀代の天才陰陽師として、僕は何としてもあの戦闘術式の構造を陰陽師の技として再現する必要があった。勇は多分、僕を信用してくれてる筈だ。じゃないと、こんな術の構造を簡単に開示してくれる訳が無い。


「どのくらい、かかるかな」


 僕は暗い部屋の扉を閉めた。蝋燭に灯る青い炎だけがこの部屋を照らしている。


「使わせて貰うけど……技術の発展の為だから、文句ないよね。ご先祖様」


 運び出していた資料や道具が転がるそこそこの大きさの空間。それぞれの方角に張りつけられた式符を全て起動し、僕はすり足で中心に格子状の陣を描いた。


「起動」


 瞬間、僕の頭が冴え渡っていくのが分かった。霊力が沸き立つようだ。この状態なら、あのダンタリオンにすら勝てる気がする。


「ふぅ……先ずは、式神からね」


 とは言え、この状態はここに居る間しか続かない。ここを出れば、僕は普段通りの僕に戻るだろう。それどころか、ちょっとの間頭痛に悩まされるかも知れない。


「『式神召喚』」


 地面に並んでいた式符達が一斉に起動する。それらは自ら舞い上がり、簡易的な人の形に変わって浮遊する。形代のようなそれらは、僕の作業を手伝う為の式神だ。


「さて、翻訳だね」


 魔術を陰陽道に置き換える。その作業から始めよう。そのままだと勿論術として成立しないような物が出来上がると思うけど、第一段階としてはそれで十分だ。


「『シロ』」


 懐から式符が飛び出し、文字が抜け落ちて真っ白な鴉が現れる。術に関して一番詳しいのはシロだから、シロにも手伝って貰う。


「シロ、今から式神全体で僕の思考を共有するから……分割して、この魔術を翻訳するよ」


「はッ、全力で取り組ませて頂きますッ!」


 必要そうな魔術の知識自体は勇から貰ってはいる。ただ、言ってしまえばそれは辞書を貰っただけだ。翻訳する為には、それと照らし合わせて少しずつ読解していく必要がある。


「大変だけど……頑張ろっか」


 今日でどれくらい進められるか分からないけど、明日会うまでに……翻訳くらいは終わらせないとね。

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