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才覚

 またあの竹林に呼び出された俺は、蘆屋からの教えを受けながら修行に励んでいた。


「良し……取り敢えず、基礎霊術は大体出来るようになったな」


「凄いよ、勇。神童なんて呼ばれてた僕でも、基礎霊術をマスターするのは勇よりちょっと遅かったし」


 俺の場合は魔術によるブーストや、使い魔達の解析した結果を直接共有されてる上でこの速度だからな。逆に、何も無しで一日二日で霊術を扱えるようになったこいつが異常だ。


「じゃあ、陰陽道なんだけど……霊術との違いは何か分かる?」


「単純に霊力を運用する術じゃないってことだな。霊術はそのまま霊力を操る術だが、陰陽道は言ってしまえば霊術を含めた様々な技を利用する術だ」


 俺の答えを聞いて満足したのか、蘆屋はこくりと頷いた。


「ま、大体そうだね。正確に言えば、古今東西から集めた様々な術を体系化し、一個の技術として確立したものかな。ただ、基本的には霊術が主体って感じ」


 俺の認識と相違は無いな。


「じゃあ、陰陽道の中で魔術を扱うこともあるってことか?」


「んー、大分邪道ではあると思うけど……まぁ、魔術の考え方を利用する術なんかは普通にあるよ」


 基本的に魔術とは別個のモノってことだな。


「どっちかっていうと、取り込まれてる技術でメインなのは呪術とか仙術とかかな? 後は、妖怪の妖術なんかを参考にしてる技とかもあるね」


 飽くまで東洋の技術が多いのかも知れないな。


「で、早速なんだけど……陰陽道の術、使ってみよっか」


「どうすれば良い?」


 蘆屋は懐から一枚の式符を取り出し、俺に渡した。


「最も基本的で簡単な陰陽道の使い方。それは、式符を起動すること。それだけだよ」


 俺は墨で文字が書かれた紙を観察して術の構造を理解した後、蘆屋に貰った本に書いてあった通りに、霊力を文字をなぞるようにして流す。


「『焼炎球』」


 式符に刻まれた墨文字がチリチリと焼け、そのまま式符ごと灰になる。それと同時に、俺の目の前から火球が現れて真っ直ぐ飛び、竹にぶつかって弾ける。


「んー、及第点かな」


「満点には何が足りなかったんだ?」


 蘆屋は同じ術の式符を取り出し、ひらりと見せた。


「発動速度」


 式符に書かれた文字に一瞬で霊力が走り、式符は焼け落ちて火球が放たれる。確かに、俺よりも倍以上発動が速い。


「術を理解するのに時間がかかるのは仕方ないけど、霊力を通すの自体は慣れれば一瞬で行けるから」


「要練習だな」


 こくりと蘆屋は頷いた。


「それで、次は式符を使わない陰陽道なんだけど……」


 蘆屋は少し悩んだ後、手印を結んで見せた。


「『木生火(もくしょうか)』」


 蘆屋が術を唱えると、竹の一本が突然燃え上がった。俺が見た本にも書いてあった、最も基本的な術の一つだ。


「術の構造自体は知ってるよね? やってみてよ」


「まぁ、やってみるが」


 俺は記憶している術を自分用に調整し、構築した。


「『木生火』」


 周囲の竹の足元が凄まじい勢いで燃え上がり、一瞬にして俺達は黒煙に囲まれる。


「ちょっ、えぇっ!?」


「すまん、ミスった」


 蘆屋は焦りながらも術を発動し、俺の起こしてしまった火を全て消し去った。


「ミスったせいで術が崩壊して暴発したってところだな」


「いや……暴発にしてもこんなことになるのは見たこと無いってば」


 まぁ、明らかに別の術ってレベルだもんな。


「だが、どういうミスをしたのかは分かってる」


「こ、今度はいける?」


 俺は再び手印を結び、術を構築する。


「『木生火』」


 次の瞬間、消火されたばかりの竹が爆発した。


「うわっ!? ねぇ、勇!?」


「……仕方ない」


 切り札を使おう。


「戦闘術式、展開」


 これなら、ミスは無い。






 ♦




 陰陽師の世界には、空前絶後の素質を持つ才子が生まれていた。悪い妖や良からぬ考えを持つ者に見つからぬよう、陰陽寮の中で徹底的に隠されて育ったその男子の名は、文辻(あやつじ) 陽能(ひのう)

 生まれは弱小な陰陽師の家で、陰陽道の才能も大して無いような子であったが……陽能は、()()()()()頭が良く、膨大な霊力を持っていた。


「……土御門様」


 そして、陽能は文辻家の下では無く、陰陽寮を纏め上げる名家である土御門家の下で……土御門家の嫡子である土御門善也の弟子として陰陽道を学んでいた。


「善也様」


「ん? あぁ、はいはい。どうした?」


 スマホを触っていた善也は気の無い返事を返すが、陽能は嫌な顔もせずに話を続ける。


「私はもう十二になりました」


「知ってるけど」


「今年は門人試合に出なければなりません」


「だなぁ」


 善也はスマホをポケットにしまい、陽能を見た。


「そんなに気合入れてるのか? 別に門人試合なんて最初は負けるもんだぞ?」


「それでも、本気で取り組みたいと考えております」


 善也は溜息を吐き、立ち上がる。


「まぁ、確かに……お前を初戦敗退なんてさせたら俺も天明さんにどやされるしなぁ」


 ぶつぶつと呟くと、善也は笑みを浮かべ始めた。


「それに、もし門人試合でいきなり卒業なんかさせられたら……俺も一人前の陰陽師になれる訳だよな」


「そうですよ。善也様にも箔が付きますから」


「そうなったら、今まで以上に俺は自由に色々やれる訳だし……何より、干炉より先に一人前だ」


 くつくつと笑い、善也は部屋の出口に向かって行く。


「じゃあ、ちょっと何教えるかとかは考えとくよ。お前も自分で修業しとくようにな」


「はい、勿論です」


 善也は背を向け、部屋から去っていった。


「……ははっ、ちょろ」


 一人残された陽能は、閉じられた扉を見て嘲るように笑った。

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