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陰陽道

 蘆屋干炉。陰陽師の女だ。本人曰く、陰陽寮に属していない陰陽師の同年代では一番優秀らしい。そんな蘆屋に、俺は陰陽道についての教えを乞うことになった。


「おはよ」


「あぁ」


 蘆屋に指定された場所は、人里から離れた竹林の中だ。どこか神秘的な雰囲気が漂っており、精霊も多い。


「ここ、良い感じでしょ? 霊力の修行をするには持って来いの場所なんだよね」


 蘆屋はこちらに振り向き、ふっと微笑む。


「じゃあ、早速だけど……手、出して」


 そう言って、蘆屋は手を開いて出した。俺はそこに手を合わせる。すると、蘆屋は俺の手を掴み、出来るだけ隙間が生まれないように握った。


「良し、じゃあ行くよ……ほい」


「ッ」


 蘆屋の霊力が流れ込んで来る。体内に入り込んだそれを、俺は速やかに解析していく。


「……魂か」


 その力の本質を理解した俺は、体内を巡る蘆屋の霊力を少しずつ浸蝕し、俺自身の霊力へと変貌させていく。


「なるほどな……魔力とは、随分違う」


 どちらかと言えば、気に近いな。魔力は単なるエネルギーだが、闘気や霊力は肉体、精神、霊魂と密接に関わる力だ。


「こんな感じ、か」


「ッ!」


 俺の体から、白い霊力が溢れ出す。蘆屋の霊力を俺の霊力に変換できたお陰で、お手本というか、答えは出来上がっていた。


「どうだ?」


「凄い! 速いよっ! めっちゃセンスあるよ勇!」


 珍しいな。大体、こういう場面で俺はセンスが無い方だと言われて来たんだが。世辞を言っているだけの

可能性もあるが……俺は最初から魂や精神を知覚していたからな、その分速かったんだろう。


「似た力を知ってただけだ。言っとくが、俺自体のセンスは無い」


「へぇ? まぁそう言うこともあるかな。精神体や思考体にそのまま基づく、純粋な霊力って意味なら感覚的に使える人も居るだろうし」


 ちょっと何言ってるのか分からないな。


「霊力ってのは、その名の通りの霊的エネルギーだからね。闘気はエーテル体によって作られて、感情によって増幅されるのに対して、霊力は精神と霊魂によって成立するエネルギーなんだ。僕達の操る霊力は、それ自体としては自然に存在する力では無いけど、加工されていない純粋な霊力なら末那識によって辿り着けることもあると思うよ」


「……」


 俺は閉口した。


「えっと、エーテル体ってのは分かりやすく言うと生命エネルギーそのものみたいな感じで、外部からエネルギーを集めたり、生命力を補助したり、更に高次元のエネルギーに接続する為の緩衝材的なもの。それで、末那識っていうのは人間の認識する八識の中の一つで、物理的感覚と意識の裏側にある潜在的自我みたいなもので、良く言われる言葉で言えば深層意識が近いかな」


「……なるほど」


 中々、険しい道だな。陰陽道。


「言っとくけど、今の内容がパッと分かるくらいには勉強してもらうからね?」


「可能な限り、善処する」


 俺が答えると、蘆屋はジトっとした目でこちらを睨んだ。


「まぁ、霊力が操れるなら取り敢えず基本的な霊術は使えるかな……簡単なことから教えていくから、ちゃんと付いて来なよ?」


「任せろ」


「一丁前な返事だなぁ……」


 蘆屋は溜息を吐き、手の平を上に向けてそこに霊力の球体を作り出した。


「先ずはこれだね。霊力の操作から行こっか。形成は霊力操作の基本。これが出来るまで、術は使えないよ」


「まぁ、簡単だな」


 俺は手の平の上に白い球体を浮かべた。霊力自体が加工品のようなものだからちょっと頭は使うが、この程度なら簡単だ。


「お、速い! 流石は勇、呑み込みが速いね!」


 今まで色んな力を操ってきたからな。これくらいはまだ余裕だ。


「本当ならもっと霊力操作をやらせてから術を教えると思うんだけど……まぁ、勇ならいけるよね」


「任せろ」


 蘆屋は若干目を細めた後、懐から小さな本を取り出した。


「はい、これ」


「何だ?」


 言いながらも、俺は本を受け取った。表紙には何も書かれていないその本を開くと、中にはびっしりと陰陽道の術やその解説が書かれていた。


「本当はおいそれと見せて良いモノじゃ無いんだけど、勇なら大丈夫でしょってことで」


「良いのか?」


 そこまで古い物では無いようで、書かれている文字も殆ど現代語と言って差し支えないだろう。専門用語は多いが、これは蘆屋に聞いていけば良いだろう。


「うん。別に激ヤバな秘伝書って訳でも無いしね。それで……ほら、先ずはここ。基礎霊術からね」


「これか?」


 さっき作ったような白い霊力の球体を作り出し、射出する術だ。指を差して確認すると、蘆屋はこくりと頷いた。


「…………こうか」


 俺は手を突き出し、本に書かれていた術を再現した。魔術と似ているが、力自体の扱いが魔力よりも少し難しいし、術としてもやや複雑だ。


「ッ!」


「ちょっ!?」


 俺の手の平から放たれた霊力の球体は、想定されていた物よりも遥かに大きく、物凄い勢いで放たれたそれは、竹林の一部を無残に破壊した。


「おかしいな。何でだ?」


「え、詠唱してよ! 最初っから無詠唱なんかするからだって!」


 蘆屋はぶつくさ言いながら壊れた竹林に手を翳し、元の状態に再生させる。


「いや、術としては詠唱に関係なく完成されてた筈なんだが……」


 俺はもう一度腕を構えなおし、今度は本に書かれていた通りの文言を読み上げた。


「『出でよ、行け。白霊球』」


 詠唱が完了すると、さっきよりはマシだがクソデカい霊力の球体が竹林を抉っていった。

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