晩飯
色々と不可思議というか、不自然に思うこともあったが、取り敢えず紫園との話は終結した。これで結社関連の面倒事はもう無いだろう。無い筈だ。
「美味いな」
「ふふ、ありがとうございます」
今日の晩飯はメイアが担当だ。別に当番を決めてやっている訳では無いが、何となくのローテーションが生まれつつある。因みに、カラスは料理は作らない。
「マスター、ネットの様子は見ていますか?」
「いや、知らんな」
ネットの様子ってなんだ。スマホを使ってる以上、ブラウザも使ってはいるが。
「インターネット掲示板とか、後はネット記事も色々上がってますね。魔術結社に対して追及する声もあります」
「……結社は何て言ってるんだ?」
「事実確認の最中とのことです」
まぁ、そうなるだろうな。
「正体、バレても知りませんからね?」
「バレる要素が無いだろ」
声くらいだな、バレるとしても。後は身長とかか?
「うめぇな! メイア、これなんていう奴だ?」
「麻婆豆腐よ」
「へぇ、うめぇな」
ステラは呑気に話している二人を見て、溜息を吐いた。
「マスター、誰も言わないので言いますが、最近は慎重さが足りないと思います」
「それは俺も思う」
最初は躊躇してた転移も使いまくってるし、最初は最低限にしていた探知も余裕で使ってるしな。
「まぁ、正直に言うが……面倒臭いんだよな」
「分かりますが、マスター。自分で決めたことでは?」
それはそうなんだけどな。
「主様がもう隠す気は無いと決めたのならば、それでも良いと思いますけれど?」
「そうですね。バレても問題無いという方針であれば私も文句は言いませんが」
「カァ、面倒臭いだけだろ」
実際、面倒臭いだけだ。
「正体、バレたくは無いが隠す為に色々するのは面倒臭いんだよな」
それに、もう今更手遅れだろうというのはある。
「……マスターがそれで良いのであれば良いですが」
「主様。仮にバレても私がお守り致しますのでご安心下さいませ」
「最悪、ステラが居りゃあネット上の情報も大体消せんだろ」
結論が事後処理を頑張ろうになるのは申し訳ないが、俺は飽くまでそこそこ自由な生活を謳歌したい訳だ。好き放題暴れようとは思わないが、こそこそと生きていたいとも思わない。
「……美味いな」
「ふふ、ありがとうございます」
「露骨に話を逸らしましたね」
「露骨に話を逸らされた奴も居るな」
家に突撃してくるような奴も居ないからな。今のところは大丈夫だろう。
「メイアも、単純なのは美徳ではありませんよ」
「……うるさいわね。大体、私達は主様に従うのが絶対の僕よ? 意見を言うよりも、主様の行動が失敗にならないように自分が行動するのが先じゃない?」
「盲目な僕であるなら、私達はマスターの下位互換でしかありませんよ」
「主様は全知全能では無いわ。立場も私達とは違うし、体も一つしか無いのよ。だから、下位互換の私達にだって出来ることはあるわよ」
この二人はいつも行動を共にするほど仲が良いが、喧嘩も多い。
「やめてくれ。俺は下位互換だと思ってお前らを作ってないし、今までもそう思ったことは無い。何より、お前らの方が俺よりも頭が良い筈だ」
「ッ、そんなことはありません! 私達よりも主様の方が優れた知能をお持ちです!」
「確かに、私の天才的な知能はマスターを凌駕しています」
ステラが言うと、メイアは怒りの形相で睨み付けた。
「ステラッ! 主様に対しての無礼が過ぎるわッ! そもそも、貴方は主様にどうだこうだと言ってるけど……大嶽丸を倒した後、調子に乗って必要以上に目立つようなことをした貴方が言えることでは無いでしょう?」
「……まるで痛い所を突かれたような気分ですよ」
「カァ、まるでって何だよ」
そういえば、そんなこともあったな。確かにあの時はフィーバーしてたなこいつは。
「お互い、調子に乗らずに行きましょう。マスター」
「俺は調子に乗った覚えは無いんだけどな」
まぁ、蘆屋とのあれこれも控えてるからな。気を付けるべきところは気を付けていこう。