コラボ
球体型のドローンがその青い目で映し出すのは、何処かも分からない紫色の空間に立つミミと、その横に立つ黒髪の女だ。女の顔は白色の仮面で覆われている。
「ふふ、皆さんこんにちは」
「おはぴょん、ミミです!」
配信が始まると、視聴者たちは直ぐにその様子のおかしさに気付いた。
”え、誰?”
”コラボ? なんか場所キモくね?”
”また仮面かよww”
”なんかすげぇ怪しいんだけど雰囲気”
”ミミちゃん、ちょっといつもと違う!!”
コメントが流れるのを見て、女はフッと笑みを零す。
「大丈夫よ、みんな安心して……これはただのコラボ配信だから、ね?」
「はい! ただのコラボ配信ですよ~!」
いつもと同じような笑顔に見えるミミだが、それは女の洗脳によって作られた偽物の笑顔だ。
「皆、私が誰か気になってると思うけど……私はミミちゃんと個人的な親交を持つハンターで、噂の仮面の男の知り合いよ」
”だから同じ仮面なのかw”
”マジ? 仮面の男も来る?”
”この前の襲撃と関係ある説無いか……?”
”操られてるとかどうとか仮面が言ってたからな……ミミちゃんも心配だわ”
”ミミちゃん元気ない?”
「ふふ、皆疑ってるみたいだけど心配しないで。だって、私がミミちゃんに危害を加えるなら……こんな配信しても意味ないって思わない?」
「ですです! 私は全然大丈夫ですよ!」
”それはそう”
”良いから仮面についての情報キボンヌ”
”怪しげな喋り方やめてね”
”一応通報した”
”仮面取って”
「さて、じゃあちょっと……皆が気になってる仮面の男を呼んでみようかしら」
女は仮面の下で笑みを浮かべ、スマホを取り出した。
「じゃあ、かけるわね?」
スマホが数回揺れた後、電話が取られ……女は配信の音をミュートにした。
♦
蘆屋との話が進み、気が付けば時間は昼に差し掛かろうとしていた。
「じゃあ、取り敢えず受ける方向で進めるか」
「うん、よろしくね」
後は天明に話を付けるだけだが、まぁアイツなら寧ろ喜んで受けてくれるだろう。
「どうする? もうお昼だし……なんか作ってあげよっか?」
「いや、大丈夫だ」
「別に、遠慮しなくて良いけど?」
「どうせ、飯は使い魔が作ってくれるからな」
それに俺も飯を作るのは結構得意だ。自信があるのは炒飯くらいだが。
「そう……? まぁ、僕は別にどっちでも良いけどさ」
「あんまり、他人の世話になるのは好きじゃないんだ」
俺は借りを作るのが得意じゃない。まぁ、そんなのは誰でも同じことだろうが。
Prrr……電話の音がポケットから鳴り響いた。
「勇、着信音とか設定しないんだね」
「俺がすると思うか?」
俺は電話を取り、耳にスマホを当てた。
「どうした?」
電話の主はミミだった。大したことのない話だったら即切りしようと思っている。
「――――ふふ、こんにちは」
あぁ、クソ電話だった。
「誰だ?」
「貴方に仲間を傷付けられた人間……かしらね?」
俺に仲間を傷付けられた人間、か。心当たりが多過ぎて何とも言えないな。
「せめてどこの組織の人間とか教えて貰えないか?」
「それは出来ないけど……もう少しヒントを上げると、貴方が記憶を操作した子達が居るでしょう?」
俺が記憶を操作した奴、か。心当たりが多過ぎて何とも言えないな。
「すまん、もう少しヒントをくれ」
「……貴方ねぇ」
溜息を吐く女。喋り方の割に、声は若めだ。俺よりは上だとは思うが。それに、音質が悪いのか若干くぐもって聞こえるな。
「まぁ、取り敢えず会って話をしましょう」
「もう行って良いのか?」
電話越しに場所はもう探知出来たが。
「……恐ろしいわね。先に伝えておくけど、私はミミと貴方の情報を人質に取ってるわ」
「俺の情報?」
ミミが人質に取られてそうなのは察していたが、俺の情報となると面倒だな。
「今、ミミちゃんのチャンネルで配信をしてるんだけれど……私に手を出せば、配信を見ている私の仲間が貴方の情報を直ぐに拡散するわ。話題の仮面の男の正体となれば、興味を持つ人は沢山居るでしょうね?」
話題なのか。嫌だな。
「分かった。取り敢えず、行って良いんだな?」
「ふふ、平和的に解決出来ることを祈ってるわ」
俺は電話を切り、溜息を一つ吐き出した。
「という訳で、俺はもう帰るぞ」
「なんか、大変そうじゃない?」
俺は頷き、立ち上がった。
「あぁ……面倒な用事が、一つ入った所だ」
「手伝ってあげよっか?」
俺は首を振り、片手を上げた。
「まぁ、多分大丈夫だ。行ってくる」
「えぇ~?」
俺は手を下ろし、目を閉じてその場から消えた。