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活路を探せ

 頂上へと続く段を登っていくミミ。切り開かれた台地のようなその場所は、端を赤く燃えるような紅葉に囲まれていた。


「……出ましたね」


 頂上へと登り切ったミミの目の前に、何も無い場所から現れたのは紅葉のように鮮やかな赤色の鎧を身に纏った武士。二メートル近い大太刀を携え、真っ赤な鬼の仮面によってその顔は隠され、その他の部分も黒い布によって隠され、一切の肌の露出は無い。


「鬼武者さんっ!」


 ”おぉぉ! 遂に挑むのか!”

 ”強さとしては二級異界でも相当なレベルの魔物だからな。勝てたら実質二級”

 ”え、大丈夫なの?”

 ”師匠がいるとは言え、流石にミミちゃん心配”

 ”大丈夫だぞお前ら。鬼武者は滅多に人を殺さん”


 滅多にって何だよ。偶に殺すのかよ。ミミを睨み、闘気を溢れさせる鬼武者。俺はそれを見て目を細めた。


「……なるほどな」


 そもそも、魔物じゃないのかこいつ。この異界と一体化し、精霊に近くなった亡霊と言ったところだろう。


「……ォォ」


「闘気が……ビンビンです」


 亡霊らしい呻き声を上げる鬼武者、溢れる闘気にミミは驚きながらも、退きはしない。ただ冷静に、鬼武者の動きを見ている。


 ”始まるぞ……!”

 ”すげぇ、ドキドキする”

 ”同接目に見えて増えてきたw”


 鬼武者が動き出す。ゆっくりと大太刀を鞘から抜き、構え……一歩、一歩、間合いを詰めていく。


「ォォ」


「ッ!」


 鬼武者が踏み込んだ。ミミは間合いを見誤っていた。鬼武者の歩幅と刀の長さ。それを見ていたミミは、数メートルを一気に詰めるその踏み込みによって相手の世界へと引き摺り込まれる。


 ”はっや!?”

 ”瞬間移動!?”

 ”でも、避けた!”


 正に紙一重だ。後ろに上体を逸らしたミミは、何とか鬼武者の刃を避けることに成功した。そのままミミは後ろに跳び退き、ナイフを握り締めて構える。


「ォォ……」


「もう、不意打ちは喰らいません……!」


 鬼武者がさっきのように踏み込み、薙ぎ払うように斬りかかる。しかし、ミミはそれを飛び越えて避け、擦れ違い様に鬼武者の首を斬ろうとする。


「ォォ」


「流石に一筋縄ではいきませんか……だったら、こっちからも揺さぶらせて貰いますっ!」


 ミミの姿がかき消える。舞台のような頂上の縁を覆う木々を利用し、何度も飛び跳ねて鬼武者を攪乱する。


「ォォ……」


 刀を構え、何とかミミを捉え続けようとする鬼武者。その背後から一本のナイフが投げつけられた。


「ォォ」


「ここですッ!!」


 振り向きながら太刀を振るい、そのナイフを弾く鬼武者。しかし、それと同時に斜め後ろからミミが迫り、手に持ったナイフを振り上げる。真っ赤に染まった刃には、ミミの持つ闘気の殆どが籠められていることが分かる。


「はぁあああああああッッ!!!」


 全ての闘気が籠められたその一撃は、正に賭けだ。だが、判断としては悪くない。ミミのスピードでも、真正面から鬼武者に勝つのは難しい。だったら、動きが見切られていない今の内に殺しにかかるのは十分アリだ。


「ォ」


 振り上げられたナイフは、鬼武者の首を斬り裂いた。決して浅くない。闘気のほぼ全てを賭けられたその刃は、確かに鬼武者の首を覆う鎧ごと斬り裂くことが出来た。


「ォォ……ッ!」


「ッ、そんな!?」


 だが、刃が斬り裂いたのはその首の半分程までだった。咄嗟に頭を動かした鬼武者は、ミミの攻撃を即死から遠ざけた。


 ”クッソマジかッ!?”

 ”うわ届かんかったー”

 ”おっっしいいいいいいい!!!!”

 ”でも、今のもっかいやればいけんじゃね!?”

 ”無理だろ。あそこまでナイフが赤くなるってことは、相当闘気使ってる”

 ”え、大丈夫だよな? 死ぬこと無いんよな?”


 それでも普通の人間なら死に至る筈の傷だが、鬼武者は未だ動き、ミミを睨み付けた。


「……ォォ」


 だが、その動きは僅かに鈍っている。傷が再生しているようなことも無い。ダメージは確かに与えられてはいるのだ。


「まだ、諦めない……!」


 ナイフを構え、気炎を吐くミミ。燃え上がる闘志により、一度は失われた闘気が沸き上がっていく。闘気は自身の感情によって励起し、増幅する。


「良く見て、冷静に……狙う!」


「ォォ」


 鈍る動き。しかしバランスを崩すことはなく鬼武者は斬りかかる。それを回避したミミだが、後ろに避けることを予見していたのか鬼武者は更に前に出ながら太刀を振るう。


「……隙が無い、ですね」


 太刀を振るい切った後の隙を無くすように、鬼武者は適切な距離感を保ちながら戦っている。生身の人間ならスタミナ切れを狙うことも出来たかも知れないが、目の前の怪物にスタミナの概念は無いように見える。


「でも」


 ミミは紙一重で鬼武者の太刀を避け、笑みを浮かべた。


「見えました」


 赤い目が、光る。


「活路が」


 鬼武者が真正面から踏み込み、ミミに向けて思い切り太刀を振り下ろす。

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