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弟子入り

 後日、俺は別の五級異界に来ていた。森の中を駆け巡りながら、目当ての魔物を狩り尽くしていく。


「今週中には四級、だな」


 一応怪しくない程度には調整しているからな。一日で昇格出来る量の素材を持っていくことは無い。とは言え、何か月もかけるつもりは無いからな。一週間で一等級ずつ上げていけば良いだろう。


「意外と、三級でもこのくらいは行けるらしいからな」


 因みに、今は顔も気配も隠していないが、身体能力に関しては三級相当まで落としている。ステラの言う通り、DLiveの配信は参考になった。俺の今の身体性能は、自身を三級と言っていたミミと同程度だろう。このペースで狩って行けば、最終的には目標としている三級の基準で自然に等級を上げられるという訳だ。


「ガァゥッ!」


「邪魔だ」


 お前は目当ての敵じゃない。俺は飛び掛かって来た虎のような魔物を真っ二つに斬り裂いた。



 プルルル……鳴り響く電話の音に、俺は眉を顰めつつもスマホを取り出した。


「何だ?」


『やっほー、元気?』


 電話の主は蘆屋。俺は死臭に釣られて近付いて来る魔物達の気配に溜息を吐く。


「あぁ。悪いが今は……まぁ良いか。用件は何だ?」


『僕との約束、ちゃんと覚えてる?』


「……あー、弟子がどうとか言ってたな」


『そう! 何か、アメリカ辺りの騒動も落ち着いたみたいだし……アレも、勇がやったんでしょ?』


 その言い方だと、俺が騒動を起こしたみたいだな。


「騒動を収めた側って話なら、少しな」


『やっぱり……流石』


 今回に関しても、俺が出なくとももしかすればどうにかなってたかも知れないがな。ニャルラトホテプの思惑通りに世界が破滅の危機を迎えれば、神々が呼び起こされ、この世界に顕現し……力を合わせてアザトースをねじ伏せられるかも知れない。実際、一度は封印に成功しているらしいからな。


『それで、どう? 僕の弟子になってくれる準備は出来た?』


「……まぁ、忙しいと言えば忙しいが、暇と言えば暇だな」


 別に昇格なんてのは緊急の要件でも無いしな。もうウィルの手を借りない為の修行として……ん、いや待てよ。


「霊力、か」


『ん? うん、霊力は陰陽道の力の源だけど』


 新たな力を手に入れるというのは、強くなる為の手段としては悪くない。


「良し、分かった」


『おぉっ、それじゃ――――』


 答えようとした瞬間、木の上から何かが飛び出して来たことに気付いた。






 ♦




 赤く染まった目。ミミは容易くゴリラの動きを見切り、瞬間的にさっきまでの数倍の速度で動き出す。


「ウォゥッ!!」


「残念ながら……」


 ミミのは跳躍して振るわれる大腕を回避し、そのまま宙返りでゴリラの背後へと回る。


「おしまいですっ!」


 スパリ、ゴリラの太い首が一閃で落とされた。


「当たったら私でも無事じゃ済まないですけど……ふふん、当たらなければどうと言うことはない!」


 ”速すぎるっぴ!”

 ”飛びながら切った……?”

 ”カレッジゴリラの首を一太刀て。あの刀身のナイフで良く斬れたな”

 ”すげぇええええええええええ!!?”

 ”ミミちゃんカッコイイー! そして超カワイイー!”


 ミミはナイフで空を切り、軽く血を払うと、それを空高く真上に放り投げた。


「さて、後は解体だけなので……」


 ぱしっと落ちてきたナイフを掴み、ミミはポーズを取る。


「今日の配信はここまでっ! 皆、またね~!」


 ”おー、お疲れ~!”

 ”楽しかった~!”

 ”やっぱ無双回が一番好き”

 ”かっこかわいいミミちゃん今日も最高だった!”

 ”あんなことあったのに戦えるなんてミミちゃん凄い!”


 ミミは最後のコメントを見てふっと笑みを浮かべると、手を振ってドローンに配信を終了させた。


「……意外と、皆気付かないもんだよね~」


 ミミはナイフを握ったまま震える手を見下ろし、布でその刃を拭った。


「容量は足りてるし……解体は帰ってからで良いかな」


 斜め向きで背中にピタリと張り付くような縦長のバッグを肩から外し、チャックを開いてゴリラの死体を足から詰め込んでいく。見た目とは全く容量が異なるそのバッグは、あっという間に巨大な死体を呑み込んでしまった。


「……また、会いたいな」


 ミミはバッグを背中に戻すと、来た道を戻るように歩き始める。


「んっ」


 ミミの超強力な聴覚が、その声を捉えた。


「気のせいじゃない……」


 ミミは微笑みを浮かべながら、勢い良く飛び上がり、木々の上を今日最速の走りで駆け抜けていく。



「――――やっぱりっ、居た!」



 そこに居たのは、電話を片手に剣を持って大量の魔物を相手に戦う男の姿。鬱陶しそうに魔物を斬り払っていた男は、喜色満面で飛び跳ねて来るミミに気付くと、更に鬱陶しそうに溜息を吐いた。


「あの……私を弟子にして下さいっ!」


「悪いが、俺も今弟子になったところだ」


 ミミは目の前で口をぽかんと開けて固まった。

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