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ミミ

 青いレンズの付いた銀色の球体、浮遊するそのドローンの前に屈む少女は、ミミだ。


「よっし、おっけーぃ!」


 ミミは見事な動きで後ろに翻り、自身の全身が映る画角まで離れるとポーズを取った。周囲は森に囲まれた異界だが、ミミの周囲に置かれた退魔石によって魔物は寄ってきていない。


「おはぴょん! ミミで~すっ! 勇気凛凛っ、元気溌剌っ、意気揚々! って感じで~っ!」


 ”おはぴょん!!!”

 ”ミミちゃん!”

 ”おはぴょん!”

 ”おはぴょん!”

 ”わこつ~”

 ”ミミちゃんおはぴょんー! 元気そうで良かった~泣”


「一日眠って完全復活っ! 皆、心配してくれてたからさ~! めっちゃ速いけど復帰報告配信ってことです!」


 ”良かった~!”

 ”あの人って誰か分かりました?”

 ”マジ嬉しい”

 "報告配信感謝!!"

 ”生きてて偉い!!!”


 うんうんと頷き、ミミは兎耳を揺らして笑う。


「結構さ~、トラウマになっちゃったんじゃないか~? とか、もうダンジョンとか異界には潜らないんじゃないか~? ってのを見たから、安心させたいなって思っちゃいました! どう!? 安心した~皆?」


 ”めっちゃ安心した!”

 ”ありがと~”

 ”感謝のDチップ送りまくっちゃうよ~ん!w”

 ”ミミちゃん大好きー!”

 ”正直めっちゃ心配した”


「ふっふふっ、そっかそっか~! そうだよね~! 心配かけてごめん!」


 ”全然! ミミちゃんが元気ならそれがいちばん!”

 ”あの人って誰か分かりました?”

 ”ミミちゃんが戦ってるところまた見たい!!”

 ”本当に生きてて良かった!”

 ”ミミちゃんがこうやって話せてるだけで俺は嬉しい”


「という訳で、今日はリハビリって訳じゃないけど……五級の異界で暴れていきたいと思いますっ! 皆、応援よろしくね~っ!」


 ”おぉ、ミミちゃん無双が見れる!”

 ”〈削除されたチャットです〉”

 ”兎人の異能はアクロバティックで配信映えするんだよな~”

 ”無双回嬉しい!!”

 ”キター!”


 ミミは退魔石をササッと拾うと、地面に置かれていたリュックサックの中にあった専用の容器に詰め込み、リュックを背負った。


「いよーしっ、れっつごー!」


 ミミはカメラににこっと笑みを見せると、片腕を上げて森の奥に進んでいく。ドローンはふわりと浮き上がり、少し離れたローアングルからミミを追いかけていく。


「ん、早速来ましたね~!」


 木陰からゴブリンが顔を出し、石製のナイフを持って殴り掛かって来る。


「ふふふんっ、遅すぎです!」


 ミミは振り下ろされるナイフを見切り、敢えてスレスレで回避して跳躍し、背後に回りながら首筋を蹴りつけた。


「ぐ、ぎゃ……」


 一撃で首を半分程まで凹まされ、首辺りの骨がぐちゃぐちゃにめり込んだゴブリンは、小さな呻き声を上げてから絶命した。


 ”すんげー、ワンパン”

 ”ゴブリンとか雑魚でしょ。何が凄いのか分からん”

 ”一概にゴブリンっつっても異界毎に強さは違うぞ”

 ”ゴブリン雑魚とか言ってるエアプハンターは帰れなw”

 ”蹴りの威力えっぐぅ……”


「む……」


 ピクピクと兎耳を動かし、ミミは眉を顰める。


「どうやら、近くに仲間が何体か居たみたいですね……」


 ミミはドローンを地面に転がすと、自身は地面から幾つか石ころを拾い、木の上へと一息で飛び乗った。


「グギャ……?」


「グギャグギャ!」


 現れた八体のゴブリンは仲間の死体を見つけて騒いでいたが、地面に転がるドローンに興味を惹かれ、青いレンズと目を合わせる。


「グギャッ!?」


 ゴブリンの頭が突然弾ける。時速500kmを超える石弾。それは、木の上のミミが投擲した石だ。


「グギッ」


「グギャギャ!?」


 次々に、ゴブリンはミミを見つけられぬままに処理されていく。


「これでラストっ!」


「ギャッ!?」


 残った一匹のゴブリンは、木の上から飛び降りて来たミミの踵落としによって潰された。


「ふふんっ、私の華麗なる暗殺劇を見ましたか!?」


 ”見た―!”

 ”あの投石、何キロ出てんだよ……”

 ”もはやゴブリンが可哀想なレベル”

 ”クリップしました!”

 ”ぐろいけどかっけぇ……グロいけど”


 ミミはチャット欄を見るとにししと満足そうに笑った。


「知ってます? 人間って投擲が得意な構造をしてるんですよ? つまり、そこにパワーを併せ持つ人型の獣は最強ってことですっ!」


 そういって自分を指差すミミは、チャット欄と会話しながら森の中を進んでいく。そこから何度も魔物と遭遇しては狩ってを続けていたミミは、眉を顰めて立ち止まる。


「ん、良い感じのが来ましたね……これ倒したら今日の配信はおしまいにしますか」


 現れたのは、自然界に存在するそれよりも一回りほど大きなゴリラだ。白い毛がちらちらと混ざるその容姿からは、気品すらも感じられる。


「ウォオオオオオッ!!」


「ちょっとだけ、本気出しちゃいますか~?」


 ミミはニヤリと笑い、腰の後ろに手を回し、鞘からナイフを引き抜いた。咆哮を上げながら突撃してくるゴリラのような魔物は、その場から動かないミミに思い切り大腕を振るう。


「ふふ」


 ミミの目が、赤く染まった。

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― 新着の感想 ―
わぁ…白うさぎってお目目が赤いですねぇ!
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