表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
381/487

DLiver

 ダンジョンで死に掛けてた変な女を拾った俺は、帰り道を……つまり、俺が来た道を案内していた。


「アンタ、何級なんだ? 五級って感じには見えないが」


「ふふふんっ、何を隠そう私は三級ハンターですよっ! 上位数パーセントっ、一握りの精鋭って訳です!」


 やっぱりそうか。五級よりは強そうに見えた。


「しかし、何で三級のアンタが五級の異界に居たんだ? ここより稼ぎの良い場所はあるんだろ?」


「軽く異界で役立つグッズの紹介をしてたんです。しかも、案件で……」


 道具の紹介だから、余裕のある格下の異界に行ってたって話か。


「じゃあ、案件は潰れたってことになるな」


「なんてこと言うんですかっ! まだ私の配信フェイズは終了してませんよ!?」


 そうか。まぁ、勝手にやってくれ。


「そろそろ出口だ。俺は帰るが、これ以上何かあっても知らないぞ」


「大丈夫です! 一つの異界に二つ以上のダンジョンが出来ることは基本的にありませんから! 特に、ここみたいな規模の大きくない異界だと絶対無い筈です!」


 流石の俺も、もう一個ダンジョンが生まれてまた呑み込まれるとは思ってないが。


「ダンジョンが発生したての異界は不安定になるって話を聞いたことがあるが」


「そうですけど、発生して直ぐのダンジョンから魔物が溢れ出ることは無いから大丈夫ですっ! それに、どっちにしても私は誰かがこのダンジョンに入らないか見張ってないといけませんから……知らずに五級のハンターさんが入っちゃったら、死ぬこと請け合いです」


 死ぬこと請け合いって何だよ。だが、偉いな。思ったよりしっかりしてる奴らしい。口調的に頭の軽い奴かと思っていたが。


「協会への通報も私がしておきますから、ご安心くださいな!」


「頼んだ」


 俺は頷き、光の指す出口を指差した。


「ほら、あそこだ」


「……まさか、生きて帰れるとは思いませんでした」


 少しふらつきながら外に出るミミは、陽の光を浴びて涙を零した。


「……ぅ……ぃやぁ……中々、堪えましたよ……正直」


「まぁ、溜まったもんじゃないよな」


 いきなりダンジョンが発生して呑み込まれるとか、理不尽も良い所だ。まぁ、その理不尽が原因で最強になってる奴も知っているが。


「改めて……本当に、ありがとうございました」


「別に、気にしなくて良い」


 キャラに似合わず深く頭を下げるミミ。俺はドローンがじっとこちらを見ていることに気付き、視線を逸らした。


「お名前、こっそり伺っても良いですか?」


「……名乗る程の者じゃない」


 俺が言うと、ミミはぷっと噴き出した。


「ふふ、意外と冗談言うタイプなんですねっ!」


「冗談は割と好きな方だぞ、俺は」


 こっちに来てからは割と落ち着いてるが、向こうでは結構冗談を言ってた気がする。


「必ずお礼はしに行くので……待ってて下さいね?」


「遠慮しておく」


 俺はそう返し、ぶつくさ言うミミを残してその場から去った。




 ♢




 家に帰ると、直ぐにステラが駆け寄って来た。


「マスター、やっちゃいましたね?」


「さっきの配信者のことか?」


 ステラの言葉に心当たりのあった俺は、直ぐに問い返した。


「そうです。ミミちゃんなんて超有名配信者なんですから、あんなことして目立たない訳無いでしょう。ネット掲示板でも既に捜索スレなんかが立ち上がってますよ?」


「そう言われてもな、知らなかった……というか、覚えて無かったんだ」


 確かにテレビで出てたくらいの有名人なんだろうが、DLiveだかDドライブだかの配信サイトを見ていない俺が良く知らないのも仕方ないだろう。


「だから、見といた方が良いですよって私は言ったんですけどね?」


「言ってたな……」


 だが、時既に遅しだ。


「俺が思うに、過去を振り返るよりもこれからどうするかを考えた方が良い」


「……マスター」


 ジト目で見てくるステラ。俺は怯むことなく話を続ける。


「だが、顔にはモザイクもかかる上に名前も話してない。バレる要素は皆無だ。帰る時も透明化して帰ったからな。後はこの服を着なければ完璧だ」


「ですが、確実に探されるかと。声なんかはそのままですし、身長とか体格もそのまま、髪型もギリギリ分かるかも知れないラインです」


「心配し過ぎだ、ステラ」


 今まで、もっと派手にヤバいことをやってきた俺が、今更こんなことで世間に露見する訳が無い。


「……熱心なSNSユーザーから追われるのは、思ったよりもハードですよ?」


「経験がありそうな口振りだな」


 俺が言うと、ステラは嫌そうな顔をした。嫌な思い出があるらしい。


「まぁ、とは言え最近気が抜けてたのは事実ではあるな」


 昔なら絶対に透明化した上で助けるか、遠隔で助けていた。面倒臭がってあんなに雑に助けることはない。


「マスターが良いなら私も別に良いですし、何ならそっちの方が個人的には面白そうですが、こそこそと生きたいと願ったのは他ならぬマスターでしょう?」


「言い方が悪いな」


 別にこそこそ生きたい訳じゃねえよ俺は。


「何はともあれ、今後は気を付ける」


「ご自分の為を思うなら、気を付けた方がよろしいかと」


 俺は頷き、自分の部屋に逃げ込んだ。


「……入れとくか、DLive」


 ベッドに寝転がって仰向けでスマホを弄り、俺は例の配信アプリをダウンロードした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ