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祝勝会

 再びこの世界には平和が訪れた。玉藻達の活躍が目立つと同時に不法入国も当然バレたが、緊急時と言うこともありお咎めナシとなった。寧ろ、玉藻に関してはアメリカで凄まじい人気を誇っているらしい。ケモナーが多いのかも知れない。

 因みに、俺に関しては存在すらも気付かれていない。アメリカ本土では何もしていないので当然だが。


「カァ、うめぇ! うめぇ!」


「おい、あんまり大声で騒ぐなよ」


 という訳で、俺達は祝勝会的なノリで寿司を食いに来ていた。天明に連れて来られた高級寿司だが、個室なので多少なら騒いでも大丈夫だろう。


「主様、お酒が無くなっているようですが……」


「あぁ、大丈夫だ。酒はもう良い」


 俺はメイアに手を振り、空になったコップを水で満たした。


「マスター、赤貝はもう食べましたか?」


「いや、食ってないが」


「では、頼んでおきますね」


 何でだよ。別に頼んでも良いが。


「おい、瓢。お主はもっと飲め。それでも妖怪の総大将か貴様は」


「あはは、玉藻。言っとくけど、お寿司屋さんって別に飲みまくるような場所じゃないからね?」


「貴様、玉藻様の酒が呑めないと言うか!!」


 若干青筋を浮かべた瓢は玉藻がちらつかせる酒瓶を押し退け、怒りの表情で睨み付ける弥胡を無視すると鮪を口の中に放り込んだ。


「師匠、美味しい?」


「ふむ……悪くない!」


 アステラスはにやりと笑い、大きく頷いた。


「それで、忍者殿。俺が思うに、天暁会というのは……」


「意外とこういう場で真面目な話をするタイプでござるなお主。周りを見るでござる。全員普通に飯食っておるでござるよ」


「忍者。アンタ、ここでそんな言葉遣いしてて良いのか? バレるぞ?」


「別に何もバレんでござるよ。拙者が忍者であると分かったとして、それでどうするんでござるか? 結局、忍者という肩書は正体を隠す盾でしかござらん」


 まぁ、こいつから具体的な情報を抜けるような奴はそう居ないだろうな。


「割と店員さんの出入りも多いからね。真面目な話をするのには意外と向いてないのかもね」


 店員は頻繁に部屋を出入りするが、空気を読んでいるのかネタだけを告げて干渉せずに出て行く。とは言え、秘密話は流石に出来ないよな。クトゥルフ関連の話なんて出来る訳も無い。


「それでだ! 吾輩は弟子と力を合わせてその邪神をブラックホールで呑み込んでやったのだ!」


「カァ、そりゃすげぇな」


 普通に話してる奴も居るな。約一名。


「ほう? 吾は一人で十体は邪神を倒したぞ? それはもう、バッタバッタとな?」


「なんだと!?」


 あぁ、二名だった。


「言っておきますが、最も被害を出していた敵性体であるショゴス達を殆ど処理したのは私達ですからね?」


 俺が間違ってた。馬鹿しか居なかった。


「ふん、語るに落ちたの。最も被害を出していると自分で言っておるではないか」


「ッ、随分と大物面しているようですが、大ボスはマスターが倒していますし、アブホースも殆どアステラスの活躍で撃破出来たようなものでしょう? もしかして、大して何もしていないのでは?」


「なッ、貴様――――」


「貴様ァッ!!! 玉藻様に何という無礼をッ!!? 死んで非礼を詫びなさいッ!! 介錯無しで腹を切るが良いですッ!!!」


 席を立とうとした玉藻の横で、弥胡が勢いよく立ち上がってステラは睨み付ける。玉藻は微妙そうな顔になり、僅かに浮いていた腰を下ろした。


「あー、弥胡よ。落ち着くのじゃ。このような下らん挑発で感情的にならんで良い」


「ッ、流石は玉藻様……懐の広さが大海のようです」


 こいつもキレかけてたけどな。自分よりキレてる奴を見て冷静になっただけで。


「皆、喧嘩は駄目だよー! 折角祝勝会なんだから、楽しく食べて飲まないと! ほら、うるさくし過ぎるとお店にも迷惑だし」


「そうだぞ。俺の行きつけの店だからな。頼むから迷惑かけるのは勘弁してくれ」


 場を落ち着けようとする瑠奈と天明。忍者は完全に気配を消すことにしたらしい。


「うふふ、主様。野蛮な奴らは無視して私達だけでお寿司を楽しみましょう? ほら、私が防音の結界を張りますから……」


「貴様ッ、今玉藻様のことを野蛮と言ったか!?」


 頼むから、結界を張ってから言って欲しかったな。


「カァ、愉快だな!」


「お前が一番楽しそうだな、カラス」


 こいつは気を遣う訳でも無く、自分が怒る訳でも無く、馬鹿を肴に酒を飲んでいる。結局、野次馬やってる奴が一番勝ち組って訳だな。まぁ、俺も人のこと言えないか。


「結界を張りましたので、うるさい狐は無視して飲みましょうね? 主様」


「ねぇ、勇! お話しようよ!」


 平然と結界の中に入り込み、俺の背に抱き着いた瑠奈をメイアは信じられないものを見るような目で見る。


「良くも私と主様の空間を……!」


「え? 皆で話したら良いじゃん」


 メイアは硬直し、瑠奈はとんとんと俺の肩を叩く。


「アザトース倒したんだよね!? 倒しちゃったんだよね!!? どうやって倒したか教えてっ! 教えて教えて!!」


「聖剣で斬り殺した」


「うわぁ、一言!」


 瑠奈はべたべたと俺の体に纏わりつき、それを見てメイアは怒りの形相を浮かべる。


「私の主様にベタベタと触れないでッ! そもそも、食事中に席を立つのはマナーがなってないわッ!」


「確かに、こういうとこだと良くないよね……ごめんね?」


 言いながら、瑠奈は防音の結界を崩した。


「ッ、何勝手に壊してるのかしら!?」


「だって、これがあったら座ったまま勇と話せないでしょ!?」


「それが目的なんだから当たり前でしょう!?」


「えぇ!? いじわる!!」


 俺は目を瞑り、背もたれに体を預けた。


「今日は長くなりそうだな」


「あはは、僕的にはその方が嬉しいかな。ちゃんと宴まで付いて来なよ?」


 瓢が言うと、玉藻がニヤリと笑って頷いた。


「……今日は寝れそうにないな」


 俺は溜息を吐き、今は寿司を楽しむことにした。

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