灰色
黄金色の光を放つ、満月のような巨大な球体。天井付近に浮かんだそれは、暗い洞窟の中を煌々と照らす。
「試作段階だけど……どうかな!?」
「ぐッ、なんだこれ、は……!」
その光を浴びたアブホースは動きを鈍らせ、思わず片手で光を防ぐ。それは、瑠奈が開発した新たな固有魔術であり、神に対して特効を持つ魔術だ。今回は邪神だけに効果範囲を狭めている。
「消滅させるまでは行かないみたいだけど……十分、効いてる!」
「ッ、覆い隠せッ!」
三方向から迫る白い炎の輪をアブホースは何とか飛び退いて回避し、目を逸らしながら黄金色の月を指差した。すると、ゲートが月の上に開いてそこから大量の落とし子達が流れ込み、月を覆い隠してしまった。
「食らえッ!」
「邪魔だッ!」
飛び掛かるように背後から槍を振り下ろすノーデンス。アブホースは振り返ることも無く片腕を触手に変形させて打ち付け、吹き飛ばす。
「鬱陶しい月など、破壊してやるッ!」
アブホースの腕が槍のように伸び、落とし子で覆い隠されていた月を一撃で破壊した。
「『神妖術・白火天剣羅』」
玉藻の術により無数の白い炎の剣が浮かび、雨のようにアブホースに降りしきる。しかし、アブホースは凄まじい動きでそれら全てを回避し、次の瞬間には瑠奈の眼前まで移動していた。
「ッ!」
「チッ」
振り下ろされる刃と化した腕を、瑠奈はギリギリ避けながら転移でその場から消える。アブホースは舌打ちし、次の狙いを定めた。
「お前だ」
弥胡に狙いを定めたアブホース。しかし、その行く手を阻むように玉藻が現れ、扇王刀を振り下ろす。
「貴様は後だ。面倒だからな」
「逃げる気か……ッ!」
三陽輪がアブホースを狙うが、掠りもせずにアブホースはそれを回避する。
「雑魚から殺すだけだ」
「待てッ!」
弥胡の前に現れ、両腕を刃に変えて振り下ろすアブホース。既に殺気を感じ、狙われていることに気付いていた弥胡は、アブホースが現れると同時に霊体化して後方に高速移動した。
「が、ぽェ」
「ッ!」
だが、その移動先に立っていたアブホースの落とし子が弥胡に襲い掛かる。
「がぽッ!?」
「危ない……ッ!」
体全体が牙と化していた落とし子は、その腕で弥胡に食らいつこうとするも回避され、薙刀で叩き潰された。
「数が……」
周囲を見回すと、既に弥胡は落とし子達に囲まれていた。薙刀を振り回し、黄金色の炎を撒き散らした。炎に焼かれ、落とし子は容易く消されていくが、その数は減る気配が見えない。
「――――ヌォオオオオオオオオオッ!!」
追い打ちをかけるように、ゲートから巨大な怪物が現れた。それは、アナグマのような顔をした巨大な灰色のトカゲだ。毛むくじゃらの体には粘液が滴っており、可愛げのある顔から覗く牙は恐ろしい螺旋状のものだ。
「漸く来たか、トーブ! 蹴散らしてしまえッ!」
トーブと呼ばれたその怪物は、丸い目をぎょろりと動かし、標的を狙い定めた。
「ヌォオオンッ!!」
「私ねッ!」
標的は瑠奈だ。トーブが大口を開けると、螺旋状の牙が奇妙に伸びて、ドリルのように瑠奈に迫る。黄金色の剣で牙を切り裂く瑠奈だが、関係なく牙は伸び続けて瑠奈を狙い、斬られた破片は礫となって襲い掛かる。
「面倒臭い……ッ!」
黒き海を呼び寄せ、礫と牙から自分を庇った瑠奈は、背後にアブホースが立っていることに気付けなかった。
「避けろ人の子ッ!!」
「えッ!?」
刃と化したアブホースの腕がその首を斬り落とそうとしたところを瓢が間に入り、ギリギリで瑠奈を擦り抜けさせることに成功した。
「忘れたのか?」
「ッ!」
瓢はお互いを別々の方向に空間ごと擦り抜けさせ、遠距離まで転移させる。
「――――もう、お前は殺せるぞ」
転移先を読んでいたかのように現れたアブホースは、ぶくぶくと腕から灰色の泡を吹き出させ、その刃を瓢に突き刺した。
「がはッ!?」
「終わりだ」
何とか擦り抜けで離れた場所に逃れた瓢だが、瞬きするよりも早くアブホースはそれについて来る。
「死ね」
「ッ」
振り下ろされる刃。能力の発動も間に合わず、その刃は瓢の脳天を捉え……
「――――吾輩、参上ッ!!」
虹色の光が、灰色を吹き飛ばした。




