親子対決
アメリカから手を引き、ゲートを通って洞窟へと帰っていく落とし子達。
「くふふッ、やってみよ邪神風情ッ!!」
「自分が強者と勘違いするなよッ、狐風情がッ!!」
アブホースの振り下ろす爪を、三つの白い炎の輪が受け止める。その隙を玉藻の手に握られた扇王刀が斬り裂き、アブホースの腕は斬り落とされた。
「幾ら再生を阻害しようが……無意味だと知れ!」
落とされた腕はまた新たな怪物となり、玉藻達に牙を剥く。腕は再生し、アブホースはまた竜の爪を振り回す。
「いいや、無意味では無いぞアブホース。神力も魔力も削り落とされ、貴様自身のリソースはどんどんと減っている」
「黙れッ!!」
貝殻のチャリオットから降りたノーデンスは、無数に槍を生み出してアブホースに放った。
「旧神風情が……ッ!」
「風情風情って、見下すしか能が無いのかな?」
それを迎撃しようとアブホースの体から伸びる無数の触手。しかし、瓢はその槍の一つを掴んで荒ぶる触手達を擦り抜けながらアブホースの体に突き刺した。
「ッ、貴様もいい加減にしろ……こうだろう」
「おっと」
自壊していく灰色の手が瓢の足元から伸びて、崩れ落ちながらも瓢を掴もうとする。瓢は冷や汗を垂らしながら、それを跳んで回避した。
「でも、良いのかな? そんなことに神力を使ってさ」
「良い……どうせ、貴様らはもう終わりだからな」
瞬間、ここに繋がる洞窟の各穴から大量の落とし子達が灰色の濁流のように流れ込んで来た。
「ッ、このタイミングは厄介だね……!」
「私の黒き海を回すけど……全然足りないかもッ!」
あちらこちらから流れ込んで来る落とし子達。この広い空洞に開いた無数の穴の全てをカバーできる程の規模は黒き海には無かった。
「ふん、当たり前だ……我が子らは全ての海を覆い尽くしてしまえる程に多い。眠っていた者共も含め、このドリームランドの各地から、全員がここに押し寄せているのだ」
「ッ、それほどまでに産んでいたとは……!」
ノーデンスは戦慄したような表情を浮かべ、流れ込む落とし子達とアブホースで視線を迷わせる。
「一旦、全員集合だッ! ここを脱出するよ!」
「ッ、穴は全て吾が塞ぐ! ここでこいつは倒し切るべきじゃろう!」
白い炎で落とし子を焼き尽くしながらもアブホースと相対している玉藻は、余裕が無い中でも声を上げた。
「いいや、脱出しかない。ここはアブホースの巣だ。穴を塞いだところで新しい穴が生まれるか、例のゲートが作られるだけだよ。それに、もう目的はある程度達成してる」
地上から敵が引いた今、戻っても問題ないと瓢は言う。実際、玉藻達は劣勢だ。
「でも、ここを逃して本当に大丈夫!? 今度は私達がこの世界に入れなくなったら……」
「戦うべきです、瓢」
黄金色の炎が嵐の如く吹き荒れ、落とし子達を薙ぎ払って行く。
「これだけの戦力が集まれた機会を逃せば……二度とこいつは殺せない、です」
「……分かった」
瓢は自身の体から妖力を滲み出させ、透明に揺らぐ刀の形を作り上げた。
「戦おう」
刀を手に取った瓢は、アブホースを睨み付けた。
「良いのか、小僧ッ! 貴様の殺し方はもう分かっているのだぞッ!!」
「あはは、やけに逃げて欲しそうだね」
瓢は空間を擦り抜けてアブホースの眼前まで移動し、その刀を振り下ろした。透明な刀は触れた部分だけを削り取ったように消し去り、アブホースは目を見開く。
「もしかして、君もビビってたりする?」
「ッ、貴様ァアアアアアアアッッ!!」
灰色の手が地面から無数に生え、瓢を掴もうとする。転移によってそれを回避した瓢、まだ追いかけようと血眼になるアブホースを、白い炎が殴りつけた。
「吾の美貌から目を離すとは、贅沢な奴め」
「黙れ狐がッ!!」
怒りに震えるアブホースの体が、ぐにゃりと歪む。それは竜の姿から縮んでいき、まるで人のように変化する。
「図体が大きくても攻撃を食らうだけだ……ここからは、そう簡単に当てられると思うな」
灰色一色の男に変形したアブホースは、その手を玉藻に向けて伸ばした。
「ッ!」
腕がぐにゃりと変形し、無数の触手となって凄まじい速度で玉藻に迫る。三つの白い炎の輪がそれを迎撃し、それでも潜り抜けて来た数本の触手を玉藻は扇王刀で斬り裂いた。
「どうだッ、さっきよりも速いだろうッ!」
「『金霊砲』」
玉藻に飛び掛かるアブホースの動きを予測していた弥胡はその動線上に黄金色の奔流を放ち、アブホースの進路を阻んだ。
「ッ、鬱陶しいぞ……!」
「『金霊疾駆』」
苛立ちながら弥胡へと触手を放つアブホース。しかし、弥胡は黄金色の残像だけを残してその場から消えた。
「『郷愁浮かぶ黄金月』」
瑠奈が呪文を唱えると、洞窟の天井付近に巨大な球体が浮かぶ。まるで満月のようなそれは、黄金色の光を放っていた。




