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灰色の竜

 灰色の竜は大きく息を吸い込むと、煌々と光る灰色の炎を吐き出した。神力の込められたその炎は、空間そのものを不安定に歪めながら玉藻達へと迫る。


「僕が防ぐ」


 前に出た瓢は、揺らめく妖力を盾のように展開した。炎はその妖力に触れた側から消失していき、アブホースのブレスは防がれた形になった。


「ん、結構消耗しちゃったな……何度もブレスは撃たれると厳しいかもね」


「分かっておる!」


 ブレスが途切れた直後、瓢の前を玉藻が駆け抜けて行き、その背後から無数の虹の星が追いかけるように向かって行く。


「砕け散れッ!」


「無駄じゃ!」


 鞭のように振るわれる大きな尻尾が、蒼い炎を羽衣のように纏った玉藻を狙う。しかし、玉藻の姿は蒼い炎そのものと化してその場から消え、アブホースの頭上に現れた。


「『蒼炎烙隕』」


 蒼い炎が球体となり、隕石のようにアブホースの頭上に落ちる。続けて、虹の星達が一斉にアブホースへと殺到し、その全身に直撃していく。


「……下らん」


 しかし、蒼い炎も虹の星も、全てはアブホースの体に呑み込まれて消えてしまった。灰色の竜の体には傷一つ付いておらず、アブホースはつまらなそうに鼻を鳴らすだけだった。


「想像以上じゃな……!」


「神力の量だけで言えば、大嶽丸をも確実に超えています……!」


 玉藻は冷や汗を垂らし、その場から飛び退いた。元居た場所を、アブホースの全身から伸びた黒い触手が貫く。


「玉藻、やるしか無いよ」


「そのようじゃな……」


 玉藻は目を閉じ、胸に手を当てた。


「『全魂消費』」


 白い炎が溢れた。見たことも無い力に、食らいつこうとしていたアブホースも咄嗟に動きを止める。


「九尾の狐……知っておるかの?」


 九つの残機、全てを燃やして巨大な狐が現れた。白い炎を纏い、黄金色に輝く九尾の狐だ。その顔には赤い化粧が施され、狐でありながらも美しく、神々しく見える。


「神の力……そして、その奇妙な力が混ざり合っているな」


「妖力じゃ。人風情がどうとか言っておったが、吾と瓢は人間では無いのでな」


 睨み合う玉藻の頭上を虹の奔流が通り抜け、アブホースへと向かう。凄まじい魔力が籠められたそれでも、竜の皮膚を僅かに焼き焦がすだけだ。


「これでもダメか……吾輩が奴を殺すのは難しいかも知れんな」


 洞窟という空間の中で、仲間と共に戦うというのはアステラスにとって好条件とは言えなかった。味方への被弾を考えれば、アステラスが得意とする規模の大きい魔術は使えない。


「だが、サポートには回れる」


「ッ!」


 アブホースの全身に、凄まじい重力が襲い掛かる。何万倍という重力にアブホースは膝を突きそうになるが、神力によってそれを撥ね退けた。


「鬱陶しいぞ……ッ!」


 それでもアブホースを襲い続ける超重力。少しずつだが消耗していく神力に加え、夜によって吸われ続ける魔力。アブホースは苛立った様子を隠しもせず、アステラスに向かっていく。


「『神妖術・白炎牢縛』」


 飛び出したアブホースを白い炎が覆い尽くし、その場に留めようとする。しかし、二秒と経たずにアブホースはその拘束を突破した。


「『虹星流道(アステールレーン)』」


 真っ直ぐにアステラスへと向かっていたアブホースの道が、虹の光と共に逸らされる。歪んだ空間によって反対方向へと向けられたことに気付いたアブホースは、大きく息を吸い込んでブレスの準備を整えた。


「チャンスだ。瑠奈」


「ッ、あれだよね!」


 アステラスと瑠奈は通じ合い、お互いに触れて目を閉じた。思い浮かべるのは、あの炎星を追い払った時と同じ魔術だ。


「玉藻!」


「『白火天剣羅』」


 瓢の言葉に、玉藻は術を持って答えた。玉藻の周囲に白い炎の剣が無数に生み出され、アブホースへと向かって行く。しかし、それらはアブホースに触れる寸前で発生する黒い神力の障壁によって一つずつ防がれる。


「『鏡転同置(ミラーリング)』」


「ッ!?」


 灰色の竜が鏡映しのように、玉藻達の反対側にもう一体出現する。どちらも本物にしか見えないそれに、瓢は迷いながらも自身の妖力を広げて全員に浸透させようとするが、この空間ではやはり不可能と見て後方の竜の前に立った。


「グゥォオオオオオオオオオオオオッッ!!!」


 本物の竜の如き咆哮を上げながら放たれる灰色の炎は最初よりも勢いが強く、更には前後の両方から放たれた。


「『神妖術・地壊噴焔』」


「『五行・金水陰陣』」


 地面から白い炎が吹きあがって灰色の炎の行く手を阻み、それを超えて来た一部の炎を黄金色の水で構成された陣が防ぐ。


「さっきよりも強いね……!」


 後方から迫る炎は、瓢が最初のように一人で防いでいる。しかし、削れていく妖力に瓢は珍しく苦しそうな表情を浮かべている。


「もう、少し……ッ!」


「『彼方の地平線、赤き光も闇に消える』」


 詠唱の完成を目前に、瑠奈とアステラスは笑みを浮かべ……その目の前に、一人の女が現れた。



「――――悪いね、君には消えてもらうよ」



 ニャルラトホテプ。アステラスは即座にそれに気付き、女が手を翳すと同時に詠唱を中断して虹の星で女の頭と心臓を貫き、頭上から岩を落としてその肉体を潰した。


「く、ふふ……」


 だが、ニャルラトホテプの目的は既に達せられていた。アステラスの体は霞のようにその場から消えていく。睨み付けるアステラスに、ニャルラトホテプは笑いながら息絶えた。

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