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アブホース

 次元が破れて出来たような空間の穴に、瓢は自ら飛び込んだ。


「……洞窟?」


 瓢は群がって来る灰色の落とし子達を擦り抜けながら、周囲を観察した。分かったのは、そこが何の明かりも無い洞窟のような場所だということだった。


「どうやら、奥みたいだね」


 瓢は落とし子達がやって来る先を見据え、歩いて行く。中々移り変わることのない景色だったが、瓢は空間を擦り抜けて洞窟の奥まで転移した。



「――――誰、だ?」



 そこに居たのは……いや、あったのは灰色の水溜まりだった。端が見えない程に、巨大な。


「おい……誰だ、と聞いている」


 水溜りに数十メートル規模の巨大な目玉が開き、じろっと瓢を見た。


「おっかないなぁ……僕は瓢、人間じゃないよ」


「そうか。ここに来たこと、後悔するが良い」


 灰色の水溜りがばしゃりと飛沫を上げ、無数の大きな触手を生み出し、瓢に振るう。


「うーん、今のところは大丈夫そうかな……」


 振るわれる触手は瓢を擦り抜け、空振るだけだ。


「……貴様、何だ?」


「日本から来た、ヨウカイって奴さ」


 瓢は水溜りの前に屈むと、ぴちゃりとそこに手を触れた。その間にも、触手は瓢を擦り抜け続けている。


「残念、効かなそうかな」


「どうやら、物理的な攻撃は無意味なようだな」


 能力によってアブホースを纏めて飛ばしてやろうとした瓢だが、効かないとみると直ぐに立ち上がり、パッパと手を払った。


「魔術ならばどうだ?」


「同じことだよ」


 熱線が、闇が、冷気が、瓢に襲い掛かる。しかし、そのどれもが瓢を捉えることはない。


「ッ、魔術すらも透過するか」


『皆、入ってきて良いよ。入り口からびっしり敵が居るから、それだけ気を付けてね』


 目の前で呑気に無線を飛ばす瓢に、灰色の水溜りから巨大な手が伸びた。その手には神力が込められており、灰色の光を放っている。


「だから、効かないって」


「ッ、神の力まで!?」


 呆れるように言った瓢に、アブホースは驚愕する。


「さて、僕の能力が効かないのは……君と言う存在の境が曖昧だからって言うのと、単純に規模が大きすぎるからかな」


「ならば、これでどうだッ!」


 冷静に考察する瓢に、神力だけで構成された灰色の槍が放たれ……敢え無く、擦り抜けた。


「馬鹿なッ!?」


 アブホースは根本的に間違っている。神力をぶつけるのではなく、ぶつける為に神力を使う必要があるのだ。瓢を捉えるには、その為の術が必要だ。神力や魔力はそれを作る為の道具として利用すべきであって、ただ神力や魔力を力としてぶつけようとしても瓢には無意味だ。


「ん」


 瓢は何かに反応するように耳を少し傾け、それからニヤリと笑った。


「さて、待たせたね」


「何の話だ……ッ!」


 自分の力が通じずに苛立っているアブホースは乱雑に答えた。


「メインディッシュの登場さ」


 パチリと手を叩くと、瓢の後ろから玉藻達が転移によって現れた。


「ほう、まるで海のようじゃな」


「地下にある海、ですか。何とも不思議ですね」


「ッ、この波動……間違いなく、真の邪神。吾輩の憎むべき敵だ」


「確かに、今までのとはちょっと格が違うかも……!」


 玉藻、弥胡、アステラス、瑠奈。四人は目の前の水溜りに見えるそれが、邪神であることに一瞬で気付いた。


「来るよ」


「舐めるなよッ、小娘共がッ!!」


 無数の触手が荒れ狂い、玉藻達に襲い掛かった。しかし、その全員を瑠奈から溢れ出した黒い海が覆い庇った。


「ッ! またかッ、また防ぐかッ! 人間風情がッ!!」


 アブホースは最早怒り狂ったように叫び、その水溜りのような全身を波打たせた。


「面倒だが、仕方ない! 我が全身で呑み込んでやろう!」


 巨大な灰色の水溜りが、()()()()()()。まるで不自然な津波のように玉藻達の居る岸まで乗り出し、地面から数百メートルはある天井まで届く程の勢いで襲い掛かった。


「わわっ、やばいよッ!」


「逃げるのは無理だね。凌いだ方が良い」


 瓢の言葉に従い、瑠奈は黒き海で全員をドーム状に覆い、灰色の津波から守った。しかし、同時に外に出ることは不可能な状態にもなってしまった。


「えっと、ここからどうする……?」


「ふん、時間さえあればどうとでも出来るわ」


「その通りだ! 吾輩に任せておくが良い!」


詠唱に入るアステラスと玉藻。そんな中、黒き海のドームが不安定に揺れる。


「ッ、マズイよ……神力で貫通されちゃうかも」


「大丈夫、僕も居るからさ」


黒き海を貫き、開いた穴から迫る灰色の触手。しかし、瓢の妖力がその穴を塞ぐように栓をしていく。


「もう、殆ど全壊しちゃうよ……!」


「『(ニクタ)』」


「『葬想蒼火』」


 黒き海のそこかしこに穴が開き、灰色が直ぐそこまで迫っている中、洞窟の内側に()が広がり、蒼い炎が灰色を焼き払った。


「フハハハッ、これでここはもう吾輩のフィールドよ! 恐れるものなど何もない!」


「吾の炎は海であろうと延焼し、全てを燃やし尽くす。何も無ければ、これでもう終わりじゃ」


 蒼く燃え広がる灰色の海。端から端まで燃やし尽くすかとも思われたが、その海は急速に洞窟の奥の方へと引っ込んでいく。



「――――我こそは、不浄の源」



 見えなくなった灰色の海。その向こう側から、声が響く。


「沸き立つ灰の父。真なる神の一柱」


 そこかしこで燃え盛っていた蒼い炎が、吹き抜けた風と共に消え去る。


「舐めるなよ……人間」


 そこに立っていたのは、ドロドロとした灰色の液体で構成された竜。足元は爛れ落ちたように液体が広がり、体の表面に泡が立っては、奇妙な音を上げながら割れていく。


「神の力を、見せてやる」


 灰色の竜、その全身から神力の光が溢れた。

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