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落とし子達

 プラインとそっくりな怪物は、その顔に似合わない狂気的な笑みでプラインに迫った。


「そうだッ、僕に名前を付けてよパパ!」


「知らねぇよ。テメェなんかジョン・ドゥで十分だ」


 プラインは自身を囲む雑魚を切り捨てながらジョンの攻撃を潜り抜け、色以外は自分と同じ見た目をした怪物の肩を大きく斬り裂いた。しかし、その傷は一瞬にして再生する。


「ジョンね! 良い名前じゃんアハハハハハッ!!」


「皮肉ってもんを知らないらしいな」


 灰色の怪物は……ジョンは、さっきまでよりも捨て身でプラインに襲い掛かる。それは、今のダメージで自身の耐久力の高さを理解したからだ。


「チッ、鬱陶しいな……!」


「アハハハッ、首さえ守れば余裕ってワケだろ!?」


 ジョンは急所だけを守りながら、プラインを空中で追い詰める。押されていくプラインの背中を、灰色の矢が貫いた。


「ぐッ!?」


「ほら、弓だ! 君達が発明した技術を僕たちが掠め取って、君達を殺す! 良いとこどりって奴さ!」


 プラインが下を見下ろすと、地上を覆い尽くすような数の弓を構えた人型の怪物が居た。その弓も矢も、素材は怪物達自身だ。


「ほらッ、耐えられるかな!?」


「精度は、クソだが……ッ!」


 決して精度が良いとは言えない弓矢だが、幾ら下手でも数撃てば当たる。それはプラインと相対するジョンにも被弾しているが、再生力の差でプラインが不利になっていた。


(俺も再生能力自体はある方だが……矢を抜く暇がねぇ)


 更に、体の形状を自在に変化させられるジョンとは違い、プラインは飽くまでも鳥の器官を生み出し能力を扱えるだけだ。ジョンのように刺さった部分を溶かしてノータイムで矢を抜くような真似は出来なかった。


「ギャハッ!」


「ぐ、ッ!」


 身体中に刺さっていく矢によって、動きが阻害されているプライン。そこに、ジョンの鉤爪が振り下ろされ……胸を大きく抉った。


「仕方、ない……迎撃だ」


 プラインは胸を抑えることもなくカウンターでジョンを強く蹴り飛ばし、数十メートルは引き剥がした。


「『風切羽根(レメックス)』」


 大きく翼を広げるプライン。その中でも外側の最も大きな羽根が次々に抜けては生えを繰り返し、プラインを守るようにその周囲を飛ぶようになった。


「全部、撃ち落とせ」


 宙を舞う無数の羽根は、本来では有り得ない硬度を持って自動的に矢を迎え撃つ。全てが使い魔のような思考能力を持つ程の代物では無いが、それでも反射的にプラインを防護する程度は容易いだろう。


「必殺技を見せてくれたところで申し訳ないんだけど……アハハッ」


 嘲笑するジョン。プラインは悪寒と共にそれに気付き、背後から振り下ろされた鉤爪をギリギリで回避した。


「ッ、嘘だろ」


 そこには……いや、そこにも、プラインと同じ姿をした灰色の怪物が居た。更に、その奥にも同じ怪物の姿が見える。


「……三体、だと?」


 プラインはここにきて、最大の焦りを覚えた。例え切り札を切っても、この状況を打開し切れるかは分からない。寧ろ、時間と共にあの怪物は増え続けるだろう。


「クソッタレ」


 どこかの誰かが解決してくれるなんてのは、単なる希望的観測だった。プラインは絶望と共に吐き捨て、両手の鉤爪を構えた。


「アハハハハハッ!!」

「ハハハッ、ハハ! アハハハハハッ!!」

「ギャハッ、アハハハハハッ!!」


 囲む哄笑。プラインは吐き気と共に振り下ろされた鉤爪を弾き上げ、目の前の個体の胸を貫き、心臓を抉りながらその奥へと逃げ出した。


「付いてこれるなら、やってみろ!」


 プラインの姿がよりシュッとスタイリッシュに変化し、翼を広げて真っ直ぐに飛び始めた。その時速は二百キロに到達し、更に加速していく。


「……は?」


 追いかけるジョン達を引き離していくプライン。その目の前に、朽ち果てて萎びたような小さな赤子が現れた。頭髪も目も鼻も無く、全身が細かく罅割れたような網目状の皺に覆われている。


「ァ」


 その声が聞こえた頃には、プラインの体は固まったように動けなくなり、地面に落ちていく。


「『風切羽根(レメックス)』」


 動けないことに気付いてからの判断は極めて速かった。翼から放たれた羽根が、その赤子のようなナニカに襲い掛かる。


「ァ」


 しかし、矢の如く襲い掛かった羽根は赤子に近付くにつれて朽ち果て、触れる寸前で塵となった。


「ク、ソ……!」


 赤子は、ゆっくりと近付いて来る。地面に叩き付けられたプラインの真上から、ゆっくりと降りて来る。


「だめ、だ……から、だが……」


 呂律も上手く回らなくなっている。上を向いていた右手の鉤爪の先が……崩壊し、塵となって落ちた。


「ッ!」


 死ぬ。プラインは直感的に理解した。既に近くに到達しているジョン達も、遠くから様子を伺いながらも決して近付こうとはしない。無敵の生物にも思えるアイツらすらも恐れるのが、目の前に居る赤子のような怪物なのだ。プラインの頭に諦観にも近い考えが滲み出す。


「ァ」


 その邪神の名は、クァチル・ウタウス。だが、プラインはそれすらも知ることも無く、鉤爪の先から塵となって……


「『霊冥砲』」


 真横から突き抜けて来た青白い霊力の波動が、小さな邪神を丸ごと呑み込んだ。


「ハハハッ、ギリギリ間に合ったな! 今度こそは!」


 笑いながらプラインの目の前に現れた男は、アメリカには似合わない和装で全身を包んでいた。


「殺せ!」


「新手だ!」


「邪魔をしやがってッ!」


 その二人を囲むように、三方向からジョン達が襲い掛かる。


「ッ、不味い!」


「大丈夫だ」


 焦るプライン。しかし、和装の男、天明は空を指差して笑みを浮かべた。


「死ねよッ! アハハ――――」


 間近まで迫り、鉤爪を振り下ろすジョン達。三体の姿が、空から降って来た光の柱に呑み込まれて消えた。


「おぉ、意外とギリギリだったな」


「……何が起きてるんだ」


 ステラの砲撃によって寸前で消し飛ばされた怪物達。二人の足元に鉤爪の先端だけが転がり、プラインは何が何だか分からないまま息を吐き出した。

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