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強壮なる使者

 シュブ=ニグラスとかいう邪神を倒した俺は、ハスターと少しだけ話していた。


「つまり、さっきの奴は我々星の外より来たる神々の中でも強い力を持つ神だったということだ。屈辱だが、俺の本体と比べても倍は強い」


「……確か、一番強いのはアザトースかヨグ=ソトースだったよな?」


「そうだ。その二柱は他とは比べ物にならない力を持っている」


「そいつらは、まだ封印状態にあるってことで良いんだな?」


 ニャルラトホテプの性格的には、そいつらを出し渋っている可能性も有り得るが。


「ヨグ=ソトースは誰にも封じられてはいない。だが、恐らく積極的に関わってくることはしないだろう。地球の神々と戦争になった時も、殆ど介入してくることは無かった。下手すればアザトースよりも強い力を持つヨグ=ソトースが本気を出していれば……今頃、地球は侵略者である邪神達の手中に納まっていたかも知れないな」


「随分他人事のような言い方だが……アンタは地球の侵略には関わってなかったのか?」


 一応、こいつもクトゥルフ神話の神々の一柱の筈だ。その全員が地球を侵略していた訳じゃないのか?


「人類に何の危害も加えなかった訳では無いが、俺の敵はクトゥルフだった。アイツが地球の侵略に意欲的だった以上、俺は人類の味方をすることも少なく無かった訳だ」


「なるほどな……ところで、ヨグ=ソトースについては分かったが、アザトースの方はどうなんだ?」


 俺が蘆屋を通じて見たのは、恐らくアザトースだ。少なくともこの世から消え去ってはいないように思える。


「アザトースは他でもないニャルラトホテプによって封印されている。ニャルラトホテプが主導で巻き起こしている事件である以上、アザトースが動くことは無いだろうな」


「そうなのか。なら、普通に考えればアザトースが暴れるようなことは無さそうだな」


 とは言え、相手は俺達の人間的な思考からは逸脱しているように見えるニャルラトホテプだ。何が起こったっておかしくはない。



「――――さて、どうだろうか」



 俺達の横に、黒い影のような人型が現れた。纏っている服どころか、肌や眼球すら漆黒に染まっている。俺は直感的にそれがニャルラトホテプであると気付いたが、同時に今まで相対してきた化身達とは何かが違うとも感じていた。


「そもそも、私の願いは何だと考えている?」


「混沌、としか聞いていないな。具体的なところは分からない」


 他の化身達の話すところによると、この世に巻き起こる混沌を味わう為にこの混乱を引き起こしているらしいが。


「ははっ。まぁ、それはそうなんだが……それは飽くまでも私の趣味のようなものだ。本当の目的、つまり本体が願っているのは別さ」


「……何だ?」


 化身同士でも目的や考えが違うとは聞いていたが、本体と化身の間でもそういう乖離はあるのか。


「私がアザトースのお守りをしているという話はハスターから聞いただろう?」


「あぁ、アザトースを封印してるって話だな?」


「そうだ。それと……ここで、化身を通じて君に言った言葉は嘘じゃない。私を救って欲しい、この言葉はね」


「アンタにとっての救いってのは、何だ?」


 その言葉が嘘か本当かは、俺ですら見破れそうにない。


「余り耳を貸し過ぎるなよ」


「いや……()()は別だ」


 ここが転換点だ。俺の勇者としての勘が、そう告げている。


「私はね、もう疲れたんだ」


 微笑んだような雰囲気と共に、ニャルラトホテプは話し始めた。


「無限のような時間をアザトースを眠らせる為に浪費し、あの永劫の闇の中で踊り、歌い続けるのは……もう、限界だ」


「……そういうことか、ニャルラトホテプ」


 反応したのは、ハスターだった。


「故に、私は考えた。このアザトースを永遠に消し去るか、完全に封印する為の方法を」


「それが、この大惨事に繋がるのか?」


 ニャルラトホテプは、頷くこともせず話を続ける。


「その方法と言うのは……世界を危機に陥れ、かつて私達に勝利した神々を呼び起こすことだ」


 ……話が繋がったな。


「私は混沌を楽しむことを至上の喜びとしているが、虚無を願っている訳では無い。アザトースが蘇った後にあるのは、束の間の混沌とその先にある無限の虚無だけだ。それは、私の本意ではない。だから、アザトースを地球に解き放つつもりは無い……今のところはね」


「今のところは、だと?」


 随分、不穏な言い草だな。


「最初に言っただろう? 君達がアザトースが暴れることはないと話している時に、どうだろうね、と」


「言ってはいたが、どういうつもりだ?」


 虚無を望んでいる訳じゃないなら、アザトースを暴れさせる意味は分からない。


「もし、アザトースの召喚が神々を地上に顕現させる最後の一押しになり得るのなら……それを選択することも、有り得る話さ」


「文字通り、最後の手段って訳か」


 俺の言葉に、ニャルラトホテプは深く頷いた。

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