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グラーキ

 グラーキの持ちかけた約束。それは、天明の頭の中で催眠効果を持って反響する。


「分かった。呑もう」


 天明は迷くことなくあっさりとそれを受け入れてしまった。すると、天明の横の空間が揺らめき、そこに何かが現れる。


「ぬっふふ、知らないよぉ?」


「これも強者の責務という奴だ」


 グラーキだ。グラーキの三つの目がジロジロと天明の全身を舐め回す。天明は身じろぎ一つすることなく、目を瞑った。十二体の式神も動こうとはしない。


「あっそ。じゃあ、失礼するねェ~!?」


 近付きながら金属の棘を伸ばすグラーキを、天明は目を瞑ったまま待ち……プスリと、金属の棘が天明の頭を貫いた。


「はぁッ!?」


 だが、悲鳴を上げたのはグラーキだった。棘から逆流するように流れ出した霊力が、グラーキの体内へと侵入していく。


「ぐッ、お前ッ! 人質がどうなっても良いのか!?」


「ハハハッ、悪いが俺は大多数の為に犠牲を許容できる側の人間だッ!」


 豹変したように笑う天明は、額に突き刺さった金属の棘を、むしろ逃がさぬように強く掴んだ。


「ふ、ふざけるなッ、本当に全員殺すぞッ!!」


「致し方なしだ! どうせ、俺が操られれば全員助からん等と言うことは分かり切っているからな!」


 グラーキの体が内側から青い光を放ち、膨れ上がる。転移して逃れようとするも、体内に入り込んだ霊力に阻害されて発動できない。


「何より、お前を野放しにすればもっと死ぬだろう! 今ここに居る者達には申し訳ないが、お前はここで殺させて貰う!」


「ク、ソめ……ッ! 人間風情がッ、神であるこの僕にッッ!!!」


 十二体の式神がグラーキに刃を突き立て、全身を抑え込んでいる。


「何を言っている」


 天明は貫かれた額から血を流しながらも、片手で式符を取り出した。


「お前は、ただのナメクジだ」


 避けられない至近距離。式符が燃え落ち、天明の体から霊力が光る。


「や、やめッ」


「『霊冥砲』」


 青白い霊力の波動が、グラーキを丸ごと呑み込んだ。卵の怪物のような耐久力を持っていなかったグラーキは、一撃で全身を溶かし尽くされ、その肉体と魂は消滅した。


「やはり、己の保身が一番の相手だったな」


 自分の命の危機を前に、相手への嫌がらせ等が出来る相手では無いと天明は見抜いていた。塵も残さず消えたグラーキの居た場所を数秒見届けた後、天明は未だ救える可能性のあるゾンビ達へと視線を移した。






 ♦




 ニューヨークを駆け回り、殺戮を続けるその神性はイオド。だが、その実体はただの一度も顕現することは無く、異次元から人間の魂だけを狩り続けている。


「い、いやッ、また倒れたッ!」


「ここも安全じゃないのか!? これは呪いなのかッ!?」


 映画館の中に避難していた人間達の一人が、バタリと地面に倒れる。心臓は止まり、肺も動かず、だが脳だけは生かされている。

 イオドに狩られた者は魂を奪われ異次元に運ばれるが、その意識だけは脳に残る。眼も見えず、何の感覚も無く、体を動かすことも出来ないが、その死んだ体の中に未来永劫取り残され続けるのだ。

 終わりが来る時があるとすれば、己の体の中に魂が帰還し、肉体が蘇った時。若しくは脳か魂が破壊された時だけだろう。


『ク、クク……狩りは、楽しいな?』


 無数の魂が宙に浮かんだ光り輝く白い世界の中、異次元からそれを見下ろすイオド。その姿は巨大な複眼とロープ状の触手を持ち、粘液の滴る肉体は鱗に覆われ脈動するような強い光を発している。


『次の、獲物は……印は、どこだ』


 ニューヨークの住民に無作為に付けられた印、それを追って魂を奪い取るのがイオドの狩りだ。狩りと言ってもイオドにとっては安全で、ただ一方的なものでしかない。



「――――やぁ」



 その、筈だった。


『な、なッ、なァッ!?』


「君を狩りに来たよ」


 現れたのは、和装の少年。ぬらりひょんの瓢だ。


『あ、有り得ない……馬鹿なッ、どうやってッ!?』


「さぁね。世の中広し、色んな力を持ってる人が居るんだよ」


 瓢はゆっくりとイオドの方へ歩いて行く。


「まぁ、僕は人じゃないんだけどね」


『消、えろッ!』


 イオドが伸ばした無数の触手の先端から、緑色の光線が放たれる。


「残念」


『ッ、何故だ……!?』


 光線は瓢をすり抜け、瓢は笑みを浮かべながら近付いていく。


『に、逃げるしか……』


 背を向け、白い世界の中を飛んで逃れようとするイオド。瓢は空間そのものを擦り抜け、イオドの前方に現れる。


「無駄だよ」


『ッ!?』


 イオドへと手を伸ばす瓢。イオドはギリギリでその手を躱すが、根本的な解決にはならない。


「あはは、狩られる側の気分はどうかな?」


『ふざけるな……狩人は俺だッ、お前たちは獲物でしかないッ!』


 イオドは光と共にその場から消え、離れた場所に現れる。


『『輝ける神の矢(イオド・ナー)』』


 そこから瓢に向けて放たれた、光り輝く緑の結晶の矢。それは光の速さで白い世界を駆け抜け、瓢の額を貫き……擦り抜けていった。


「神力か……でも、駄目だね。そんな力押しじゃ僕には届かない」


『……馬鹿な』


 絶望したように動きを止めたイオド。その正面に現れた瓢は、光り輝く奇妙な肉体にその手で触れた。


「次はもっと真面目に考えて術を練りなよ。そうじゃないと、僕に傷は付けられない」


『ッ、これは……!?』


 イオドの体が一瞬にしてその場から消え去る。彼が何処に()()()()()のかは、彼らにしか分からない。


「ま、次なんて無いんだけどさ」


 瓢はふっと息を吐き、宙に浮かぶ無数の狩られた魂達を見上げた。

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